第109回
109PM004|第109回 保健師国家試験 過去問
Aさん(45歳、女性)は20歳代に統合失調症を発症し、入退院を繰り返してきた。2年前から通院を中断し、デイケアへの通所も休むようになった。半年ほど前から家の中で叫ぶなどの行動が続いているため、母親が保健師に電話で相談した。相談を受けた保健師が家庭訪問をしたが、父親が拒否したため室内に入れずAさんには会えなかった。保健師の対応で適切なのはどれか。
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正解1
正答
1.母親の承諾を得て主治医に連絡する。
この問題のポイント
統合失調症の治療を中断し、未治療のまま症状が悪化している可能性がある人がいます。家族の一人に訪問を拒まれて本人に会えなかったときに、保健師がどう対応するかを問う問題です。判断の手がかりは二つあります。「2年前から通院を中断」「半年ほど前から家の中で叫ぶなどの行動が続いている」という再発を疑わせる経過と、相談してきたのは母親で訪問を拒否したのは父親という家族内の立場の違いです。
解説
事例から読み取る情報
- 本人:45歳の女性です。20歳代に統合失調症を発症し、入退院を繰り返してきました。病状が不安定になりやすく、継続した治療が欠かせない経過です。
- 経過:2年前から通院を中断し、デイケアへの通所も休んでいます。治療と社会とのつながりが、両方とも途切れています。
- 現在の状態:半年ほど前から、家の中で叫ぶなどの行動が続いています。幻覚や妄想などの陽性症状が再燃し、長引いている可能性があります。
- 家族:母親は自ら保健師に相談しており、支援を求める立場です。父親は訪問を拒否しており、家族の中で受け止め方が分かれています。
- 設問の時点:保健師は本人に会えていません。暴力や自傷他害を示す具体的な情報もありません。
治療中断がもたらす危険
統合失調症では、抗精神病薬による維持療法が再発予防の中心です。服薬中断は再発の最も大きな要因の一つとされています。通院の中断が2年、症状が半年続いていることから、再発したまま未治療の状態が続いていると考えるのが自然です。
未治療の状態が長引くほど回復は難しくなりやすくなります。本人の苦痛、家族の疲弊、近隣とのトラブルが重なり、状態によっては自傷他害に至るおそれもあります。「会えなかったので様子を見る」のではなく、医療につなぎ直す手立てを早く探すことが求められます。
主治医に、母親の承諾を得て連絡する理由
Aさんには入退院を繰り返してきた治療歴があります。主治医は、診断、処方の内容、再発時に出やすい徴候、過去に入院したきっかけ、通院が途切れる前の様子などを把握しています。保健師が現在の様子を伝えれば、医学的な見立てをもとに次の方策を一緒に検討できます。たとえば受診の勧め方、往診や訪問看護を利用できるか、病状が差し迫った場合の入院の判断です。訪問看護などの医療サービスを導入するには医師の指示が必要なので、その点でも主治医との連携は欠かせません。以前に医療とつながっていたこと自体が、再びつなぐための大きな資源になります。
一方で、保健師がいま持っている情報は母親からの相談で得たものです。保健師には保健師助産師看護師法による守秘義務があり、自治体の保健師は地方公務員法による守秘義務も負います。相談内容を関係機関に伝えるときは、相談者の同意を得るのが原則です。本来はAさん本人の同意を得たいところですが、本人に会えない現段階では、相談者であり家族でもある母親の承諾を得て主治医に連絡するのが妥当です。
なお、生命や身体に危険が差し迫り、同意を得る余裕がない場合には、同意がなくても関係機関と情報を共有することが認められる場合があります。承諾を求める過程は母親との信頼関係を深め、母親をキーパーソンとして支援を進める土台にもなります。
訪問を拒否されたときの関わり方
父親の拒否の背景には、病気を周囲に知られたくない気持ち、入院させられることへの不安、長年の介護による疲れや諦めなど、さまざまな事情が考えられます。家庭訪問は相手の了解を前提とする支援なので、拒否された家に無理に立ち入ることはしません。しかし支援そのものは打ち切りません。次のような関わりを並行して進めます。
