腓骨神経麻痺で足首を上げる背屈が弱くなると、足先が下がる下垂足が生じます。歩くときに足先を引っ掛けないよう、股関節と膝を高く曲げる代償が鶏歩です。下垂足は足の状態、鶏歩はそれを補う歩き方。ただし、下垂足の原因は腓骨神経だけではなく、L5神経根などの障害も考えます。[1, 2, 10]
鶏歩は 足先を 引っ掛けないための 動き
腓骨頭の 近くが 圧迫の 弱点になる
坐骨神経から分かれた総腓骨神経は、膝の外側へ向かい、腓骨頭の後方から腓骨頸部を回って下腿へ進みます。この付近では神経が浅く、骨にも近いため、外からの持続的な圧迫の影響を受けやすくなります。脚組み、きつい固定、長時間の姿勢保持などがきっかけになります。[1]
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この図で注目するのは、膝外側の圧迫点です。臥床中にも、下肢が外旋してこの部分に圧が続けば同じ機序が起こり得ます。「寝ているだけだから神経に負担がかからない」とは限らないところが、上腕の橈骨神経麻痺とよく似ています。
上腕で圧迫されやすい橈骨神経と、膝外側で圧迫されやすい総腓骨神経。橈骨の「とう」と腓骨の「ひ」を合わせて、「逃避行できない神経」と結び付けてみます。骨のそばで圧を逃がしにくいという共通点の覚え方です。ただし、圧迫性神経障害がこの二つに限られるという意味ではありません。
背屈できない 理由を 枝に 分ける
総腓骨神経は深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれます。分岐より近位で障害されれば、深枝が担う足関節背屈・足趾伸展だけでなく、浅枝が担う足の外反も弱くなり得ます。下垂足だけを覚えるより、この二つの働きを足して考えると局在が明確になります。[4, 5]
| 枝 | 主な運動 | 皮膚感覚の代表的な領域 |
|---|---|---|
| 深腓骨神経 | 足関節の背屈、足趾の伸展 | 足背の第1・第2趾の間 |
| 浅腓骨神経 | 足の外反 | 下腿遠位外側から足背の大部分 |
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総腓骨神経障害では下腿外側から足背の感覚低下が手掛かりになりますが、範囲には個人差や障害の程度による違いがあります。足底や足の外側縁には別の神経の支配もあるため、「足趾は第5趾だけを除いて全て同じ」と境界を固定しないようにします。
L5神経根との 違いは、 別の 枝の 筋で 確かめる
足の内反に働く後脛骨筋は、総腓骨神経ではなく脛骨神経の支配です。総腓骨神経だけの障害なら比較的保たれるため、L5神経根障害などとの区別に役立ちます。L5から来る線維は複数の末梢神経に分かれるので、別の枝の働きを調べると障害の範囲が見えます。部分的な障害や併存もあり、一つの動作だけで診断は決めません。[10]
| 確かめる動き | 総腓骨神経の障害 | L5神経根の障害を考える材料 |
|---|---|---|
| 背屈・足の外反 | 弱くなり得る | 同様に弱くなり得る |
| 後脛骨筋による内反 | 比較的保たれる | 内反も弱ければ、より近位を考える |
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筋には複数の神経根支配があり、表の一項目だけでは診断しません。L5と椎間板の位置関係は、腰椎椎間板ヘルニアのテーマとつながります。[10]
両側にゆっくり 進むなら 視野を 広げる
圧を 減らすことと、 変化を 見つけることは 役割が 違う
圧迫性の総腓骨神経障害では、腓骨頭付近に持続する圧を減らすことが予防の中心です。脚組みや体位、固定具の当たり方を調整します。足関節背屈や足背の感覚の確認は、すでに起きた変化を早く見つけるための観察です。どちらも必要ですが、役割は同じではありません。[1]
原因が 違っても、 装具で 助けたい 動きは 共通する
圧迫、神経根の障害、両側に進む末梢神経の病気を分けて考えてきました。ここからは「どこが傷んだか」に加えて、「歩くとき、どの動きを助けたいか」を比べます。元の原因が異なっていても、つま先を安全に運ぶという目的は重なることがあります。
脳卒中後などの痙性内反尖足では、足が底屈・内反する方向へ偏り、足を運びにくくなります。背屈筋の弱さだけでなく、筋緊張の亢進や関節の硬さなどが関与します。片麻痺でみられるぶん回し歩行も、膝が曲がりにくいなど複数の要因で起こるため、内反尖足だけで全てを説明することはできません。[2]
| 比較する点 | 総腓骨神経障害による下垂足 | 痙性内反尖足 |
|---|---|---|
| 主に困ること | 足先を持ち上げる力が弱い | 底屈・内反への偏りで足の位置を調整しにくい |
| 歩き方の例 | つま先を避けるために膝を高く上げる | 足を外側へ回して運ぶことがある |
| 短下肢装具の狙い | 足先の下がりを抑え、つまずきを減らす | 足の位置を整え、支持や振り出しを助ける |
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同じ短下肢装具(AFO)が候補になるのは、原因が同じだからではなく、足先の位置を調整して歩行を助けるという目標が共通するためです。装具の種類や関節の動きを許す範囲は、筋力・筋緊張・可動域・歩き方に合わせて選びます。全ての足首を同じように固定するわけではありません。
確認問題: 理由まで 説明できるか
問1 背屈も内反も弱い。腓骨神経だけの障害で説明できる?
