第109回

109PM005|第109回 保健師国家試験 過去問

健康な地域づくりの基盤である公衆衛生の説明で正しいのはどれか。

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正解3

正答

3.地域社会の組織的な努力を通じて行われる。

この問題のポイント

公衆衛生とは何かという基本概念を問う問題です。判断の鍵は、ウィンスローの定義にある「組織化された地域社会の努力(organized community efforts)」という言葉です。公衆衛生は個人の努力を積み重ねたものではなく、社会が仕組みとして人々の健康を守る営みであることを理解できているかが問われています。あわせて、根拠となる法令がどこまで広がっているか、効率や個人の能力が公衆衛生の中でどう位置づけられるかも押さえます。

解説

問題文に「健康な地域づくりの基盤」「公衆衛生の説明」とあることから、公衆衛生の定義そのものを問う問題だと分かります。最もよく引用されるのは、アメリカの公衆衛生学者ウィンスロー(C.-E. A. Winslow)が1920年に示した定義です。要旨は次のとおりです。

「公衆衛生とは、組織化された地域社会の努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、健康と能率の増進を図る科学であり技術である。」

ウィンスローは、この組織的な努力の中身として次のものを挙げています。

  • 環境衛生の改善
  • 地域の感染症の予防
  • 個人衛生の原則についての教育
  • 疾病の早期診断と予防的治療のための医療・看護サービスの組織化
  • すべての人が健康を保つのに十分な生活水準を保障する社会の仕組みの整備

この定義から読み取るべきことは2つあります。

1つ目は、公衆衛生が組織的・社会的な活動だという点です。行政、医療機関、学校、職域、住民組織などが連携して取り組みます。上下水道の整備、予防接種、健診体制は、個人がどれだけ努力しても一人ではつくれません。

2つ目は、対象が病気の人に限られず地域のすべての人々であり、生活水準の保障まで含む幅広い営みだという点です。

日本では、日本国憲法第25条第2項が「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定め、公衆衛生を国の責務としています。これを具体化する法律は多数に分かれています。主なものは次のとおりです。

  • 地域保健法(保健所・市町村保健センター、地域保健対策の基本指針)
  • 健康増進法、感染症法、予防接種法
  • 母子保健法、精神保健福祉法、食品衛生法
  • 学校保健安全法、労働安全衛生法

保健師活動は、この「組織的な努力」を担う実践そのものです。保健師は家庭訪問や健康相談で個人・家族を支援します。そこで見えた共通の健康課題を地域診断で明らかにし、自主グループや地区組織の育成、関係機関とのネットワークづくり、事業化・施策化へとつなげていきます。個別支援を地域全体の仕組みへ広げるこの視点は、公衆衛生の定義と直結しています。

1986年のオタワ憲章で示されたヘルスプロモーションも同じ考え方に立っています。個人の能力を高めることと、健康を支える環境や政策を整えることを組み合わせる考え方です。

選択肢の確認

1.経済効率を優先して実施される。:公衆衛生が第一に目指すのは、地域のすべての人々の健康の保持増進と、健康格差を生まない公平性の確保です。出題当時の健康日本21(第二次)でも、健康寿命の延伸と健康格差の縮小が最上位の目標とされていました。事業評価では費用対効果(効率性)も観点の一つになりますが、限られた資源を有効に使うための判断材料であり、実施の優先原理ではありません。感染症のまん延防止や、難病・障害のある人への支援は採算では測れませんが、社会として欠かせない取り組みです。ウィンスローの定義にある「能率(efficiency)」は人々が健康に活動できる力を指し、経済効率とは意味が異なる点にも注意しましょう。

2.根拠となるのは健康増進法である。:健康増進法(2002年制定)は国民の健康増進を総合的に推進する法律で、健康日本21の根拠となる基本方針、健康増進計画、国民健康・栄養調査、受動喫煙防止などを定めています。重要な法律ですが、公衆衛生全体の根拠ではありません。根本的な根拠は日本国憲法第25条であり、実際の活動は地域保健法、感染症法、母子保健法など多数の法律に基づいて行われます。地域保健の体制(保健所・市町村保健センター)を定める基本の法律は地域保健法なので、健康増進法と取り違えないようにしましょう。

3.地域社会の組織的な努力を通じて行われる。:正答。ウィンスローの定義の中心である「組織化された地域社会の努力」をそのまま表した記述です。環境衛生、感染症予防、健康教育、医療・看護の組織化、生活水準の保障は、行政、医療機関、学校、職域、住民組織などが連携して初めて実現できます。この組織性こそが、個人の健康管理と公衆衛生を分ける本質です。

4.個人のセルフケア能力の開発が施策の主軸である。:セルフケア能力を高める健康教育は公衆衛生の大切な要素ですが、ウィンスローの定義では5つの柱の1つ(個人衛生の教育)にとどまります。オタワ憲章でも「個人技術の開発」は、ヘルスプロモーションの5つの活動領域の1つという位置づけです。健康は住環境、所得、労働条件、地域のつながりといった社会的要因にも大きく左右されます。そのため公衆衛生は、個人への働きかけと環境・制度づくりを組み合わせて進めます。個人の能力だけを主軸にすると、健康課題を自己責任とみなすことになり、支援が届きにくい人々との格差を広げるおそれもあります。

覚えるポイント

  • ウィンスローの定義(1920年):公衆衛生は「組織化された地域社会の努力」を通じて、疾病予防・寿命延長・健康と能率の増進を図る科学であり技術です。キーワードは組織的です。
  • 公衆衛生の根本の根拠は日本国憲法第25条第2項です。具体的な活動は地域保健法、健康増進法、感染症法、母子保健法など多数の個別法に基づきます。
  • 健康増進法は、健康日本21の基本方針、健康増進計画(都道府県は義務、市町村は努力義務)、国民健康・栄養調査、受動喫煙防止を定めます。地域保健法は、保健所・市町村保健センターと地域保健対策の基本指針を定めます。
  • 混同しやすい国際文書:WHO憲章(1946年採択)は健康の定義、アルマ・アタ宣言(1978年)はプライマリヘルスケア、オタワ憲章(1986年)はヘルスプロモーションとその5つの活動領域です。
  • 公衆衛生の判断軸は健康と公平性です。効率は評価の観点の一つ、個人技術の開発は複数ある柱の一つにとどまります。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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