112AM048|第112回 看護師国家試験 過去問
右肺尖部の肺癌 lung cancer の胸壁への浸潤による症状はどれか。
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正解: 4
正答
4.上肢の疼痛
この問題のポイント
肺尖部の肺癌が胸壁へ広がったとき、すぐ近くを通るどの構造が障害されるかを、解剖の位置関係から考える問題です。「右肺尖部」と「胸壁への浸潤」という語から、Pancoast(パンコースト)腫瘍を思い浮かべられるかが鍵になります。周囲の腕神経叢と交感神経(星状神経節)が障害されると何が起こるかを、瞳孔が縮むのか開くのかといった症状の向きまで正確に押さえることが大切です。
解説
肺尖部の解剖とPancoast腫瘍
肺尖部は胸郭の最上部にあり、第1肋骨より上、鎖骨上窩の深部まで達しています。この狭い領域(胸郭入口部)には、次の構造が集まっています。
- 腕神経叢(C5〜T1)。特に肺尖に接するのは下神経幹(C8・T1)です
- 交感神経幹と頸部の神経節(星状神経節)
- 鎖骨下動脈・鎖骨下静脈
- 第1・第2肋骨、上位の胸椎
肺尖部の肺癌は気管支の中枢から離れているため、咳や血痰などの呼吸器症状が出にくい傾向があります。一方で、胸膜を越えて胸壁へ浸潤すると、これらの構造を巻き込みます。肺尖部から胸壁へ浸潤した肺癌をPancoast腫瘍(肺尖部胸壁浸潤癌)と呼び、それによって生じる一連の症状をPancoast症候群といいます。
腕神経叢浸潤による上肢の疼痛
最も多く、初発症状にもなりやすいのが、肩から上肢にかけての強い痛みです。肺尖に最も近い下神経幹(C8・T1)が侵されるため、痛みやしびれは上腕の内側、前腕の尺側、環指・小指へ放散します。進行すると、骨間筋や小指球筋などの手内筋に筋力低下と筋萎縮が加わります。肋骨や胸膜への浸潤による肩甲部や胸部の痛みを伴うこともあります。
この痛みは肩関節周囲炎や頸椎症と間違われやすい症状です。また、胸部エックス線写真では肺尖部が鎖骨や肋骨と重なるため、腫瘍が見落とされやすい部位でもあります。そのため診断が遅れやすいことが、臨床上の注意点です。
看護の場面では、肺癌の患者が肩や腕の痛み、手のしびれを訴えたときに、単なる肩こりや同じ体位による痛みと決めつけないことが大切です。腫瘍の浸潤による神経障害性疼痛の可能性を考えて観察し、報告します。観察する項目は、痛みの部位と広がり、性質(しびれ、電撃痛、灼熱感など)、握力やボタンかけなど細かい動作の低下です。これらを具体的に記録して伝えると、疼痛管理や病状の評価に役立ちます。
交感神経障害によるHorner症候群
星状神経節など頸部の交感神経が障害されると、患側にHorner(ホルネル)症候群が生じます。
- 縮瞳:交感神経支配の瞳孔散大筋が働かなくなるため
- 軽度の眼瞼下垂:交感神経支配の上瞼板筋(ミュラー筋)の麻痺による
- 顔面の発汗低下(無汗)
- 眼球陥凹:眼裂が狭くなるため、見かけ上そうみえる
「交感神経は瞳孔を開く神経なので、障害されると縮瞳になる」と機序から考えると、散瞳との取り違えを防げます。観察では、瞳孔と眼瞼の左右差を確認します。
肺癌の局所進展による他の症状
肺癌が周囲へ広がったときの症状は、「どこに何があるか」と結びつけて覚えると整理しやすくなります。
- 反回神経麻痺による嗄声:左は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈を回って反転するため、縦隔や肺尖部の病変で生じることがあります
- 上大静脈症候群:顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈や前胸部の静脈の怒張がみられます。右側の腫瘍や縦隔リンパ節転移で生じやすい症状です
- 横隔神経麻痺:患側の横隔膜が挙上します
- 脳転移:頭痛、嘔吐、片麻痺、構音障害などの中枢神経症状が出ます。ただし胸壁浸潤による症状ではありません
選択肢の確認
1.散瞳:肺尖部の胸壁浸潤で障害されるのは交感神経です。瞳孔散大筋が働かなくなるため、生じるのは反対の縮瞳です。散瞳は、動眼神経に含まれる副交感神経線維が障害されて瞳孔括約筋が働かなくなった場合(脳ヘルニアによる動眼神経の圧迫など)にみられます。抗コリン薬やアドレナリン作動薬の作用でも起こります。Horner症候群の瞳孔所見を逆に覚えていると選んでしまう選択肢です。
2.構音障害:構音障害は、口唇・舌・軟口蓋など発語器官の運動が障害され、発音が不明瞭になる状態です。原因は、脳梗塞や脳出血などによる大脳・小脳・脳幹の病変や、舌下神経など下位脳神経の障害であり、肺尖部の胸壁浸潤では生じません。肺癌による声の異常として代表的なのは、反回神経麻痺による嗄声(声がかすれる発声の障害)で、構音の障害とは区別します。肺癌の脳転移で構音障害が現れることはありますが、胸壁浸潤による症状ではありません。
3.閉眼困難:まぶたを閉じる眼輪筋は顔面神経(第Ⅶ脳神経)の支配です。閉眼困難(兎眼)は、Bell麻痺などの顔面神経麻痺でみられる症状です。顔面神経は頭蓋内から顔面に分布する神経で、肺尖部の病変が及ぶ範囲にはありません。Horner症候群で生じるのは軽度の眼瞼下垂で、「開けにくい」方向の変化です。「閉じにくい」閉眼困難とは向きが逆です。
4.上肢の疼痛:正答。肺尖部の腫瘍が胸壁へ浸潤して腕神経叢(特にC8・T1の下神経幹)を侵すと、肩から上腕内側、前腕尺側、環指・小指へ放散する強い痛みが生じます。Pancoast腫瘍で最も多い症状であり、進行すると手内筋の萎縮や筋力低下を伴います。
覚えるポイント
- Pancoast腫瘍は、肺尖部の肺癌が胸壁へ浸潤したものです。代表的な症状は「肩・上肢の痛み」「Horner症候群」「手内筋の萎縮」です。
- 上肢の痛みは腕神経叢の下神経幹(C8・T1)の障害によるもので、上腕内側から前腕尺側、環指・小指へ放散します。
- Horner症候群は交感神経の障害で、縮瞳・軽度の眼瞼下垂・顔面の無汗が生じます。散瞳ではありません。
- 散瞳は動眼神経(副交感神経)の障害、閉眼困難は顔面神経麻痺、構音障害は脳や下位脳神経の障害で起こります。
- 肺癌の局所進展による症状は、反回神経麻痺で嗄声、上大静脈症候群で顔面・上肢の浮腫、横隔神経麻痺で横隔膜挙上です。
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