112PM003|第112回 看護師国家試験 過去問
循環式浴槽の水質汚染で発症するのはどれか。
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正解: 3
正答
3.レジオネラ肺炎 legionella pneumonia
この問題のポイント
環境中の水を介して起こる感染症のうち、循環式浴槽という設備と結びつく疾患を問う問題です。鍵になるのは「循環式」という言葉です。湯をろ過して繰り返し使うため生物膜(バイオフィルム)ができ、ぬるい湯の中で増えた菌がエアロゾルとして吸い込まれる、という流れを思い浮かべられるかが問われています。各選択肢を感染経路(吸入・経口・血液や性的接触)で分けると、迷わず判断できます。
解説
循環式浴槽とレジオネラ属菌
循環式浴槽は、浴槽の湯をろ過器に通して汚れを除き、再び浴槽に戻して使い続ける設備です。温泉施設、公衆浴場、ホテル、高齢者施設の大浴場、家庭用の24時間風呂などで使われています。湯を毎回入れ替えないため、ろ過器や配管の内側に生物膜ができやすくなります。生物膜は、入浴者の皮膚や垢などの有機物を栄養にして形成されます。塩素消毒、清掃、換水が不十分だと、この生物膜が菌のすみかになります。
レジオネラ属菌は、土壌や河川など自然界に広く存在するグラム陰性桿菌です。20〜50℃程度で増殖し、36℃前後で最もよく増えるとされています。この温度帯は入浴に適した湯温とほぼ重なります。自然界ではアメーバなどの原生動物の中で増え、生物膜の内部では消毒薬からも守られます。人の体内でも、肺胞マクロファージの中で増殖する細胞内寄生菌です。
感染経路と臨床像
感染は次の2つの経路で起こります。
- ジェットバス・泡風呂、打たせ湯、シャワーなどで生じたエアロゾル(細かい水滴)を吸い込む
- 汚染された湯を誤嚥する
どちらも菌が気道から肺に達して感染します。飲み込んだ菌が腸から感染するわけではない点が、コレラやA型肝炎との違いです。人から人への感染は基本的にないため、対策の中心は感染源となった設備の特定と管理です。循環式浴槽のほか、ビルの冷却塔、加湿器、給湯設備、噴水なども感染源になります。
レジオネラ症には2つの病型があります。
- レジオネラ肺炎:重症の肺炎を起こす病型
- ポンティアック熱:インフルエンザ様の症状で自然に軽快する病型
レジオネラ肺炎の潜伏期間はおおむね2〜10日です。高熱、悪寒、咳、呼吸困難に加えて、意識障害などの神経症状、下痢、相対的徐脈、低ナトリウム血症を伴うのが特徴です。高齢者、喫煙者、糖尿病や慢性肺疾患のある人、免疫抑制状態の人で重症化しやすく、急速に進行して死亡することもあります。
診断には尿中抗原検査がよく用いられます。治療では、細胞内で増える菌であるため、細胞内に移行しにくいβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系)は効きません。マクロライド系やニューキノロン系を用います。
予防と制度、看護実践とのつながり
感染症法では、レジオネラ症は4類感染症です。診断した医師は直ちに保健所へ届け出ます。公衆浴場では、公衆浴場法に基づく条例や国の衛生管理要領によって、次のような管理が求められています。
- 塩素系薬剤による浴槽水の消毒
- 定期的な換水
- ろ過器・配管の洗浄
- 浴槽水の水質検査
各選択肢を感染経路で整理すると、次のようになります。
- エアロゾルの吸入・誤嚥:レジオネラ肺炎
- 汚染された水や食品の経口摂取:コレラ、A型肝炎
- 性的接触・血液・母子感染:AIDS
「浴槽の湯を吸い込む」経路に当てはまるのはレジオネラ肺炎だけです。
臨床では、肺炎の患者に温泉や入浴施設の利用歴を聴取することが重要です。また、病院や高齢者施設の機械浴・大浴場、加湿器の水タンク、ネブライザーなど水回りの清潔管理にも直結する知識です。
選択肢の確認
1.コレラ cholera:コレラ菌(O1・O139)に汚染された飲料水や魚介類を口から摂取して起こる経口感染症であり、浴槽の湯のエアロゾル吸入では感染しません。小腸で産生されるコレラ毒素によって、「米のとぎ汁様」と表現される大量の水様下痢と高度の脱水を起こします。上下水道が整備されていない地域で流行し、日本では海外で感染して持ち込まれる例が主体です。感染症法では3類感染症です。「水」つながりで迷いやすいのですが、コレラで問題になるのは飲み水の汚染です。
2.A型肝炎 hepatitis A:ウイルスが便に排泄され、それに汚染された水や食品(生ガキなどの二枚貝)を口から摂取して感染する糞口感染症であり、入浴設備の管理不良と結びつく疾患ではありません。急性肝炎を起こしますが慢性化しない点がB型・C型肝炎との違いで、ワクチンで予防できます。感染症法では4類感染症です。同じ経口感染のE型肝炎(豚・イノシシ・シカ肉の生食など)と合わせて覚えましょう。
3.レジオネラ肺炎 legionella pneumonia:正答。循環式浴槽のろ過器や配管の生物膜で増えたレジオネラ属菌が、エアロゾルの吸入や湯の誤嚥によって肺に入り発症します。入浴施設の衛生管理が不十分なときに集団発生を起こしてきた、代表的な疾患です。
4.後天性免疫不全症候群〈AIDS〉 acquired immunodeficiency syndrome:原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、性的接触、血液(輸血、注射針の共用など)、母子感染(胎内・産道・母乳)で伝播します。入浴や浴槽の共用などの日常生活では感染しません。HIVはCD4陽性Tリンパ球に感染して細胞性免疫を低下させ、ニューモシスチス肺炎などの指標疾患を発症するとAIDSと診断されます。感染症法では5類感染症(全数把握)です。
覚えるポイント
- レジオネラ属菌は20〜50℃(至適36℃前後)で増え、アメーバ内や生物膜の中で増殖します。主な感染源は循環式浴槽、冷却塔、加湿器、給湯設備です。
- 感染経路はエアロゾルの吸入(または誤嚥)で、人から人へはうつりません。対策は患者の隔離ではなく、設備の消毒・換水・清掃です。
- レジオネラ肺炎の特徴は、高熱、意識障害、下痢、相対的徐脈、低ナトリウム血症です。診断は尿中抗原検査、治療はマクロライド系・ニューキノロン系で、β-ラクタム系は無効です。
- 感染症法の分類は、コレラが3類、レジオネラ症とA型肝炎が4類(いずれも直ちに届出)、AIDSが5類全数把握です。
- 水と感染症の結びつき:浴槽・冷却塔の水はレジオネラ、汚染された飲み水・食品はコレラやA型肝炎、というように感染経路で区別します。
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