111PM050|第111回 看護師国家試験 過去問
乳癌 breast cancer の患者に対する抗エストロゲン薬の副作用はどれか。
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正解: 2
正答
2.ほてり
この問題のポイント
乳癌の内分泌療法(ホルモン療法)に用いる抗エストロゲン薬の副作用を問う問題です。判断の鍵は「抗エストロゲン」という薬の名前で、この薬はエストロゲンの量を減らすのではなく、受容体でエストロゲンの作用を遮断します。体温調節中枢(視床下部)でも作用が遮断されるため、閉経期に似た更年期様症状としてほてり(ホットフラッシュ)が起こると推論できます。ほかの選択肢は、血糖降下薬や一部の抗癌薬など、別の薬剤に特徴的な副作用です。
解説
内分泌療法の対象と薬の種類
乳癌の多くは、エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体(PgR)をもつホルモン受容体陽性乳癌です。このタイプは、エストロゲンが受容体に結合する刺激で増殖します。そのため、この刺激を断つ内分泌療法が有効です。
乳癌の薬物療法はサブタイプで選びます。
- ホルモン受容体陽性:内分泌療法
- HER2陽性:トラスツズマブなどの抗HER2薬(化学療法と併用)
- どちらも陰性(トリプルネガティブ):細胞傷害性抗癌薬が中心
内分泌療法の薬は、エストロゲンの働きをどのように抑えるかで2つに分けると整理できます。
- 受容体で作用を遮断する薬(抗エストロゲン薬):タモキシフェン、トレミフェン(選択的エストロゲン受容体調節薬:SERM)と、受容体の分解を促すフルベストラントです。がん細胞のエストロゲン受容体でエストロゲンが働くのを妨げますが、血中のエストロゲン量は減らしません。
- エストロゲンの量を減らす薬:アロマターゼ阻害薬とLH-RHアゴニストです。アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン)は、主に閉経後の患者に用います。閉経後は脂肪組織などでアンドロゲンからエストロゲンがつくられるため、この反応を阻害します。LH-RHアゴニスト(ゴセレリン、リュープロレリン)は閉経前の患者に用います。持続的に投与すると下垂体からのLH・FSHの分泌が抑えられ、卵巣からのエストロゲン分泌が減ります。
閉経前の女性がタモキシフェンを服用しても、卵巣からのエストロゲン分泌は続きます。血中濃度がむしろ上がることもあります。それでも受容体で作用が遮断されるため、治療効果もほてりなどの副作用も現れます。エストロゲンの量を減らす薬と、受容体で作用を遮断する薬を区別しておくことが大切です。
ほてりが起こるしくみ
エストロゲンは視床下部の体温調節にも関わっています。その作用が弱まると、体温調節の幅(発汗もふるえも起こらない体温の範囲)が狭くなります。すると、わずかな体温上昇でも皮膚血管の拡張や発汗が起こります。これが、顔面から上半身が急に熱くなるほてりです。
閉経期はエストロゲンの減少によって、視床下部でエストロゲンが働きにくくなります。抗エストロゲン薬では、受容体での作用遮断によって同じ状態になります。アロマターゼ阻害薬やLH-RHアゴニストもエストロゲンの量を減らします。そのため、ほてりは内分泌療法に共通する代表的な副作用です。発汗、動悸、不眠、いらいら、気分の落ち込みなど、更年期障害に似た症状を伴うこともあります。
タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬で注意する副作用
SERMは、組織によってエストロゲンに拮抗したり、エストロゲン様に作用したりします。タモキシフェンは乳癌細胞には拮抗して増殖を抑えますが、次の組織ではエストロゲン様に作用します。
- 子宮内膜:子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まります。不正性器出血やおりものの変化があれば受診するよう伝え、定期的な婦人科受診を指導します。
- 凝固系:静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)のリスクが高まります。片側の下肢の腫れや痛み、突然の胸痛や呼吸困難に注意します。
