111PM110|第111回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み109〜111の問いに答えよ。Aさん(35歳、男性、会社員)は妻(32歳、主婦)と子ども(2歳)と3人暮らし。5年前にうつ病 depression と診断された。半年前に営業部門に異動し、帰宅後も深夜まで仕事をする日が続いていた。「仕事のことが気になってしまい、焦りと不安ばかりが増して眠れない。会社に行くのが苦しい、入院させてもらえないか」と訴えがあり、休養と薬物の調整を目的として精神科病院に入院となった。入院後、Aさんから「実は薬を飲むのが嫌で、途中から飲むのをやめていたんです。薬を飲みたくないのですが、どうしたらよいでしょうか」と看護師に相談があった。入院後1か月、面会に来た妻から、「夫の会社から休業給付が出ないかもしれないと言われました。子どもが小さく、生活費もかかるので、入院費用が払えるか心配です」と看護師に相談があった。妻の相談に関して、看護師が連携する職種として最も適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.精神保健福祉士
この問題のポイント
妻の相談は、休業給付が出ないかもしれないこと、生活費がかかること、入院費用を払えるかという、経済面・生活面の問題です。精神科医療の場で、患者と家族の生活上の困りごとに対して社会保障制度や社会資源の活用を支援する専門職は精神保健福祉士です。妻が「心配」と表現した気持ちだけでなく、その不安の原因である相談の中身を見て連携先を選べるかが判断の鍵です。
解説
問題文の手がかり
- 相談者は患者本人ではなく、妻(家族)であること
- 相談の中身は、収入の途絶(休業給付が出ない可能性)、生活費(2歳の子どもがいる)、入院費用の支払いという経済的問題であること
- 場は精神科病院で、Aさんは休養と薬物調整のために入院して1か月たったところであること
家計を支えるAさんが入院し、妻は主婦で子どもも小さいため、世帯の収入が途絶えるおそれがあります。妻の訴えは不安の表現ですが、原因ははっきりした経済問題です。気持ちを傾聴するだけでは解決しないため、使える制度を探し、手続きまで支援できる職種につなぐ必要があります。
精神保健福祉士の役割
精神保健福祉士は、精神保健福祉士法に基づく名称独占の国家資格です。精神障害のある人の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応に必要な訓練などの援助を行います。精神科病院では、入院中の経済的問題、休職と復職、退院後の住まいや地域サービスの調整などを担い、家族からの相談にも応じます。医療保護入院者に選任が義務付けられている退院後生活環境相談員も、精神保健福祉士が中心となって担っています。
今回の相談で検討される制度には、次のようなものがあります。
- 傷病手当金(健康保険):業務外の病気で働けず給与が支払われないとき、待期3日間の後、4日目から標準報酬日額のおよそ3分の2が支給されます。支給期間は支給開始日から通算して1年6か月です(2022年1月の改正で通算方式になりました)。
- 労災保険の休業(補償)給付:業務が原因の病気と認定された場合、休業4日目から給付基礎日額の60%(ほかに休業特別支給金20%)が支給されます。療養(補償)給付の対象になれば、医療費の自己負担はありません。
- 高額療養費制度:1か月の保険診療の自己負担が上限額を超えた分が払い戻されます。事前に限度額適用認定証を医療機関に示すと、窓口での支払いを上限額までに抑えられます。入院中の食事代(食事療養標準負担額)や差額ベッド代は対象外です。
- 生活保護:ほかの制度を使っても生活を維持できない場合の最後のセーフティネットです。
給付が出ないと言われた理由を確認し、ほかの制度で補えないかを検討して手続きを支援するのは、まさに精神保健福祉士の専門領域です。
看護師の動き方
看護師は妻の不安を受け止め、収入の状況、加入している医療保険、支払いの見通しなど相談の要点を把握したうえで、精神保健福祉士に速やかにつなぎます。Aさんは仕事への焦りと不安で眠れなくなって入院し、服薬を自己中断していた経過もあります。経済的な心配はAさんの焦りを強め、療養の妨げになりかねません。Aさんへの伝え方や時期も含めて医師・精神保健福祉士と情報を共有し、チームで家族全体を支える視点が大切です。なお、一般病院では主に社会福祉士などの医療ソーシャルワーカーが同じ役割を担います。
選択肢の確認
1.公認心理師:心理に関する専門的知識と技術を用いて、心理状態の観察・分析、本人や家族など関係者への相談・助言・指導、心の健康に関する教育を行う国家資格です(2017年に法律が全面施行)。妻の不安そのものに心理的支援を行うことはできますが、不安の原因は給付や入院費といった経済問題であり、制度の活用や手続きの支援はこの職種の専門ではありません。Aさんの心理的評価やカウンセリング、服薬への抵抗感を扱う場面であれば連携先になり得るため、相談の中身で職種を選ぶことが大切です。
2.作業療法士:手芸・工作・園芸・軽作業などの作業活動を用いて、応用的動作能力や社会的適応能力の回復を図るリハビリテーション専門職です。精神科では精神科作業療法として、生活リズムの回復、対人交流、集中力や作業耐性の向上を支援し、Aさんが復職に向けて準備する段階では重要な役割を果たします。しかし、給付の受給要件の確認や医療費の負担を軽くする制度の手続きといった経済的な相談は専門外です。
3.理学療法士:治療体操などの運動療法や、電気刺激・マッサージ・温熱などの物理療法によって、起き上がる・立つ・歩くといった基本的動作能力の回復を図る専門職です。精神科でも、身体合併症や長期臥床による廃用症候群がある場合には関わります。Aさんの身体機能の障害は問題文に示されておらず、経済的問題を扱う今回の相談の連携先としては適しません。
4.精神保健福祉士:正答。精神障害のある人と家族の生活上の相談に応じ、社会保障制度や社会資源の活用を支援する専門職です。傷病手当金や労災保険など所得を補う給付の要件確認、高額療養費制度や限度額適用認定証による医療費負担の軽減、必要に応じた生活保護の検討など、妻が訴える収入・生活費・入院費の問題に直接対応できます。
覚えるポイント
- 連携先は相談の中身で選びます。経済的問題・制度利用・退院後の生活調整は精神保健福祉士(一般病院では社会福祉士などの医療ソーシャルワーカー)、心理的評価やカウンセリングは公認心理師、応用的動作や社会適応の回復は作業療法士、基本的動作能力の回復は理学療法士です。
- 家族の「不安」の訴えでも、原因が具体的な生活問題であれば、その問題を解決できる職種と制度につなぐことを優先します。
- 精神保健福祉士・社会福祉士・公認心理師は、いずれも名称独占の国家資格です。
- 入院費の負担軽減には高額療養費制度(限度額適用認定証)を使います。自立支援医療(精神通院医療)は通院医療の自己負担を原則1割にする制度で、入院費用には使えません。
- 療養中の所得保障は、業務外の病気なら健康保険の傷病手当金(4日目から、標準報酬日額の約3分の2)、業務上の病気なら労災保険の休業(補償)給付です。
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