112AM112|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み112〜114の問いに答えよ。Aさん(20歳、女性)は境界性人格〈パーソナリティ〉障害 borderline personality disorder の診断を受け、精神科外来に通院中である。ある日、人間関係のトラブルから処方されていた睡眠薬を過量服薬して自殺企図をしたところを家族に発見され、救命救急センターに搬送された。Aさんは救急外来で治療を受け会話ができるまでに回復した。Aさんへの看護師の最初の対応で適切なのはどれか。
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正解: 2
正答
2.現在の希死念慮の有無について確認する。
この問題のポイント
自殺企図で救急搬送された患者が、身体的に回復して会話ができるようになった時点で、看護師が最初に行う対応を問う問題です。判断の手がかりは「自殺企図」「会話ができるまでに回復した」「最初の対応」という言葉です。再企図の危険を評価して安全を確保することが最優先になります。境界性パーソナリティ障害という診断名にとらわれず、自殺リスク評価の原則に立ち返れるかが問われています。
解説
状況の整理
- Aさんは20歳の女性で、境界性パーソナリティ障害のため精神科外来に通院中です。
- 人間関係のトラブルをきっかけに、処方されていた睡眠薬を過量服薬しました。自殺企図であり、家族が発見して救命救急センターに搬送されています。
- 救急外来での治療により、会話ができるところまで回復しています。
- 問われているのは看護師の「最初の」対応です。
「会話ができるまでに回復した」とは、生命に関わる身体的な危機をひとまず脱し、意思疎通ができる状態になったという意味です。身体の安全の次に優先すべきなのは、再び自殺を図る危険がどの程度あるかを評価することです。
自殺企図直後に希死念慮を確認する理由
自殺未遂歴は、将来の自殺の最も強い危険因子の一つです。企図の直後には次のような状態が重なりやすく、希死念慮が続いていることが少なくありません。
- 死ねなかったことへの失望
- 周囲への怒りや恥の感情
- きっかけになった対人関係の問題が解決していないこと
そのため、会話ができるようになったら、まず次の点を確認します。
- 死にたい気持ちが今もあるか、それはどのくらい強いか
- 具体的な方法や計画を考えているか
- 手段が手に入る状況か
- 過去に企図したことがあるか
- 支えになる人がいるか
希死念慮について尋ねると自殺を誘発するのではと心配されがちですが、率直に尋ねても危険は高まりません。むしろ、苦しさを打ち明ける機会になります。自殺の危険がある人への関わりとして、TALKの原則が知られています。
- Tell:心配していることを言葉で伝える
- Ask:死にたい気持ちについてはっきり尋ねる
- Listen:絶望的な気持ちを傾聴する
- Keep safe:安全を確保する
評価の結果によって、その後の対応が決まります。希死念慮が強い場合や具体的な計画がある場合は、次のような対応をとります。
- 観察の頻度を上げる
- 紐・刃物・薬剤などの危険物を周囲から除く
- 医師に報告し、精神科医の診察や入院の要否の検討につなぐ
- 家族に状況を説明し、協力を得る
評価はすべての看護計画の出発点になるので、「最初」に行う意味があります。
境界性パーソナリティ障害の特徴と関わり方
境界性パーソナリティ障害には、次のような特徴があります。
- 見捨てられることへの強い不安
- 相手を理想化したりこき下ろしたりする、不安定な対人関係
- 自己像の不安定さ
- 衝動性
- 自傷や自殺行動の繰り返し
- 激しい感情の揺れ
- 慢性的な空虚感
- 不適切で激しい怒り
自殺企図を繰り返すことがあるため、「周囲の気を引くための行動」と受け止めて軽く扱われがちです。しかし、自殺既遂に至る割合は一般人口より高いとされており、企図のたびに真剣にリスクを評価しなければなりません。
関わり方の基本は次のとおりです。
- 受容的でありながら一貫した態度をとる
- 責めたり問い詰めたりしない
- 必要な限界設定を行う
- 特定の看護師だけに頼る関係を避け、チームで統一した対応をとる
この視点は、選択肢3・4が不適切である理由にもつながります。
正答に至る判断
選択肢1と選択肢3は、企図に至った行動を検討する関わりです。どちらも、安全の確認より後に行うべき内容です。選択肢4の約束は、リスク評価や安全確保の代わりになりません。現在の自殺の危険を直接評価する選択肢2が、最初の対応として最も適切です。
選択肢の確認
1.過量服薬した場面の振り返りを促す。:企図の直後は感情が混乱しています。つらい場面を思い出させると苦痛や自責感が強まり、希死念慮を再燃させるおそれがあります。企図に至ったきっかけや気持ちを振り返ることは、再発予防や新しい対処方法を身につけるうえで大切な関わりです。ただし、安全が確保され、信頼関係ができ、本人が自分の体験を語れる状態になってから、本人のペースで進めるものです。「最初」の対応としては、リスク評価より優先度が低くなります。
2.現在の希死念慮の有無について確認する。:正答。自殺企図の直後は再企図の危険が高い時期です。会話ができるようになった時点で、まず現在の希死念慮の有無と強さを確かめ、具体的な計画や手段の有無まで評価します。この評価が、観察の頻度、環境の調整、医師への報告、入院の要否といったその後の対応をすべて左右します。尋ねるときは「今も死にたい気持ちはありますか」と率直に、責めない態度で聞きます。
3.大量の睡眠薬を飲まずに残していた理由を追及する。:「追及」は本人を問い詰める関わりです。傷つきやすい企図直後の状態では「責められた」と受け止められ、看護師との関係が損なわれて本心を語らなくなる原因になります。処方薬をため込んでいた事実は大切な情報です。計画的な企図だった可能性を示し、家族による薬の管理や処方量の調整など、今後の安全対策に関わるからです。ただし、非審判的な態度で、医療チームとして後から把握すべきものです。境界性パーソナリティ障害の患者は批判に敏感で、強い怒りや見捨てられ不安を引き起こしやすい点からも避けるべき対応です。
4.Aさんと看護師の間で二度と過量服薬しないと約束する。:「自殺しない」という約束だけで自殺を防げるという根拠はなく、リスク評価の代わりにはなりません。約束を取り付けたことで医療者が安心し、観察が甘くなる危険があります。また、本人が「約束を破ってしまう」という罪悪感から、再び死にたくなっても打ち明けにくくなる危険もあります。境界性パーソナリティ障害では、特定の看護師との二人だけの約束が特別な関係をつくり、他のスタッフとの間で理想化とこき下ろしを生みやすくなります。これはチームで一貫した対応をとる原則にも反します。本人と話し合うのであれば、約束よりも、つらくなったときに誰にどう助けを求めるかという具体的な行動を一緒に決めるほうが役立ちます。
覚えるポイント
- 自殺企図の後、意識が回復して会話ができたら、まず現在の希死念慮を確認します。有無と強さ、具体的な計画、手段の有無、過去の企図歴、支えになる人を評価します。
- 希死念慮は率直に尋ねてかまいません。尋ねても自殺を誘発しません。TALKの原則(伝える・尋ねる・聴く・安全を確保する)で関わります。
- 企図場面の振り返りは、安全確保と信頼関係の形成の後に、本人のペースで行います。追及や叱責はしません。
- 「自殺しない約束」は、リスク評価や安全確保の代わりになりません。
- 境界性パーソナリティ障害の主な特徴は、見捨てられ不安、理想化とこき下ろしによる不安定な対人関係、衝動性、自傷・自殺行動の反復、感情の不安定さ、慢性的な空虚感です。企図を軽視せず、一貫した態度・限界設定・チームでの統一した対応で関わります。
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