- 骨:閉経後の女性では、骨密度を保つ方向に働きます。
このほか、肝機能障害や視覚障害にも注意します。一方、アロマターゼ阻害薬はエストロゲンを強く減らします。そのため、骨密度の低下と、関節痛・関節のこわばりが特徴的な副作用です。
看護での生かし方
内分泌療法は、タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬などの経口薬が中心です。術後の再発予防では、5〜10年と長期間続けます。LH-RHアゴニストは数週〜数か月ごとの皮下注射、フルベストラントは筋肉内注射です。患者は外来に通い、内服を自己管理しながら治療を続けます。
ほてりは生命に関わる副作用ではありません。しかし生活の質を下げ、自己判断での服薬中断につながることがあります。看護師は次のような工夫を伝え、つらいときは我慢せず医療者に相談するよう支援します。
- 脱ぎ着しやすい重ね着をする
- 室温を調整する
- 刺激物や飲酒を控える
- リラクセーションを取り入れる
なお、内分泌療法は脱毛や骨髄抑制が目立つ治療ではありません。この点で、細胞傷害性抗癌薬とは副作用の性質が大きく異なります。
選択肢の確認
1.低血糖:血糖を下げる働きは抗エストロゲン薬の作用機序とは関係がなく、代表的な副作用にも挙げられません。血糖が下がりすぎる副作用を起こしやすいのは、インスリン製剤やスルホニル尿素薬などの血糖降下薬です。冷汗、動悸、手指の振戦、意識障害などが現れます。糖尿病を合併する乳癌患者では、これらの薬の副作用として観察し、ホルモン療法の副作用と混同しないようにします。
2.ほてり:正答。抗エストロゲン薬はエストロゲンの量は減らしませんが、受容体でエストロゲンの作用を遮断します。視床下部の体温調節中枢でも作用が遮断されるため、閉経期のエストロゲン低下時と同じように体温調節が乱れます。その結果、顔面や上半身が急に熱くなるホットフラッシュが起こります。発汗や不眠などの更年期様症状を伴うことも多く、内分泌療法全般に共通する代表的な副作用です。
3.肺線維症 pulmonary fibrosis:肺の間質に炎症が起こり、線維化が進んで肺が硬くなる病態で、抗エストロゲン薬の代表的な副作用ではありません。薬剤性のものでは、抗癌薬のブレオマイシンやブスルファン、抗不整脈薬のアミオダロンなどが原因薬としてよく知られています。初期症状は乾いた咳や労作時の息切れです。原因となる薬の投与中にこれらが現れたら、早期に医師へ報告します。
4.末梢神経障害:手足のしびれ、感覚の鈍さ、ボタン掛けなど細かい動作の困難として現れる副作用で、抗エストロゲン薬の特徴ではありません。代表的な原因薬は、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンカアルカロイド系(ビンクリスチン)、プラチナ製剤(オキサリプラチン)などの細胞傷害性抗癌薬です。このうちタキサン系は、乳癌の化学療法でよく使われます。同じ乳癌の薬物療法でも、化学療法と内分泌療法の副作用は区別して覚えます。
覚えるポイント
- 抗エストロゲン薬(タモキシフェン、トレミフェン、フルベストラント)は、受容体でエストロゲンの作用を遮断する薬です。エストロゲンの量そのものを減らすのは、アロマターゼ阻害薬(閉経後)とLH-RHアゴニスト(閉経前)です。
- どの内分泌療法もエストロゲンの働きを弱めるため、**ほてり(ホットフラッシュ)**や発汗などの更年期様症状が共通の副作用です。
- タモキシフェン(SERM)は子宮内膜や凝固系にはエストロゲン様に作用し、子宮体癌と静脈血栓塞栓症のリスクを高めます。不正性器出血、片側の下肢の腫れ、胸痛・呼吸困難に注意します。
- アロマターゼ阻害薬は、骨密度低下と関節痛・関節のこわばりが特徴的な副作用です。
- 内分泌療法は経口薬が中心ですが、LH-RHアゴニストは皮下注射、フルベストラントは筋肉内注射です。年単位で続けるため、副作用への対処と服薬継続の支援が看護の要点です。
- がん薬物療法で押さえる特徴的な副作用として、タキサン系・ビンクリスチン・オキサリプラチンは末梢神経障害、ブレオマイシンは肺線維症、アントラサイクリン系とトラスツズマブは心毒性を起こします。
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