脊髄小脳変性症(SCD)は病気のまとまり、多系統萎縮症(MSA)はその整理に登場する一つの疾患です。臨床では孤発性SCDにMSAを含めてきましたが、指定難病ではMSAが17、SCD(MSAを除く)が18と分かれます。矛盾ではなく、分類の目的が違うのです。[1, 2, 3]
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SCDの臨床的な分類では、孤発性の群にMSAを含めて整理してきました。一方、現在の指定難病では「多系統萎縮症」が17、「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)」が18として分かれています。見出しの位置だけから、病態の包含関係を決めないことが大切です。[1, 2, 3]
SCDは、 病気のまとまりを 表す名前
遺伝性・ 孤発性は、 症状とは 別の 分類軸
遺伝性か孤発性かという成り立ちから整理します。ただし、表には病型の名前と疾患群の名前があり、同じ大きさの区分とは限りません。
| 例 | 何を表す名前か | 読み違えない点 |
|---|---|---|
| SCA3/Machado-Joseph病 | 遺伝性脊髄小脳変性症の一病型 | SCAの番号は重症度の順位ではない |
| 特発性小脳失調症 | 他の原因を除外し、一定の条件で整理する病態 | 家族歴がないだけで確定しない |
| 遺伝性痙性対麻痺 | 主に両下肢の痙縮などを示す疾患群 | 行政上SCDに含まれるが、小脳失調だけの病気ではない |
| 多系統萎縮症(MSA) | 主に成人に生じる孤発性神経変性疾患 | 全てのSCDがMSA、という意味ではない |
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SCA3はMachado-Joseph病とも呼ばれます。SCAには複数の遺伝性病型があり、遺伝性痙性対麻痺にも多様な病型があります。家族に似た症状がいなくても遺伝性を完全には否定できません。家族歴、発症年齢、経過、神経所見などを整理し、必要な場合には遺伝カウンセリングと検査を検討します。[1, 2]
特発性小脳失調症も、検査をせずに「ほかにはわからない」と付ける名前ではありません。遺伝性疾患や二次性の失調、MSAなどを評価したうえで考えます。経過の中で自律神経障害などが明らかになれば、診断を見直すこともあります。[1, 6]
MSAの 「多系統」は、 症状の 組合せにつながる
MSAでは、自律神経障害、パーキンソニズム、小脳性運動失調が、さまざまな順番・比重で現れます。小脳症候が優位ならMSA-C、パーキンソニズムが優位ならMSA-Pと呼びます。「Cなら小脳だけ」「Pなら運動の遅さだけ」という分類ではありません。[1, 4]
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| 症候 | 症状の例 | ほかの所見とのつなぎ方 |
|---|---|---|
| 自律神経障害 | 起立性低血圧、排尿困難・尿失禁など | 脱水、薬剤、泌尿器疾患などの原因も確認 |
| パーキンソニズム | 動作緩慢、筋強剛など | レボドパへの反応や経過も比較 |
| 小脳性運動失調 | 歩行のふらつき、四肢の測定異常、構音障害 | 筋力・感覚と協調運動を分けて評価 |
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立ち上がった直後に血圧が下がってふらつくのは自律神経の問題、足が出にくく動作が小さいのはパーキンソニズム、足を置く位置やバランスが乱れるのは小脳性失調の手掛かりです。同じ「歩きにくい」でも、困る場面を聞くと三つの系統へ結び付けられます。排尿の問題も運動症状と一緒に捉え、残尿などを確認します。[1, 4]
古い三つの 病名が、 MSAとしてまとめられた 背景
三つの系統が異なる比重で現れることは、古い病名を読む手掛かりにもなります。以前は、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、Shy-Drager症候群という名前で、目立つ症状や病変の異なる病態が扱われていました。その後、臨床像・病変分布の重なりに加え、オリゴデンドログリアの細胞質内封入体という共通する病理所見が明らかになり、MSAという概念の下で理解されるようになりました。[5]
この封入体の主要な構成成分がαシヌクレインです。パーキンソン病やLewy小体型認知症もαシヌクレインに関係しますが、MSAではグリア細胞の封入体が病理学的な特徴です。「同じ蛋白が関係する」ことと「同じ病気である」ことを分けます。[5]
古い名称は、当時どの症状・病変に注目していたかを理解する助けになります。ただし、過去にオリーブ橋小脳萎縮症と呼ばれた範囲には、現在のMSA以外の病態も含まれます。旧称を読む際は、孤発性か遺伝性か、当時の診断条件は何かを確認します。[1, 5]
| 旧称 | 主に注目された病変・症候 | 現在へ読み替える注意 |
|---|---|---|
| 線条体黒質変性症(SND) | 線条体・黒質とパーキンソニズム | MSA-Pと機械的に一対一対応させない |
| オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA) | オリーブ・橋・小脳と運動失調 | 旧称の範囲にはMSA以外も含まれる |
| Shy-Drager症候群 | 目立つ自律神経障害 | 自律神経障害だけの独立したMSA型と扱わない |
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確認問題: 理由まで 説明できるか
問1 指定難病のSCDに「MSAを除く」とある。病態は無関係?
