111PM051|第111回 看護師国家試験 過去問
高齢者が術後に呼吸器合併症を発症しやすい理由はどれか。
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正解: 1
正答
1.1秒率の減少
この問題のポイント
加齢による呼吸機能の変化を、「増えるか減るか」「亢進か低下か」という向きまで正しく覚えているかを問う問題です。高齢者は肺の弾性収縮力が落ちて息を勢いよく吐き出せなくなるため、1秒率が低下します。すると咳で痰を押し出す力も弱まり、術後に分泌物がたまりやすくなります。選択肢2〜4は、どれも加齢変化の向きが逆になっている点が見分ける鍵です。
解説
問題文の手がかり
問題文の「高齢者」「術後」「呼吸器合併症」から、加齢による呼吸機能の衰えに、手術による換気の悪化が重なる場面を想定します。術後の呼吸器合併症の代表は無気肺と肺炎です。どちらも、気道分泌物がうまく排出されずに末梢にたまることが出発点になります。したがって、「分泌物を出しにくくする加齢変化」を選べばよいことになります。
加齢による呼吸機能の変化
構造の変化は次のとおりです。
- 肺の弾性収縮力(膨らんだ肺が縮もうとする力)が低下します。肺胞が拡大して、ガス交換に使える表面積が減ります。
- 胸郭は、肋軟骨の石灰化や脊柱の後彎によって硬くなります。呼吸筋力も低下するため、胸郭が十分に広がりません。
- 末梢気道は、周囲の肺組織に外から引っ張られて開いた状態を保っています。弾性収縮力が落ちるとこの支えが弱まり、呼気の途中で早く閉じてしまいます(クロージングボリュームの増加)。
その結果、呼吸機能検査では次の変化が現れます。
- 呼気の流速が落ち、1秒率(1秒量÷努力肺活量×100)が低下します。
- 吐き切れずに肺内に残る空気が増えて残気量が増加し、肺活量は減少します。全肺気量はほぼ変わりません。
- 換気と血流の釣り合いが悪くなり、動脈血酸素分圧(PaO2)は年齢とともに低下します。
気道を守る防御機能も衰えます。
- 気道の線毛運動が低下し、異物や分泌物を運び出す力が弱まります。
- 咳嗽反射が低下し、咳の力そのものも弱くなります。
- 嚥下反射が遅延・低下するため、むせのない不顕性誤嚥が起こりやすくなります。
手術侵襲が重なるとどうなるか
術後には、次のような要因が加わります。
- 全身麻酔と気管挿管は気道を刺激して分泌物を増やし、乾燥した吸入ガスは線毛の働きを妨げます。
- 麻酔中や仰臥位では機能的残気量が減り、肺底部がつぶれやすくなります。
- 上腹部や胸部の手術では、創痛のために深呼吸や咳を控えてしまいます。
- オピオイドなどの鎮痛薬や鎮静薬は、呼吸と咳嗽反射を抑制します。
- 臥床が続くと、横隔膜の動きが制限されます。
もともと吐き出す力が弱い(1秒率が低い)高齢者にこれらが加わると、痰を咳で押し出せません。その結果、末梢気道が閉塞して無気肺となり、そこに細菌が増殖して肺炎へ進みます。
看護実践とのつながり
予防は、上で述べた加齢変化を補う発想で組み立てます。
術前には、次のことを行います。
- 禁煙を指導します。
- 深呼吸訓練やインセンティブスパイロメトリーの練習を行います。
- 咳嗽やハフィングの練習を行います。
- 口腔ケアで口腔内の細菌を減らします。
術後には、次のことを行います。
- 十分な鎮痛を行います。
- 創部を手や枕で押さえながら、深呼吸と咳嗽を促します。
- 体位変換と早期離床を進めます。
観察では、呼吸音の減弱や副雑音、呼吸数、SpO2、発熱、痰の量と性状の変化を確認し、合併症を早期に発見します。
選択肢の確認
1.1秒率の減少:正答。加齢で肺の弾性収縮力が落ち、呼気時に末梢気道が早く閉じるため、努力呼出の最初の1秒で吐き出せる割合が低下します。有効な咳には強い呼気流速が必要なので、呼気流速が落ちると痰を押し出す力も弱まります。そこへ創痛や麻酔の影響が加わると、分泌物が貯留して無気肺や肺炎につながります。なお、1秒率70%未満は閉塞性換気障害の目安で、COPDや気管支喘息でもみられる所見です。
2.残気量の減少:加齢では吐き切れずに肺内に残る空気が増えるため、実際には残気量は増加します。減少するのは肺活量のほうで、「残気量が増え、肺活量が減り、全肺気量はほぼ一定」という関係で整理すると混同しません。残気量が減るのは、間質性肺炎(肺線維症)のように肺が硬く縮む拘束性障害で、肺気量全体が小さくなる場合です。加齢変化と取り違えないようにします。
3.嚥下反射の亢進:加齢により嚥下反射は遅延・低下し、咳嗽反射も弱まるため、むせのない不顕性誤嚥が起こりやすくなります。反射が「低下」と書かれていれば、高齢者の誤嚥性肺炎の理由として正しい記述になります。反射が強まる方向の変化は誤嚥を防ぐ方向に働くので、合併症を起こしやすい理由にはなりません。
4.気道の線毛運動の亢進:気道の線毛は、粘液に捕らえた異物や細菌を咽頭側へ運び出す働き(粘液線毛クリアランス)を担っています。線毛運動は、加齢や喫煙で低下します。術後は乾燥した吸入ガスや気管挿管もこの働きを妨げるため、分泌物がさらに停滞しやすくなります。運動が活発になれば分泌物の排出は促されるので、合併症の理由とは逆向きの変化です。
覚えるポイント
- 加齢で増えるもの:残気量、残気率、機能的残気量、クロージングボリューム。減るもの:肺活量、1秒量、1秒率、PaO2、肺の弾性収縮力。ほぼ不変:全肺気量、PaCO2。
- 1秒率=1秒量÷努力肺活量×100。70%未満は閉塞性換気障害、%肺活量80%未満は拘束性換気障害の目安です。
- 線毛運動、咳嗽反射、嚥下反射といった気道の防御機能は、加齢でいずれも低下します。これが不顕性誤嚥や誤嚥性肺炎の背景になります。
- 術後の呼吸器合併症を招く要因は、麻酔・挿管による分泌物の増加、創痛による深呼吸と咳嗽の抑制、鎮痛薬による呼吸抑制、臥床です。上腹部・胸部の手術はリスクが高くなります。
- 予防策は、術前の禁煙・呼吸訓練・口腔ケアと、術後の十分な鎮痛のもとでの深呼吸・咳嗽・体位変換・早期離床です。
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