112AM113|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み112〜114の問いに答えよ。Aさん(20歳、女性)は境界性人格〈パーソナリティ〉障害 borderline personality disorder の診断を受け、精神科外来に通院中である。ある日、人間関係のトラブルから処方されていた睡眠薬を過量服薬して自殺企図をしたところを家族に発見され、救命救急センターに搬送された。Aさんは身体的な治療を受けた後、精神科病棟に入院することになった。入院3日の22時、Aさんがハサミを貸してほしいとナースステーションに来た。日勤の看護師がいる時間帯のみ付き添いでハサミの貸出が可能という主治医からの指示を伝えると「看護師Bは貸してくれたのに。こんなひどい対応をする看護師はあなただけだ」と話し、その場を動かない。このときのAさんへの対応で適切なのはどれか。
解答・解説を見る
正解: 1
正答
1.ハサミの使用目的を聞く。
この問題のポイント
境界性パーソナリティ障害の患者が、ルールで制限された要求を、他の看護師と比べながら迫ってくる場面での対応を問う問題です。「看護師Bは貸してくれたのに」「あなただけだ」という言葉は、スタッフを「良い人」と「悪い人」に分ける**分裂(スプリッティング)**の表れと読み取れます。自殺企図から3日目で危険物の管理が必要な時期であることも踏まえ、次の3点を満たす対応を選びます。
- 治療の枠組みを崩さない
- 職員の評価の話に乗らない
- 本人の要求の中身に目を向ける
解説
事例の整理
- 20歳女性。境界性パーソナリティ障害で精神科外来に通院中
- 人間関係のトラブルを契機に、処方薬を過量服薬して自殺を図った。救命後、精神科病棟に入院
- 入院3日目の22時(夜勤帯)に、ハサミの貸出を求めた
- 主治医の指示は「日勤の看護師がいる時間帯のみ、付き添いで貸出可」
- 指示を伝えると、他の看護師と比べて目の前の看護師を非難し、その場を動かない
境界性パーソナリティ障害と分裂
境界性パーソナリティ障害では、次のような特徴が成人早期までに持続的なパターンとして現れます。
- 見捨てられることへの強い不安
- 理想化とこき下ろし(脱価値化)の間で揺れる不安定な対人関係
- 感情の不安定さ、衝動性
- 自殺企図や自傷の反復
- 不適切で激しい怒り、慢性的な空虚感
DSM-5では9つの診断基準のうち5つ以上を満たすことで診断されます。
分裂は、自分や他者を「すべて良い」か「すべて悪い」かに分けてとらえる防衛機制です。病棟では、これがスタッフに向けられます。「分かってくれる看護師」と「冷たい看護師」に分けられた結果、スタッフ同士が対立したり、看護師ごとにルールの運用がぶれたりします。枠組みがぶれると、治療チームの一貫性が失われます。患者も「強く迫れば通る」と学び、行動化がかえって強まります。
対応の原則
- 治療上の枠組みをチームで共有し、全員が一貫して守ります(限界設定)。
- 制限は看護師個人の考えではなく、治療チームの取り決めとして冷静に伝えます。
- 他の職員への称賛や非難には同調も否定もせず、話題を本人の要求や気持ちに戻します。
- 怒りや不満の感情は受け止めつつ、行動の枠は変えません。
- 事実確認や対応の統一は、患者の前ではなく、申し送りやカンファレンスで行います。
なぜ「使用目的を聞く」のか
この場面で使用目的を尋ねることには、次の意味があります。
- 話題を「看護師Bとあなたの比較」から「Aさんが何をしたいのか」に戻せます。分裂の構図に乗らずに済みます。
- 目的が分かれば、指示の範囲内で具体的な解決策を一緒に考えられます。たとえば、翌日の日勤帯に付き添いで使う約束をする、ハサミ以外の方法で済むかを検討する、といったことです。
- 自殺企図の直後であり、自傷の意図、今の気分、不安の強さをアセスメントする機会になります。
- 本人に関心を向けていることが伝わります。「拒絶された」「見捨てられた」という感覚を和らげ、背景にある不安や孤独に触れる糸口になります。
看護師自身の感情への配慮
強く非難されると、看護師は陰性感情を抱きやすくなります。その結果、感情的に言い返したり、逆に要求をのんで場を収めようとしたりしがちです。向けられた言葉を個人攻撃と受け取りすぎず、疾患の特性として理解することが大切です。つらさはチーム内で共有しましょう。
なお、治療法としては弁証法的行動療法(DBT)などが有効とされています。
選択肢の確認
1.ハサミの使用目的を聞く。:正答。主治医の指示という枠組みを保ったまま、要求の中身に焦点を戻せる対応です。目的が分かれば、日勤帯まで待てるか、別の方法で代えられるかを本人と一緒に検討できます。自殺企図直後の自傷の意図や心理状態を評価する機会にもなります。看護師Bとの比較には触れないため、分裂の構図にも巻き込まれません。
2.看護師付き添いのもとハサミを貸し出す。:付き添いがあっても、「日勤の看護師がいる時間帯のみ」という主治医の指示に反します。夜勤帯は職員が少なく、自殺企図から間もない患者に刃物を渡すのは安全面で問題があります。また、強く迫れば枠組みが崩れるという経験は要求や行動化を強化し、同じ場面が繰り返されます。「ルールを曲げる看護師」と「守る看護師」という分裂をさらに深めることにもなります。日勤帯であれば、指示どおり付き添いで貸し出すことは適切です。
3.看護師Bが誤った対応をしたと説明する。:患者の前で同僚を批判すると、看護師自身がスタッフ間の分裂に加わることになり、チームの信頼関係と治療の一貫性を損ないます。そもそも看護師Bがいつ、どのような状況で貸したのかは、この場では確認されていません。日勤帯に付き添いで貸したのであれば、指示どおりの対応です。事実確認と対応の統一は、患者の前ではなくチーム内で行います。
4.Aさんの行動が心配なので貸し出せないと伝える。:貸し出せない理由を本人の行動への心配として伝えると、「危険な人と見られている」「信用されていない」と受け取られやすくなります。その結果、拒絶感や見捨てられ不安を刺激します。看護師個人の判断による制限のように聞こえるため、「この看護師だけがひどい」という受け止めを強めかねません。制限を伝えるときは、主治医の指示に基づく治療上の取り決めであり、どの看護師が対応しても同じであることを、穏やかに一貫して伝えるのが基本です。すでに伝えた理由を言い換えて断るだけでは、要求の背景にあるニーズにも近づけません。
覚えるポイント
- 境界性パーソナリティ障害の主な特徴は、見捨てられ不安、理想化と脱価値化で揺れる対人関係、衝動性、自殺企図・自傷の反復、感情の不安定さ、激しい怒り、慢性的な空虚感です。
- 分裂(スプリッティング)が起きたら、スタッフ間で情報を共有し、カンファレンスで対応を統一して一貫性を保ちます。
- 限界設定では、ルールを看護師個人の感情ではなく治療チームの取り決めとして冷静に伝え、要求に押されて例外を作りません。
- 他の職員への称賛や非難には同調も否定もせず、話題を本人の要求や気持ちに戻します。
- 要求の目的や背景を尋ねることは、ニーズへの対応と、自傷リスクなどのアセスメントを同時に行う方法になります。
- 自殺企図後の入院早期は危険物の管理を徹底し、夜間など職員が少ない時間帯の例外対応は避けます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。