112AM054|第112回 看護師国家試験 過去問

高齢者の身体拘束に関する説明で適切なのはどれか。

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正解: 4

正答

4.切迫性、非代替性および一時性の全てを満たしている場合に検討される。

この問題のポイント

高齢者ケアで身体拘束が例外的に認められる「緊急やむを得ない場合」の要件と、その判断・説明の手続きを問う問題です。鍵になるのは、厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」(2001年)の内容です。3要件をすべて満たすこと、個人ではなく組織で判断すること、本人と家族の双方に説明すること、ミトン型手袋も禁止対象の行為に含まれること、の4点を押さえれば正答できます。

解説

4つの選択肢は、それぞれ別の論点を扱っています。誰が判断するか(選択肢1)、何が身体拘束に当たるか(選択肢2)、誰に説明するか(選択肢3)、どんな条件で許されるか(選択肢4)です。いずれも「身体拘束ゼロへの手引き」の内容で判定できます。

身体拘束が原則禁止とされる理由

2000年の介護保険制度の施行に伴い、介護保険施設等の運営基準に身体拘束を禁じる規定が設けられました。入所者本人または他の入所者等の生命・身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動制限を行ってはならないという内容です。さらに、2006年施行の高齢者虐待防止法のもとでは、緊急やむを得ない場合以外の身体拘束は、原則として高齢者虐待(身体的虐待)に当たると考えられています。

転倒やチューブ抜去を防ぐ目的であっても、身体拘束は大きな弊害を生みます。手引きは弊害を次の3つに分けて示しています。

  • 身体的弊害:関節拘縮・筋力低下・褥瘡、食欲低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下、無理な立ち上がりや柵の乗り越えによる転倒・転落、抑制具による窒息
  • 精神的弊害:本人の不安・怒り・屈辱・あきらめと尊厳の侵害、認知症の進行やせん妄の頻発、家族の精神的苦痛(拘束された姿を見たときの混乱・後悔・罪悪感)、ケアに誇りを持てなくなることによる看護・介護スタッフの士気の低下
  • 社会的弊害:スタッフの士気低下に加えて介護保険施設等への社会的な不信・偏見を招くこと、心身機能の低下によるQOLの低下、さらなる医療的処置が必要になることによる経済的影響

家族の苦痛は、社会的弊害ではなく精神的弊害に分類される点に注意しましょう。また、拘束によって心身の機能が低下すると、せん妄や転倒などが起こり、さらに拘束が必要になるという悪循環に陥ります。

「緊急やむを得ない場合」の3要件

手引きは、次の3つをすべて満たす場合に限って、身体拘束を例外的に認めています。

  • 切迫性:本人または他の利用者等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
  • 非代替性:身体拘束その他の行動制限以外に、代わりとなる介護方法がないこと
  • 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

1つでも欠ければ認められません。次のような場合は、それぞれ要件を欠きます。

  • 「転倒するかもしれない」という漠然とした懸念だけの場合は、切迫性を満たしません。
  • 見守りや環境調整などの代替方法を十分に検討していない場合は、非代替性を満たしません。
  • 期限を決めずに漫然と続ける場合は、一時性を満たしません。

要件に加えて求められる手続き

  • 判断は担当スタッフ個人や数名では行わず、施設全体として行います。身体拘束廃止委員会などで手続きをあらかじめ定め、関係者が幅広く参加するカンファレンスで判断します。
  • 本人と家族に、拘束の内容・目的・理由・時間帯・期間などをできる限り詳しく説明し、十分な理解を得るよう努めます。事前に施設の考え方を説明していても、実際に拘束する時点で必ず個別に説明します。
  • 実施中は常に観察・再検討し、要件に当てはまらなくなったら直ちに解除します。
  • 拘束の態様と時間、その際の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録します。記録は運営基準で義務づけられています。

出題後も、介護報酬・診療報酬の改定で身体拘束の適正化・最小化の取り組みは強化されています。ただし、3要件と組織的判断という考え方は変わっていません。

なお、精神科病院での身体的拘束は別の枠組みです。精神保健福祉法に基づき、精神保健指定医が必要と認めた場合に限って行われます。

看護実践での意味

看護師は患者の最も近くにいます。その立場から、拘束の原因となる行動の背景を探り、代わりとなる方法を提案する役割を担います。背景には、痛み、かゆみ、排泄の欲求、チューブの違和感、せん妄などがあります。

  • チューブ類:必要性を定期的に見直して早期抜去を目指し、固定を工夫して視界や手の届く範囲から外します。
  • 転倒・転落:低床ベッドや衝撃緩和マット、排泄パターンに合わせた誘導、見守りの工夫で対応します。

非代替性の判断は、こうした代替策をどこまで検討したかにかかっています。

選択肢の確認

1.身体拘束の実施は担当看護師が決定する。:手引きは、「緊急やむを得ない場合」に当たるかどうかの判断を、担当スタッフ個人や数名で行わず、施設全体の判断とするよう求めています。委員会で定めた手続きに沿い、関係者が参加するカンファレンスで検討します。病院であれば、医師を含む多職種で検討します。担当看護師は、観察情報の提供、代替策の提案、実施中の観察と解除の提案で重要な役割を担いますが、単独で実施を決める立場ではありません。

2.ミトン型の手袋の使用は身体拘束ではない。:手引きが示す身体拘束の具体的行為11項目には、「点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける」が明記されています。「ひもで縛っていない」「治療を守る目的だから」という理由で拘束に当たらないと考えるのは、よくある誤解です。同様に、4点柵(ベッドを柵で囲む)、Y字型拘束帯、つなぎ服、向精神薬の過剰投与、自分の意思で開けられない居室への隔離なども身体拘束に含まれます。

3.本人が身体拘束に同意していれば家族への説明は不要である。:手引きは、本人と家族の双方に拘束の内容・目的・理由・時間・期間などを説明し、十分な理解を得るよう求めています。身体拘束が検討される高齢者は、認知症やせん妄で判断能力が低下していることが多く、本人の同意だけに頼るのは適切ではありません。また、本人や家族が同意していても、3要件を満たさない拘束は行えません。同意が要件の代わりになることはありません。

4.切迫性、非代替性および一時性の全てを満たしている場合に検討される。:正答。身体拘束は原則禁止です。生命・身体への危険が著しく高いこと(切迫性)、ほかに代わる方法がないこと(非代替性)、一時的であること(一時性)の3つをすべて満たすときに限り、例外として検討されます。さらに、組織的な判断、本人・家族への説明、記録、継続的な再評価と速やかな解除という手続きも必要です。

覚えるポイント

  • 身体拘束が例外的に認められる3要件は切迫性・非代替性・一時性で、1つでも欠ければ不可です。
  • 判断は個人ではなく施設全体(委員会・カンファレンス)で行います。本人と家族の双方に説明し、態様・時間・心身の状況・理由を記録します。
  • 本人や家族の同意があっても、3要件を満たさない拘束は認められません。要件を満たさなくなったら直ちに解除します。
  • 禁止対象はひもで縛る行為に限りません。ミトン型手袋、4点柵、Y字型拘束帯・腰ベルト、立ち上がりを妨げるいす、つなぎ服、向精神薬の過剰投与、自分で開けられない居室への隔離も含まれます。
  • 弊害は3つに分けて覚えます。身体的(拘縮・褥瘡・筋力低下・転倒転落)、精神的(本人の苦痛・せん妄・認知症の進行、家族の苦痛)、社会的(施設への社会的不信・偏見、経済的影響)です。
  • 精神科病院での身体的拘束は、精神保健福祉法に基づき、精神保健指定医が必要と認めた場合に行われます。

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