112AM114|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み112〜114の問いに答えよ。Aさん(20歳、女性)は境界性人格〈パーソナリティ〉障害 borderline personality disorder の診断を受け、精神科外来に通院中である。ある日、人間関係のトラブルから処方されていた睡眠薬を過量服薬して自殺企図をしたところを家族に発見され、救命救急センターに搬送された。入院1週、Aさんは看護師ごとに言動や態度を変えることが多く、病棟ではAさんに対して共感を示す看護師と、拒否的な態度を示す看護師に分かれてしまった。そのため、病棟の看護師はチームでの対応についてカンファレンスを行った。Aさんへの看護師のチームとしての対応で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.Aさんの行動が患者-看護師関係にもたらす影響について評価する。
この問題のポイント
境界性パーソナリティ障害の患者の入院中に、病棟の看護師が「共感する人」と「拒否する人」に分かれた状況で、チームとしてどう対応するかを問う問題です。判断の手がかりは「看護師ごとに言動や態度を変える」「看護師が二つに分かれてしまった」という記述です。これを患者の防衛機制である**分裂(スプリッティング)**が治療の場に再現されたものと理解できるかが鍵になります。チームの対応の基本は、関わりを避けることでも感情を抑えることでもなく、起きていることを客観的に評価して一貫した関わりにつなげることです。
解説
Aさんは20歳で、境界性パーソナリティ障害と診断されています。人間関係のトラブルをきっかけに、睡眠薬を過量服薬して自殺を図りました。入院1週の時点で、看護師ごとに言動や態度を変え、その結果として病棟の看護師が共感的な群と拒否的な群に分かれています。問われているのはAさん個人への声かけではなく、「看護師のチームとしての対応」です。
境界性パーソナリティ障害と分裂
境界性パーソナリティ障害は、対人関係・自己像・感情が不安定で、衝動性が著しいことを特徴とします。DSM-5では、次のような特徴が挙げられています。
- 見捨てられることを避けようとする必死の努力
- 理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動く、不安定で激しい対人関係
- 同一性の混乱
- 自己を傷つけうる衝動性
- 自殺の行動や自傷の繰り返し
- 感情の不安定さと慢性的な空虚感
- 不適切で激しい怒り
- ストレスに関連した一過性の妄想様観念や解離症状
中心にあるのは、見捨てられ不安と、人や物事を「すべて良い」か「すべて悪い」かに二分して捉える分裂という原始的な防衛機制です。
この病棟では、次のような流れが起きていると考えられます。
- Aさんは、ある看護師を理想化して親しげに振る舞い、別の看護師をこき下ろして攻撃的・拒否的に振る舞います。
- 理想化された看護師はAさんに共感し、「ほかのスタッフが冷たい」と感じます。
- こき下ろされた看護師は陰性感情を抱き、「あの人は甘い」と感じます。
- その結果、患者の内面の分裂が、看護師集団の対立として外に再現されます。
これがスタッフの分裂と呼ばれる現象です。
チームとして何をするか
スタッフの分裂が起きたとき、どちらの看護師が正しいかを争っても解決しません。看護師間の対立そのものがAさんの対人関係のパターンの表れであると理解し、チームで次のことを行います。
- 各場面でAさんがどう振る舞い、看護師がどう応じ、その後どうなったかを具体的に出し合います。そのうえで、Aさんの行動が看護師との関係にどのような影響を与えているかを評価します。
- 看護師自身に生じた感情(好意・同情・怒り・苛立ちなど)を率直に言葉にします。それが患者との関係の中で生じた逆転移であることを自覚します(自己覚知)。
- 評価をもとに、面接の時間、約束事、守るべきルール(限界設定)、伝え方を統一します。誰が関わっても一貫した対応がとれるようにするためです。
一貫した、予測可能な関わりは、Aさんにとって「態度を変えても周囲の対応は変わらず、見捨てられもしない」という安定した体験になり、治療的な意味をもちます。同時に、看護師の燃え尽きや、陰性感情が無自覚に行動に出ることを防ぐことにもつながります。
なお、自殺企図後の入院であるため、自殺・自傷のリスク評価と安全の確保を続けることが前提です。心理社会的治療としては、弁証法的行動療法などが知られています。
選択肢の確認
1.Aさんと看護師が関わる頻度を減らす。:境界性パーソナリティ障害の中核には見捨てられ不安があります。看護師の側から関わりを減らすと、Aさんに「見捨てられた」という体験を与え、不安や怒り、自傷・自殺企図の再発を招くおそれがあります。自殺企図の直後で、観察と安全確保が必要な時期であることからも適切ではありません。対応に困る患者から距離を置くことは、看護師の陰性感情による回避であり、分裂の構造も解決しません。必要なのは関わりを減らすことではなく、面接の時間や頻度をあらかじめ決めるなど、枠組みのある一貫した関わりにすることです。
2.Aさんに共感を示す看護師に担当を固定する。:共感的な看護師だけに担当を固定すると、「理想化される看護師」と「こき下ろされる看護師」という分裂の構図を、チームが公認して固定することになります。担当の看護師には負担が集中します。さらに、期待に応えられない場面が生じると、今度はその看護師がこき下ろしの対象となり、関係が急に崩れやすくなります。受け持ち看護師を決めること自体は問題ありません。ただしそれは、チーム全体で方針を共有し一貫した対応をとる前提で行うものであり、患者に好かれているかどうかを基準に選ぶものではありません。
3.Aさんに対する感情を看護師同士で表出しないように統一する。:患者に対して怒りや苛立ち、あるいは過度の同情を抱くのは自然なことです。抑え込まれた感情は、無自覚のうちに冷たい態度や過剰な肩入れとして行動に表れ、分裂をさらに深めます。看護師が燃え尽きる原因にもなります。感情はカンファレンスなどの安全な場で言葉にして共有し、逆転移として理解したうえで対応に生かすことが必要です。チームで統一すべきなのは「感情を出さないこと」ではなく、患者への対応方針や約束事です。
4.Aさんの行動が患者-看護師関係にもたらす影響について評価する。:正答。看護師が二つに分かれたのは、Aさんの分裂という防衛機制が看護師との関係に持ち込まれた結果です。その影響をチームで客観的に評価することで、状況を誰か個人の問題ではなく関係のパターンとして捉え直せます。これが、看護師間の対立を解消し、一貫した対応方針と限界設定を立てる出発点になります。
覚えるポイント
- 境界性パーソナリティ障害の特徴は、見捨てられ不安、理想化とこき下ろしを繰り返す不安定な対人関係、衝動性、自傷・自殺企図の反復、感情の不安定さ、慢性的な空虚感です。
- 分裂(スプリッティング)は人を「すべて良い/すべて悪い」に二分する防衛機制です。医療チームが共感派と拒否派に分かれる現象(スタッフの分裂)として現れます。
- 対応の原則は、チームで情報と感情を共有し、患者の行動が関係に与える影響を評価したうえで、一貫した方針と限界設定のもとで関わることです。
- 転移は、患者が過去の重要な人物への感情を援助者に向けることです。逆転移は、援助者が患者に対して抱く感情です。逆転移は抑え込まず、自覚して共有し、ケアに生かします。
- 避けるべき対応は3つです。関わりを減らすこと(見捨てられ体験になる)、好かれている看護師だけに任せること(分裂の固定と燃え尽き)、感情を封じ込めること(無自覚な行動化)です。
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