- 母親と保健所や市町村の窓口で面接する
- 電話での連絡を続ける
- 父親の思いを受け止めながら関係づくりを続ける
家族の感情表出が強い家庭(高EE)では、再発率が高いことが知られています。高EEとは、批判や敵意、過度の巻き込まれが目立つ状態を指します。そのため、家族への支援も再発予防の一部です。精神保健福祉法では、都道府県(保健所)や市町村が、精神障害者やその家族からの相談に応じて必要な支援を行う役割を担っています。未治療の人や治療を中断した人へのアウトリーチは、保健師の重要な役割です。
選択肢の確認
1.母親の承諾を得て主治医に連絡する。:正答。相談者である母親の同意を得るという守秘の手続きを踏んだうえで、Aさんの治療歴、処方、再発時の特徴を知る主治医と連携できます。本人に会えない段階でも、医学的な見立てに基づいて受診再開の方法や緊急時の対応を検討できます。支援を前に進める、現実的で安全な対応です。
2.父親の気持ちが変わるまで支援を控える。:父親の心境が変わるのを待つだけでは、2年に及ぶ治療中断と半年続く症状を放置することになり、病状の悪化と家族の疲弊が進みます。支援を求めている母親がいる以上、保健師には関わりを続ける責任があります。父親の思いを尊重し、時間をかけて関係を築くことは大切です。ただしそれは支援を止める理由にはならず、他の支援と並行して進めるものです。
3.近隣住民にAさんの日頃の状況を確認する。:近隣住民に尋ねること自体が、Aさんが保健師の支援対象であることや精神疾患を抱えていることを第三者に知らせる結果になり、守秘義務とプライバシーの保護に反します。地域での偏見を強め、家族の孤立や父親の拒否をいっそう強める危険もあります。情報は本人や家族から、また同意を得たうえで治療や支援に関わる機関から得るのが原則です。近隣に見守りを頼む場合でも、本人と家族の了解が前提になります。
4.Aさんと母親が父親から離れられるようシェルターを紹介する。:事例には父親による暴力や虐待をうかがわせる情報がありません。父親が断ったのは保健師の訪問であり、家族への加害を意味するものではありません。問題の中心はAさんの病状なので、住まいを移しても治療にはつながりません。母親が夫から暴力を受けている様子があれば、配偶者暴力相談支援センターへの相談や一時保護を検討します。障害のあるAさんが養護者から虐待を受けていると思われれば、障害者虐待防止法に基づいて市町村へ通報します。これらは暴力や虐待の事実が確定するまで待つ必要のない対応です。しかし、危険をうかがわせる情報がないこの時点で、家族の分離を勧める根拠はありません。
覚えるポイント
- 統合失調症の再発の大きな要因は服薬中断です。治療の中断と症状の出現が重なったら、医療への再接続を急ぎます。
- 訪問を拒否されても支援は打ち切りません。支援を求める家族(キーパーソン)を軸に、面接の場所や方法を変えて関わり続けます。
- 関係機関へ情報を伝えるときは、相談者や本人の同意を得るのが原則です。保健師の守秘義務は保健師助産師看護師法第42条の2に、自治体職員としての守秘義務は地方公務員法第34条に定められています。
- 近隣への聞き取りは、プライバシーの侵害と偏見の助長につながります。情報源は本人・家族と、同意を得た支援関係者です。
- 家族の分離(シェルターや一時保護)は、暴力や虐待が疑われ、生命や身体に危険が及ぶおそれがあるときに検討する対応です。虐待の事実が確認されるまで待つ必要はありませんが、危険をうかがわせる情報がない段階では選びません。
- 精神保健福祉法の入院形態は、本人の同意に基づく任意入院が基本です。入院が必要なのに病状のため本人が同意できる状態にないときは、医療保護入院(精神保健指定医1名の診察と家族等の同意)となります。精神障害のために自傷他害のおそれがあるときは、措置入院(精神保健指定医2名以上の診察結果が一致した場合に、都道府県知事の権限で入院)となります。急を要するときは、指定医1名の診察による72時間以内の緊急措置入院があります。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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