無関係という意味ではありません。制度の認定区分を分けている記載です。臨床上の疾患群の分類と、行政上の対象範囲を同じ一覧だと思わないことが要点です。
問2 MSA-Cなら自律神経障害は起こらない?
起こり得ます。Cは小脳症候が優位という意味で、ほかの系統が保たれる保証ではありません。C/Pの分類と、診断基準の確実度・条件も分けて確認します。[4]
発展: C/Pの 分類と、 診断の 確実度は 別の 軸
ここでは、目立つ症候によるC/Pの分類と、診断の確実度を分けて読みます。自律神経障害はMSAの重要な特徴です。ただし、診断基準の版と診断の確実度を区別する必要があります。2022年MDS基準のclinically probable MSAでは、自律神経障害・パーキンソニズム・小脳症候のうち二つ以上を組み合わせるため、パーキンソニズムと小脳症候があり、自律神経障害をまだ満たさない組合せもあります。支持所見や除外条件なども必要です。[4]
より厳しいclinically established MSAでは、自律神経障害に加えて所定の運動症候やMRI所見などが必要になります。つまり「自律神経症状がなければどの段階でもMSAを除外」とも、「三つのうち二つあれば確定」とも言えません。図2は症候を理解する図であり、診断基準を全て置き換えるものではありません。[4]
MRIの橋にみられる十字状の高信号(hot cross bun sign)などは手掛かりになりますが、他の疾患でも生じ得ます。病名を画像一枚から決めず、症状・経過と合わせます。パーキンソン病と比べる際も、早期から目立つ自律神経障害や転倒、呼吸の問題、レボドパへの反応などを総合します。[1, 4]
MSAでもレボドパへの反応がみられるため、一時的に効いたというだけでは除外できません。ただし、2022年MDS基準では、ドパミン系の薬への明確で持続的な良好反応は、clinically established/clinically probable MSAの除外項目です。「少しでも効けば否定」とも「反応は全く参考にならない」ともせず、程度と持続を評価します。[4]
症候が 「まれ」でも、 鑑別から 外せるとは 限らない
ある説明では、MSAで比較的まれな症候として安静時振戦が挙がる。一方、安静時振戦の鑑別にはMSAが含まれる。この二つを続けて読むと、どちらを覚えればよいのか迷います。しかし、頻度を問うことと、可能性をゼロにできるかを問うことは違います。
MSAでは、パーキンソン病に典型的な丸薬を丸めるようなpill-rolling型の安静時振戦は少なく、動作時の振戦などが目立つことがあります。それでも安静時振戦がみられる例はあります。したがって「典型的ではない」を「絶対に出ない」へ変えてはいけません。特定の研究の割合も、MSA全体で一定の頻度を示す数字ではありません。[1]
「ほかと比べて少ない症候は何か」と「この所見から考える疾患は何か」では、問いの軸が違います。分類で目的を確かめたのと同じように、症候を読むときも、頻度の比較なのか鑑別の候補なのかを確かめます。非典型的な所見が一つあるだけで病気を否定しない、という考え方につながります。
補足: 運動失調と 筋力低下を 分けて 観察する
名前の位置づけを確認したら、次は実際に難しくなる動きを見ます。箸を持つ力はあるのに、狙った所へうまく運べない。立てるのに、足を広げないとふらつく。運動失調は、このように筋力低下による運動麻痺と分けて考えます。小脳性運動失調では、鼻指鼻試験の測定異常や、歩行・発話の不規則さなどを合わせて評価します。[1]
目標へ指を伸ばして行き過ぎたり、手前で止まったりすることを測定異常といいます。鼻指鼻試験では自分の鼻と検者の指の間で指を動かし、このずれを観察します。
深部感覚には、手足の位置や動きを伝える感覚などがあります。この情報が不十分でも、目で見れば姿勢や動きを補えることがあるため、感覚性失調では閉眼によってふらつきが大きくなることが手掛かりです。小脳性失調では開眼時から不安定なことが多くなります。筋力・感覚・協調運動を合わせて評価します。[1]
発話のリズムや強さが不規則になり、音が途切れて聞こえることもあります。これは言葉をつくる運動の問題であり、話の内容を理解していないことと同じではありません。ゆっくりした発話を待ち、本人が望む方法で意思を確かめることが大切です。一方、全ての病型で認知機能が必ず保たれる、とまで一括りにはできません。
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参考文献
記事の根拠や詳しい内容を確認できる資料です。
- 日本神経学会監修. 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 疾患概念、運動失調、MSAの症候・診療。
- 難病情報センター. 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18). 疾患群と行政上の区分。
- 難病情報センター. 多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17).
- Wenning GK, et al. The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy. Mov Disord. 2022;37:1131–1148.
- 吉田眞理. 多系統萎縮症―シヌクレインと神経細胞変性―. 臨床神経. 2011;51:838–842. 分類の歴史・病理。
- 吉田邦広. 皮質性小脳萎縮症とは何か. 神経治療. 2018;35:320–325.