第109回
109PM049|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み48~50の問いに答えよ。市の保健センターに勤務する新任期の保健師Aは、人事異動する中堅期の保健師Bの担当していたCさん(50歳、男性)を受け持つことになり、管理職の保健師が保健師Aのサポートを行うことになった。Cさんは統合失調症をもつ単身者で生活保護を受給している。2年前に生活保護の担当者から被害妄想を訴えてくると相談があり、保健師Bが援助を開始していた。援助開始当初は、Cさんは精神科の外来通院を中断しており、Cさんの問題行動に対して近隣からたびたび苦情や対応要請の連絡が入った。保健師に対しても警戒心が強かったが、保健師Bの援助により通院の再開に至っていた。保健師AはCさんの訪問を毎月継続し約1年が経過した。Cさんは外来通院を継続しており、近隣住民もCさんを見守ってくれている。管理職の保健師は保健師Aと面談し、これまでのCさんへの援助について評価し、今後について尋ねた。保健師Aは「このまま継続していけるとよいと思っているが、具体的なアイデアはまだ考えられていない」と話した。管理職の保健師は、保健師AがCさんを多方面から捉えて、より良い支援を計画できるようになってほしいと考えた。管理職の保健師が保健師Aに勧めることで最も適切なのはどれか。
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正解3
正答
3.事例検討会で他の保健師と意見交換をすること
この問題のポイント
新任期保健師の人材育成(現任教育)の方法を問う問題です。判断の鍵は、管理職の保健師のねらいが「Cさんを多方面から捉え、より良い支援を計画できるようになってほしい」と書かれている点です。求められているのは、Cさんについての情報を1つ増やすことではありません。保健師A自身の視野と支援計画力を育てることです。複数の保健師の視点に触れられる事例検討会が、このねらいに最も合っています。
解説
事例の状況を整理する
- これまでの経過:Cさんは統合失調症をもつ単身の50歳男性で、生活保護を受給しています。2年前は通院を中断し、近隣からの苦情があり、保健師への警戒心も強い状態でした。保健師Bの援助で通院を再開しています。
- 現在:保健師Aが毎月の訪問を約1年続けています。通院は継続しており、近隣住民も見守っています。危機的な状況ではなく、地域での生活が安定している段階です。
- 保健師Aの課題:「このまま継続できるとよい」と考えていますが、次の具体的な支援のアイデアがありません。現状を維持する発想にとどまり、支援を発展させる視点が不足しています。
- 管理職のねらい:多方面から捉える力と、支援を計画する力を保健師Aに身につけてもらうことです。
したがってこの設問は、Cさんの問題をどう解決するかではなく、管理職が新任期の部下の力をどう育てるかを問うています。
安定期の地域生活支援で求められる視点
通院が続き、近隣トラブルがなくなっても、精神障害をもつ人の地域生活支援はそこで終わりではありません。たとえば次のような視点があります。
- 本人の希望や強み(ストレングス)
- 日中の過ごし方や社会参加(地域活動支援センターや就労系の障害福祉サービスなど)
- 身体の健康管理
- 再発の徴候に気づいたときの対応(クライシスプラン)
- 加齢を見据えた将来の住まいや生活
- 近隣の見守りが負担にならないための関係づくり
- 生活保護担当者や相談支援事業所など関係機関との連携
国も「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を進めており、医療だけでなく生活全体を支える視点が重視されています。ただ、新任期の保健師が目の前の訪問だけでこうした視点を一人で広げるのは難しいものです。
事例検討会の意義
事例検討会では、担当者が事例の経過と自分のアセスメント・支援内容を提示します。参加者はそれぞれの経験から意見を出し合い、事例の理解と支援の方向性を深めます。主な効果は次のとおりです。
- 同じ事例を異なる経験・視点から見た意見に触れ、担当者一人では気づかなかった捉え方や活用できる社会資源を知ることができます。
- 事例をまとめて提示する過程で、自分のアセスメントや支援の根拠を言葉にして整理できます。
- 参加者全員の学びになり、組織として支援技術を共有し高めることにつながります。
