解剖・病態の理解医師監修医師国家試験

腹膜の立体構造から理解する消化管の固定と軸捻転

腹膜内臓器と後腹膜臓器の違いを、臓器名だけで覚えようとしていませんか。風船の比喩から始めて、腸間膜、消化管の可動性、軸捻転までつなげて考えてみましょう。

腹膜内臓器と後腹膜臓器の違いを、臓器名だけで覚えようとしていませんか。「腎臓もお腹の中にあるのに、なぜ後腹膜なのか」「胃から腸までは、全部同じところに入っているのではないか」。この疑問は、腹膜を立体で想像できると整理できます。風船の比喩から始めて、腸間膜、消化管の可動性、軸捻転までつなげて考えてみましょう。

1 腹腔と腹膜腔を区別する

まず、似た名前の空間を分けます。解剖学的な腹腔は横隔膜から骨盤入口までの領域で、下方の骨盤腔と連続しています。腹部と骨盤をまとめて「お腹の中」と考えることはできますが、そこにある臓器がすべて腹膜内臓器というわけではありません。

腹膜は、腹壁の内面や臓器の表面を覆う漿膜です。腹壁側を覆う部分を壁側腹膜、臓器表面を覆う部分を臓側腹膜と呼びます。その間にある、少量の漿液で潤った潜在的な隙間が腹膜腔です。普段から大きな空洞が開いているわけではありません。[1]

「腹腔内臓器」という言い方で腹膜内臓器を指す場面がありますが、名前だけで考えると混乱します。腹膜内臓器とは、表面の大部分が臓側腹膜に覆われている臓器のことです。臓器そのものが腹膜腔という隙間に入っている、と考えないのがポイントです。腎臓が後腹膜臓器なのも、単にお腹の後ろにあるからではなく、壁側腹膜の後方に位置するからです。

2 風船を破らず外から押して考える

ここで、風船の表面に外から拳や顔を押し当て、ゴムを破らずにぐっと押し込むところを想像してください。押し込んだ部分はゴムに包まれます。それでも、拳や顔がゴムを突き破って風船の内部へ入ったわけではありません。

この比喩で、ゴムが腹膜、押し込んだものが臓器、ゴムの内側に残る隙間が腹膜腔に対応します。臓器を包む部分と、壁を覆う部分は、別々に貼られた膜ではなく連続しています。壁側腹膜と臓側腹膜という名前は、その連続した膜を覆う場所によって呼び分けているのです。

ただし、実際の体内に空気入りの風船があるわけではありません。比喩で借りるのは「膜を破らずに押し込むと、膜に包まれる」という位置関係だけです。教科書の図で腹膜腔が広く描かれているのも、位置関係を見やすくするための模式化として読みましょう。すべてが気腹中の図というわけではありません。

手術見学で腹腔鏡の画面を見ると、臓器の周りに操作できる空間があると思います。腹腔鏡手術の気腹では、通常、腹膜腔に二酸化炭素を入れ、この隙間を広げます。臓器の表面がつややかに見えるのは、表面を覆う臓側腹膜と、それを潤す漿液のためです。手術中の景色と、普段の狭い隙間を分けて想像すると分かりやすくなります。膜は薄いので、その向こうにある臓器の色や形も見えています。腹膜が臓器を厚く覆い隠している、という意味ではありません。

図1 風船に顔を押し込む比喩

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図1 風船に顔を押し込む比喩。膜を破らずに押し込んだ顔は、膜に包まれたまま。水色は腹膜腔、薄いクリーム色は腸間膜の二葉間の組織で、血管はこの組織の中を通る。実際の腹膜腔は少量の漿液を含む潜在的な隙間であり、通常時からガスが入った袋ではない。膜の位置関係を理解するための比喩で、実際の腹膜腔の広さ・形状・縮尺や気腹時の変形を再現したものではない。

3 腸間膜は二葉の腹膜で臓器を支える

風船の比喩をもう少し進めます。臓器を包んだ膜が腹壁へ戻るところでは、折り返された腹膜が二葉に重なります。こうした腹膜のひだが腸間膜です。「腹膜は連続した一枚の膜」と「腸間膜は二葉の腹膜」は両立します。連続性の話と、断面で何層あるかという話を分けてください。[2]

腸間膜の二葉の間には結合組織や脂肪があり、その中を臓器へ向かう血管、リンパ管、神経が通ります。ここは腹膜腔ではありません。図で腸間膜の間を青い空間として塗ってしまうと、血管が腹膜腔をむき出しで走るような誤ったイメージになるので注意しましょう。[2, 3]

腸間膜は、腸を支えながら血管などを届ける通り道です。空腸・回腸は腸間膜、横行結腸は横行結腸間膜、S状結腸はS状結腸間膜によって支えられています。腹壁から離れて動ける余地があるので、「ブラブラ」というイメージが役に立ちます。ただし、何にもつながらず自由に浮いているわけではありません。

図2 腹膜と腸間膜の断面模式図

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図2 腹膜と腸間膜の断面模式図。青線は連続する腹膜、淡青色は腹膜腔。左の腸間膜の二葉間には組織が続き、血管などが通る。右では臓器が腹膜の後方にある。理解のため隙間と膜の厚さを拡大しており、実際の形状・縮尺とは異なる。

4 後腹膜臓器が固定されるしくみ

後腹膜臓器は、壁側腹膜の後方にあります。顔の比喩でいえば、顔全体を膜に押し込むより、前面に膜がかかっているイメージです。腹膜内臓器との違いは、膜に覆われる範囲と、後方の組織へのつながり方にあります。

腎臓のように発生の初めから後腹膜に位置するものを、一次性後腹膜臓器といいます。一方、十二指腸の大部分や上行・下行結腸は、発生の途中で後腹壁に接し、腸間膜が後方の組織と癒合することで相対的に固定されます。これが二次性後腹膜臓器です。[1, 3]

