111PM056|第111回 看護師国家試験 過去問
高齢者に経口薬の薬効が強く現れる理由はどれか。
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正解: 4
正答
4.血清アルブミンの減少
この問題のポイント
加齢による体の変化のうち、薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)に影響して薬が「効きすぎる」原因になるものを選ぶ問題です。鍵になるのは、血中で薬理作用を現すのは蛋白と結合していない遊離型の薬物であるという知識です。4つの選択肢のうち、血中の遊離型を増やすのは血清アルブミンの減少だけです。
解説
結合型と遊離型
経口薬は消化管から吸収され、門脈を通って肝臓を経由したあと、全身の血液循環に入ります。血液中の薬物は、血漿蛋白と可逆的に結合した結合型と、結合していない遊離型の2つの状態で存在します。結合型は分子が大きく、血管の外へ出られません。そのため、組織の受容体に作用することも、肝臓で代謝されることも、腎臓でろ過されることもほとんどありません。薬理作用を現すのは遊離型です。
薬物と結合する血漿蛋白の中心はアルブミンで、主に酸性の薬物と結合します。アルブミンは肝臓で合成されます。高齢者では、合成能の低下、食事摂取量の減少による低栄養、慢性疾患などによって減少しやすくなります。アルブミンが減ると、蛋白と結合できる薬の量が減ります。その結果、同じ量を服用しても遊離型の割合が増え、薬効や副作用が強く現れやすくなります。
影響が大きいのは、蛋白結合率の高い薬です。たとえば結合率99%の薬が98%に下がると、遊離型は1%から2%になり、作用する薬の割合は2倍になります。代表的な薬と注意すべき症状は次のとおりです。
- ワルファリン:出血
- フェニトイン:ふらつき、眼振などの中毒症状
- ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬:過鎮静、転倒
フェニトインには特に注意が必要です。低アルブミン血症では、測定した血中濃度(総濃度)が治療域内でも遊離型が多く、中毒症状が出ることがあります。
加齢と薬物動態の全体像
高齢者で薬が効きすぎる背景は、アルブミンの減少だけではありません。薬物動態の段階ごとに整理すると、次のようになります。
- 吸収:胃酸分泌、消化管運動、消化管血流は低下します。ただし多くの薬は小腸で受動拡散によって吸収されるため、吸収される総量はあまり変わりません。変わるのは主に吸収の速さです。
- 分布:体内の水分が減り、体脂肪の割合が増えます。水溶性の薬は分布する範囲が狭くなるため血中濃度が上がります。脂溶性の薬(ジアゼパムなど)は脂肪組織に蓄積し、作用が長引きます。これにアルブミンの減少による遊離型の増加が加わります。
- 代謝:肝重量、肝血流量、代謝酵素の活性が低下します。経口薬では肝臓での初回通過効果が小さくなるため、全身に届く量が増え、半減期も延びます。
- 排泄:腎血流量と糸球体濾過量が低下するため、腎臓から排泄される薬が体内にたまりやすくなります。高齢者は筋肉量が少ないので、血清クレアチニン値が正常範囲でも腎機能が低下していることがあります。
- 感受性:中枢神経などで薬への感受性が高まる薬力学的な変化もあり、せん妄や転倒につながります。
この問題では、「経口薬」という言葉から消化管の変化(選択肢2・3)を選びたくなります。しかし、消化管の変化は薬効を強める主な原因ではありません。「薬効が強く現れる=作用する薬の量が増える」と考えれば、分布の段階で遊離型を増やすアルブミンの減少に行き着きます。
看護での活かし方
高齢者への薬物療法の基本は、少量から開始し、効果と副作用を観察しながら慎重に増量することです。看護師は次の点を継続して観察します。
- 栄養状態:血清アルブミン値、体重の変化、食事摂取量
- 腎機能・肝機能
- 服用している薬の種類と数
- ふらつき、転倒、せん妄、出血傾向、食欲不振などの有害事象
多剤併用(ポリファーマシー)の見直しや、飲み忘れ・重複服用を防ぐ服薬管理の支援も重要な役割です。
選択肢の確認
1.骨密度の低下:骨密度は骨に含まれるミネラル量の指標です。低下すると骨粗鬆症となり骨折しやすくなりますが、薬の吸収・分布・代謝・排泄のいずれにも直接関わらないため、薬効が強く現れる理由にはなりません。高齢者の薬物療法で骨が問題になるのは、睡眠薬や降圧薬の効きすぎによるふらつき・転倒が、骨のもろい高齢者では骨折につながりやすいという場面です。「薬の副作用によって問題が大きくなる変化」と「薬効を強める原因」を取り違えないようにします。
2.胃酸分泌の減少:加齢や萎縮性胃炎によって胃酸が少なくなることは事実です。しかし胃酸が減ると、酸性の環境で溶けやすい薬や鉄剤などの吸収は、むしろ低下しやすくなります。また、多くの薬は小腸で受動拡散によって吸収されるため、胃内のpHが変わっても吸収量が大きく増えることはありません。薬効を強める方向の変化ではないため、効きすぎの理由としては当てはまりません。
3.消化管運動の低下:胃から腸への移送や腸の蠕動が遅くなると、薬が吸収部位に届くまでに時間がかかります。そのため最高血中濃度に達するまでの時間が延び、効果の発現が遅れることはあります。しかし吸収される総量はあまり変わらないため、血中濃度を高めて作用を強める主な原因にはなりません。この変化は、高齢者の便秘の要因として、また抗コリン作用をもつ薬やオピオイドで悪化しやすい点として問われることの多い知識です。
4.血清アルブミンの減少:正答。アルブミンは薬物と結合する主な血漿蛋白です。これが減ると、結合できずに血中に残る遊離型の薬物が増えます。薬理作用を現すのは遊離型なので、通常量でも作用や副作用が強く現れやすくなります。低栄養の高齢者に、蛋白結合率の高いワルファリンやフェニトインを使う場合は、出血傾向や中毒症状に特に注意が必要です。
覚えるポイント
- 薬理作用を現すのは遊離型の薬物です。アルブミンが減ると遊離型が増え、同じ量でも効きすぎます。
- 蛋白結合率の高い薬(ワルファリン、フェニトイン、ジアゼパム)は、アルブミン減少の影響を受けやすい代表例です。
- 加齢による薬物動態の変化は、段階ごとに押さえます。
- 吸収:総量はほぼ不変で、速さが遅れる。
- 分布:体内水分が減り、脂肪が増え、アルブミンが減る。
- 代謝:肝血流と代謝能が低下し、初回通過効果が小さくなる。
- 排泄:糸球体濾過量が低下する。
- 高齢者は筋肉量が少ないため、血清クレアチニン値が正常でも腎機能が低下していることがあります。
- 低栄養の目安は血清アルブミン3.5g/dL以下です。低栄養の高齢者では薬の副作用にも注意を向けます。
- 投与の原則は、少量から開始して慎重に増量することです。あわせて多剤併用を見直し、転倒・せん妄・出血などの有害事象を観察します。
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