- 担当者が事例を一人で抱え込まず、組織として支える体制になります。
自治体保健師の人材育成は、職場内での日常的な指導や学び合い(OJT)、職場外研修(Off-JT)、ジョブローテーションなどを組み合わせて行います。事例検討会はOJTの代表的な方法です。管理職が答えを直接教えるのではなく、保健師Aが他者の視点を得て自分で考える場を用意する点で、「計画できるようになってほしい」という育成のねらいにも合っています。
なお、事例検討会とケース会議(個別支援会議)は区別しておきましょう。事例検討会は、支援者の学びと事例理解を深めることが主な目的です。ケース会議は、本人に関わる関係機関が集まって具体的な支援方針や役割分担を決める場です。
正答に至る判断
「多方面から」は、複数の視点が必要であることを示します。「計画できるようになってほしい」は、保健師A自身の力量形成を目的としていることを示します。前任者や主治医への相談は視点が一方向にとどまります。プロセスレコードは自分の関わりを振り返る方法です。両方の条件を満たすのは、複数の保健師と意見交換する事例検討会です。
選択肢の確認
1.Cさんとの会話のプロセスレコードを作成すること:プロセスレコードは、対象者の言動、援助者が感じたことや考えたこと、援助者の言動を順に記録し、自分のコミュニケーションや対人関係のあり方を振り返る方法です。対象者との関係づくりに行き詰まっている場合や、面接技術を見直したい場合には有効です。しかしCさんとの関係は毎月の訪問が続く程度に保たれています。今回の課題は、生活全体を多方面から捉えて次の支援を計画することです。自分の関わりを掘り下げる方法なので、他者の視点を取り入れて視野を広げるというねらいには合いません。
2.保健師BにCさんへの対応について相談すること:前任の保健師Bは、警戒心の強かったCさんと関係を築き、通院再開まで支えた経緯を知っています。引継ぎ内容の確認や過去の対応を知るうえでは有用な相談相手です。しかし得られるのは保健師B一人の見方です。また、担当して約1年がたった現在のCさんの状況は、保健師Aのほうがよく把握しています。前任者のやり方をなぞることにもつながりやすく、多方面の視点から保健師A自身が計画を立てる力を育てるには、選択肢3のほうが適しています。
3.事例検討会で他の保健師と意見交換をすること:正答。経験や担当分野の異なる複数の保健師から意見を得ることで、Cさんの生活・強み・将来・地域との関係・活用できる資源などを多方面から捉え直せます。事例を提示する準備を通して自分のアセスメントを言葉にする訓練にもなり、支援を計画する力の育成という管理職のねらいに最も直接つながります。
4.通院先の精神科医からCさんの様子を聞くこと:主治医からの情報は、病状や服薬状況、医学的な留意点を把握するうえで重要です。必要に応じて本人の同意を得て医療機関と連携することは、支援の一部として大切です。しかし得られるのは主に医療面からの一つの視点です。社会参加や地域との関係を含めて生活全体を多方面から捉える力を育てるという管理職のねらいとは異なります。また、情報収集は計画のための手段であり、保健師Aの計画力そのものを高める方法ではありません。
覚えるポイント
- 「多方面から」「多角的に」「視野を広げる」がねらいのときは、複数の人の視点が集まる方法(事例検討会など)を選びます。
- 事例検討会は支援者の学びと事例理解の深化が主な目的です。ケース会議は関係機関で支援方針と役割分担を決める場です。
- プロセスレコードは、自分と対象者のやりとりを振り返り、自己のコミュニケーションや対人関係を見直す方法です。
- 保健師の人材育成はOJT・Off-JT・ジョブローテーションなどの組み合わせで行い、事例検討会はOJTの代表例です。新任期は一人で抱え込ませず、組織で支えて育てます。
- 「管理職が勧めること」を問う設問では、事例の問題解決よりも「部下に何ができるようになってほしいか」という育成のねらいを読み取ります。
- 精神障害をもつ人の支援は、通院継続やトラブルの解消で終わりません。強み、社会参加、再発予防、将来の生活、関係機関との連携へと視野を広げます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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