ここで「腸間膜がなくなる」とだけ覚えると、組織も血管も消えるように感じてしまいます。自由なひだとしての腸間膜が目立たなくなり、後腹壁と一体になった、と捉える方がよいでしょう。付着や癒合のしかたには個体差もあります。[4]

また、「固定されている」は臓器全体が大きく位置を変えにくいという意味です。腸管の壁が収縮して内容物を送る蠕動とは、別の話です。固定されている十二指腸や結腸も蠕動します。

5 消化管の順番で可動と固定を覚える

腎臓なら後腹膜にあると想像しやすくても、胃から腸までは全部同じように動きそうに感じませんか。そこで、食べ物が通る順番を使います。胃、十二指腸の大部分、空腸・回腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸と並べると、「可動、固定、可動、固定、可動、固定、可動」と交互になります。まずこの並びを、全体像を思い出す手がかりにしましょう。

ただし、これは消化管の全区間を漏れなく並べた法則ではありません。回腸と上行結腸の間には盲腸があり、一般に腹膜に覆われていますが、可動性には個体差があります。十二指腸も一様ではなく、起始部の約2 cmは腹膜内に位置し、比較的可動性があります。十二指腸全体を一律に固定部と覚えないようにしましょう。[5]

直腸も、この交互の並びに無理に入れない方が安全です。腹膜の被覆は高さによって変わります。概ね、上3分の1は前面と側面、中3分の1は前面が腹膜に覆われ、下3分の1は腹膜下に位置して被覆されません。直腸全体を単純に「後腹膜臓器」と言い切ると、この違いを見落とします。[6]

図3 消化管の可動性を思い出す順序図

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図3 消化管の可動性を思い出す順序図。胃からS状結腸までの概略。盲腸を省いた覚え方で、直腸は別に確認する。「固定」は蠕動の有無を指さない。実際の形状・位置・縮尺を表す図ではない。

6 可動性から軸捻転へつなげる

腸間膜で支えられた臓器に動く余地があるなら、ねじれる余地もある。このつながりを覚えておくと、軸捻転が解剖の延長として理解できます。とはいえ、可動性のある臓器がみな同じように捻転するわけではありません。腸管の長さ、腸間膜が付着する基部の広さ、固定のしかたなども関係します。

S状結腸軸捻転では、長く余ったS状結腸と、比較的狭い腸間膜の付着基部が、ねじれやすさにつながります。高齢者でよくみられますが、年齢分布には地域差もあります。「S状結腸がブラブラしている」という入口から、長さと支え方まで一歩進めて考えましょう。[7]

胃も動く臓器ですが、周囲の靱帯などによって支持されています。胃軸捻転では支持組織の弛緩や、食道裂孔ヘルニアなどの解剖学的条件が関わります。小児の特発性胃軸捻転には新生児・乳児期の例が多い報告がある一方、成人にも発症します。年齢だけで疾患全体を決めつけず、病型や背景と一緒に整理してください。[8, 9]

中腸軸捻転では、腸回転異常によって腸間膜の付着基部が狭くなり、腸管と腸間膜が上腸間膜動脈を軸に捻転する、という関係が重要です。単に「小腸は動くから」で終わらせず、支える根元がどうなっているかを考えます。新生児・乳児の胆汁性嘔吐では急いで除外する必要があり、血便がなくても否定できません。[10]

ここで名前の整理もしておきましょう。「十二指腸」は消化管の部位名、「中腸」は発生学的な区分です。中腸には、胆管開口部より遠位の十二指腸から、空腸・回腸、盲腸・虫垂、上行結腸、横行結腸の近位3分の2までが含まれます。十二指腸の一部も中腸由来なので、両者を別々の腸として扱うことはできません。[11]

また、普段は固定されている部位についても、固定異常などの条件が変われば話は変わります。「固定される臓器は絶対に捻転しない」という覚え方は避けましょう。捻転では内腔が閉塞するだけでなく、血管もねじれて血流が障害され得ます。腸間膜を血管の通り道として理解しておくと、腸閉塞と虚血が同時に問題になる理由もつながります。

位置関係を自分で描いて確かめる

最後に、一本の連続した線で腹壁から腸管表面へ向かう腹膜を描き、腸間膜の二葉の間に血管を一本通してみてください。腹膜腔はどちら側か、臓器はどこにあるかを説明できれば、立体のイメージはできています。

その図を思い浮かべながら、胃からS状結腸までの「可動と固定」をたどります。捻転の問題に出会ったら、動く余地だけでなく、長さ、付着基部、固定の異常まで考える。この順番で、腹膜の分類と疾患を結びつけて覚えましょう。

参考文献

記事の根拠や詳しい内容を確認できる資料です。

  1. Texas Tech University Health Sciences Center El Paso Peritoneal Cavity and Intestines
  2. Texas Tech University Health Sciences Center El Paso Abdominal Viscera Basics Mesenteries
  3. Texas Tech University Health Sciences Center El Paso Peritoneum Lab Video
  4. The mesocolon A prospective observational study 2012
  5. Texas Tech University Health Sciences Center El Paso Duodenum
  6. Protocol for the Examination of Specimens From Patients With Primary Carcinoma of the Colon and Rectum 2009
  7. WSES consensus guidelines on sigmoid volvulus management 2023
  8. 小児胃軸捻転症の検討 日本臨床外科医学会雑誌 1991
  9. SAGES The SAGES Manual of Foregut Surgery Management of Acute Gastric Volvulus 2019
  10. APSA Resident and Student Handbook Intestinal Rotational Abnormalities
  11. Duke University School of Medicine Gut Development

理解したら、もう一問。

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