111AM085|第111回 看護師国家試験 過去問

Aさんは職場の上司に不満をぶつけたいと考えているが、それができないので、不満をぶつけやすい対象である後輩を叱責している。Aさんの防衛機制で正しいのはどれか。

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正解: 4

正答

4.置き換え

この問題のポイント

本来の相手である上司には向けられない不満が、ぶつけやすい別の相手である後輩に向けられている場面から、防衛機制の種類を見分ける問題です。判断の鍵は次の3点です。感情の向け先が変わっていること、向け先がより安全で弱い立場の相手であること、行動が叱責という攻撃的な形のままであることです。代表的な防衛機制の定義を、具体的な場面と結びつけて理解しているかが問われています。

解説

防衛機制は、受け入れがたい欲求や感情、葛藤から生じる不安から自我を守るための心のしくみです。フロイトが提唱し、娘のアンナ・フロイトが体系的に整理しました。基本的に無意識のうちに働く点が、意識的に問題へ対処するコーピングとの違いです。誰にでも日常的にみられるもので、それ自体は異常ではありません。ただし、特定の機制が過剰に、または固定的に使われると、適応上の問題につながります。

問題文の手がかりを整理します。

  • 「上司に不満をぶつけたいと考えているが、それができない」:感情の本来の対象は上司です。直接向けると評価や人間関係で不利益を受けるおそれがあるため、不満が抑えられています。
  • 「不満をぶつけやすい対象である後輩」:向け先が、自分より立場が弱く反撃されにくい別の相手に変わっています。
  • 「叱責している」:感情の性質は不満・怒りのままで、表れ方も攻撃のままです。

置き換えは、ある対象に向けた感情や欲求を、その対象に向けることが危険または困難なときに、より安全な別の対象へ向け替える機制です。日常語の「八つ当たり」が典型例です。「上司に叱られた人が帰宅後に家族やペットに当たる」といった場面がよく出題されます。Aさんは、感情の中身は不満のまま、向け先だけが上司から後輩に移っているので、置き換えと判断できます。

防衛機制を場面から見分けるときは、感情が「どう処理されたか」を次の順に確認すると整理しやすくなります。

  • 感情の中身が正反対になったか:正反対の態度をとれば反動形成です。
  • 感情の向け先が変わったか:別の人や物に向けば置き換え、社会的に価値のある活動に向けば昇華です。
  • もっともらしい理由づけをしたか:理屈で正当化していれば合理化です。
  • 記憶や意識そのものを切り離したか:切り離していれば解離です。

臨床では、入院中の患者が病気や治療の見通しへの不安・怒りを、看護師や家族への強い口調や苛立ちとして表すことがあります。これは置き換えとして理解できる場合があります。看護師は怒りを個人攻撃と受け止めて反発しないことが大切です。背景にある本当の感情(病気への不安、喪失感など)に目を向け、それを言葉で表出できるよう関わります。防衛機制の知識は、患者の言動の意味をとらえ、受容的に関わるための手がかりになります。

選択肢の確認

1.解離:耐えがたい体験に関連する記憶・感情・知覚・自己同一性などを、意識から切り離す機制です。出来事の記憶が抜け落ちる健忘や、自分が自分でないように感じる離人感として現れます。虐待や災害など強いトラウマ体験の後にみられることが多い機制です。Aさんは上司への不満を自覚したうえで後輩に向けており、意識や記憶の切り離しは起きていないため当てはまりません。

2.昇華:社会的に受け入れられにくい攻撃性や性的衝動などを、スポーツ・芸術・学問・仕事など社会的に価値が認められる活動へ向け替える機制です。成熟した適応的な防衛機制の代表とされます。上司への不満をトレーニングや仕事の成果に注いでいれば該当します。しかし、後輩を叱責するのは他者を傷つける攻撃的な行動で、社会的に評価される形への転換ではありません。向け先を変える点は選択肢4と共通するため、向け先が「安全な相手(人)」か「価値のある活動」かで区別します。

3.合理化:自分の失敗や満たされなかった欲求、受け入れがたい行動に、もっともらしい理由を後からつけて正当化する機制です。手の届かないぶどうを「どうせ酸っぱい」と言うイソップ物語の例(酸っぱいぶどう)が有名です。Aさんが「後輩のためを思って叱っている」と理由づけていれば、この機制の要素も加わります。しかし問題文が述べているのは不満の向け先が移っていることだけで、理由づけについては書かれていません。

4.置き換え:正答。本来の対象である上司には不満を向けられないため、より安全でぶつけやすい後輩へ向け先を移しています。この機制の典型例(いわゆる八つ当たり)です。感情の中身(不満・怒り)は変わらず、対象だけが代わっている点が決め手です。

5.反動形成:抑圧している欲求や感情とは正反対の態度・行動を、しばしば過剰な形でとる機制です。たとえば、上司に強い不満を抱えながら、上司に対して必要以上に丁寧で従順にふるまう場合がこれに当たります。Aさんは不満を攻撃という同じ性質のまま別の相手に向けており、感情が逆の形に転じていないため該当しません。

覚えるポイント

  • 防衛機制は、不安から自我を守るために主に無意識に働くしくみです。意識的な対処であるコーピングとは区別します。
  • 置き換えは、感情はそのままで向け先を安全な別の対象へ移すものです(八つ当たり)。昇華は、衝動を社会的に価値のある活動へ向けるもので、成熟した機制とされます。
  • 反動形成は本心と正反対の態度をとるもの(嫌いな相手に過剰に親切)、合理化はもっともらしい理由で正当化するもの(酸っぱいぶどう)、解離はつらい体験の記憶や意識を切り離すもの(健忘、離人感)です。
  • 混同しやすい機制も押さえます。投影は、自分の受け入れがたい感情を相手のものとみなすことです(自分が上司を嫌っているのに「上司が自分を嫌っている」と感じる)。退行は、発達の早い段階の行動に戻ることです。否認は、つらい現実そのものを認めないことです。転換は、心理的葛藤が身体症状として現れることです。
  • 場面問題では、「感情の中身が変わったか」「向け先が変わったか」「理由づけをしたか」「意識から切り離したか」の順に確認すると見分けられます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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