後脛骨筋による内反は脛骨神経を通るため、総腓骨神経だけの障害では説明しにくい組合せです。L5神経根など、枝分かれより前の障害も考え、痛みの影響や感覚・経過と合わせて評価します。[10]
問2 鶏歩が見えれば、足を高く上げる筋肉の病気?
必ずしもそうではありません。足先が下がるため、その高さを稼いでいる可能性があります。目立つ動作と、その動作を必要にした弱さを分けて観察します。
補足: アキレス腱の 装具では、 守るものが 違う
つま先を運ぶための支えから、傷んだ腱を守る支えへ、目的を変えて比べます。腓骨神経麻痺では足首を上げる背屈が弱くなりますが、アキレス腱断裂では蹴り出す力が低下します。アキレス腱は下腿三頭筋と踵骨をつなぎ、体重を支えてつま先立ちする強い底屈に重要です。[6, 7, 8]
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下垂足では、底屈してつま先が下がりすぎるのを抑えます。アキレス腱断裂の治療初期には、背屈して腱が引き離される方向を制限し、底屈位で保護する方法が用いられます。どちらも足首を支える装具ですが、前者は足先を運ぶため、後者は傷んだ腱を守るために使います。[7, 8]
アキレス腱断裂には保存療法と手術療法があり、その後の荷重や可動域訓練も治療計画の一部です。固定したら長期間全く動かさない、あるいは動かせるから自由に歩く、という一律の対応にはしません。図3は目的の比較であり、個別の固定角度や期間を示すものではありません。[7, 8]
診察では、軽く動かせることと強く蹴り出せることを分ける
底屈に働く筋・腱は複数あります。下腿三頭筋はアキレス腱を介して強く蹴り出しますが、後脛骨筋や長趾屈筋などは別の腱を介して足を動かします。そのため、アキレス腱が断裂しても軽い自動底屈や歩行は残り得ます。一方、受傷した脚だけで体重を持ち上げるつま先立ちは難しくなります。「足首を動かせるか」と「体重を支えて蹴り出せるか」を分けて観察する理由です。[6]
ふくらはぎを握るThompsonテストでは、通常は下腿三頭筋からアキレス腱を介して力が伝わり、足首が底屈します。急性の完全断裂ではこの底屈がみられなくなります。ただし、一部の腱成分の断裂でも陽性となる報告があり、陽性だけで腱の全断面の完全断裂を証明できるわけではありません。[9] 断裂部のくぼみも手掛かりですが、腫脹で触れにくい場合があるため、単独所見で除外しません。[6, 7]
膝外側の圧迫点から、神経の枝、下垂足、つま先を避ける鶏歩へつながりました。一方、装具を選ぶときは、原因の名前に加えて「何を助け、何を制限するか」を考えます。つま先の下がりを抑えるのか、傷んだ腱を伸ばさないよう守るのか。同じ足首の支えでも、目的が違えば使い方も変わります。
参考文献
記事の根拠や詳しい内容を確認できる資料です。
- MedlinePlus. Common peroneal nerve dysfunction. 2025年レビュー.
- 「観察による歩行障害の診断」Jpn J Rehabil Med. 2020;57:1077–1084.
- MedlinePlus Genetics. Charcot-Marie-Tooth disease.
- ACEP Sonoguide. Deep Peroneal Nerve Block. 解剖の項. 2025.
- ASRA Pain Medicine. Ankle Block. 解剖・足部皮膚感覚の項. 2019.
- Achilles tendon rupture: how to avoid missing the diagnosis. Br J Gen Pract. 2015;65:668–669.
- 日本スポーツ整形外科学会「スポーツ損傷シリーズ 9 アキレス腱断裂」2022.
- AAOS OrthoInfo. Achilles Tendon Rupture (Tear).
- Clarification of the Simmonds–Thompson test for rupture of an Achilles tendon. Can J Surg. 2009;52:E40–E41. 2例の症例報告。
- Surgical Outcomes of Common Peroneal Nerve Entrapment Neuropathy Associated with L5 Radiculopathy. Neurol Med Chir. 2023;63:350–355.
