111PM027|第111回 看護師国家試験 過去問
若年者よりも高齢者が熱中症を起こしやすい理由はどれか。
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正解: 3
正答
3.自律性体温調節反応の低下
この問題のポイント
高齢者が熱中症を起こしやすい理由を、体温調節のしくみから考える問題です。熱中症は、熱の産生が放散を上回って体内に熱がこもる状態です。体温の目標値(セットポイント)が上がる発熱とは機序が異なるため、この2つを区別できるかが鍵になります。加齢で低下するのは熱を逃がす力で、その中心は発汗や皮膚血管拡張といった自律性の反応です。
解説
体温調節のしくみ
体温は、視床下部の体温調節中枢が皮膚と体の深部の温度情報を受け取り、熱産生と熱放散のバランスを調整することで一定に保たれています。調節には次の2つの系があります。
- 自律性体温調節:意思とは無関係に起こる反応です。暑いときは皮膚血管の拡張と発汗で熱を逃がします。寒いときは皮膚血管の収縮やふるえで熱を保ち、また産生します。
- 行動性体温調節:暑さや寒さを感じて本人がとる行動です。衣服の調整、冷房の使用、涼しい場所への移動、飲水などが含まれます。
熱放散の経路には輻射、伝導、対流、蒸発があります。常温で安静にしているときは輻射の割合が最も大きくなります。しかし気温が皮膚温に近づくか上回ると、輻射・伝導・対流では熱を逃がせなくなり、汗の蒸発がほぼ唯一の放散経路になります。湿度が高いと蒸発が妨げられるため、高温多湿の環境では熱中症が特に起こりやすくなります。
熱中症と発熱の違い
発熱では、感染などで生じた発熱物質(プロスタグランジンE2など)が視床下部に作用し、セットポイントが上昇します。体はその高い目標値に向けて熱を産生・保持します。一方、熱中症(うつ熱)ではセットポイントは正常のままで、熱産生が熱放散を上回るために体温が上がります。そのため、熱中症の起こりやすさは「熱を逃がす力がどれだけ残っているか」で考えます。解熱薬は熱中症には効果が期待できず、体を外から冷やすことが治療の中心です。
加齢で何が変わるか
高齢者では、次の変化が重なって熱を逃がせなくなります。
- 自律性体温調節反応の低下:体温がかなり上がるまで発汗が始まらず、発汗量も減ります。皮膚血管の拡張による皮膚血流の増加も小さくなります。心臓の予備力も小さいため、皮膚へ血流を回しながら血圧を保つ余裕がありません。
- 温度感覚の低下:暑さを感じにくいため、冷房の使用や衣服の調整といった行動性の調節も遅れます。
- 体内水分量の減少と口渇感の低下:体重に占める水分の割合は、成人の約60%に対し高齢者では約50%です。予備の水分が少ないうえに、のどの渇きを感じにくく飲水が遅れます。腎臓の尿濃縮力も落ちるため、脱水が進みやすくなります。
- 服薬の影響:利尿薬は脱水を助長し、抗コリン作用をもつ薬は発汗を抑えます。
これらの変化の本質、つまり「熱を逃がす自律性の反応が鈍くなること」を表しているのが選択肢3です。
重症度と実践への活用
熱中症の重症度は、次のように分類されます。
- I度:めまい、立ちくらみ、こむら返りなど
- II度:頭痛、嘔吐、倦怠感など
- III度:意識障害、けいれん、肝・腎機能障害、血液凝固異常など
出題当時はこのI〜III度の3段階でした。その後、日本救急医学会の2024年のガイドラインで、深部体温40℃以上かつ高度の意識障害を伴う最重症の状態がIV度として新設されています。
高齢者の熱中症は、屋外だけでなく住居内でも多く、夜間にも起こります。「暑くない」「のどは渇いていない」という本人の感覚には頼れません。次のような具体的な方法を、本人、家族、訪問に関わる職種で共有します。
- 室温計で温度を確認して冷房を使う
- 時間を決めて水分をとる
- 汗を多くかいたときは塩分も補う
独居の高齢者では、見守りの体制づくりも大切です。
選択肢の確認
1.熱産生量の増加:加齢に伴って骨格筋量が減り、基礎代謝量も低下するため、高齢者の熱産生量は若年者よりむしろ少なくなります。熱産生が増えて熱中症の要因になるのは、激しい運動や重労働、甲状腺機能亢進症などの場合です。加齢による特徴ではありません。高齢者で問題になるのは、熱の産生側ではなく放散側の低下です。
2.熱放散量の増加:熱放散が増えれば体温は下がる方向に働くため、熱中症を起こしやすくする理由にはなりません。実際の高齢者では、発汗量の減少や皮膚血流の増加が不十分なことから熱放散量は減っており、選択肢の記述とは方向が逆です。
3.自律性体温調節反応の低下:正答。加齢によって発汗の開始が遅れ、発汗量が減り、皮膚血管の拡張も不十分になります。そのため暑い環境で熱を体外に逃がせず、体内に熱がこもります。これが、高齢者が熱中症を起こしやすい中心的な理由です。
4.視床下部の体温調節中枢のセットポイントの低下:セットポイントが低くなれば、体はその低い目標値に合わせて熱を逃がす方向に調節するため、体温が上がりやすくなる理由にはなりません。セットポイントの変化が関わるのは発熱(上昇)です。熱中症は、セットポイントが正常のまま熱の産生と放散のバランスが崩れて起こります。発熱と熱中症の機序を取り違えさせる選択肢です。
覚えるポイント
- 熱中症(うつ熱)はセットポイントが正常のまま熱産生が熱放散を上回る状態で、発熱はセットポイントの上昇です。熱中症には解熱薬が効かず、冷却が基本です。
- 体温調節は自律性(発汗、皮膚血管の拡張・収縮、ふるえ)と行動性(衣服、冷房、移動、飲水)の2系統です。高齢者ではどちらも低下します。
- 気温が皮膚温以上になると、熱放散は汗の蒸発に頼るしかありません。湿度が高いと蒸発が妨げられます。
- 高齢者の熱中症リスクは、暑さを感じにくい、汗が出にくい、体内水分が少ない、口渇を感じにくい、尿濃縮力の低下、利尿薬・抗コリン薬の服用です。
- 体液量の目安は、新生児約80%、乳児約70%、成人約60%、高齢者約50%です。
- 予防は本人の感覚に頼らず、室温計での確認と、時間を決めた飲水・塩分補給で行います。
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