第108回

108PM046|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。Aさん(58歳、男性、独居)は1年前に失業した。その後、就職先が決まらず、預貯金が底をついたが、身寄りがなく身近な相談者もいなかった。経済苦により3か月前に自殺を図って病院に搬送された。日常生活動作〈ADL〉は問題なく回復したが、頭を打ったことによる外傷性脳損傷によって軽度の記憶障害が残り、特に数の計算が難しくなった。また、入院中に生活保護を受給することになった。生活保護担当の保健師は、その後もAさんのような失業やそれに伴う経済的困窮を契機とした自殺未遂事例と関わることがあり、B市の自殺対策計画の担当保健師と協働して市全体の自殺の現状を改めて調査・評価することにした。その結果、壮年期の男性が失業をきっかけとして自殺に至る事例や、自殺未遂後に後遺症や障害が残った事例が近年増加していることが明らかになり、新たな自殺予防対策の啓発活動を進めていくことにした。この啓発活動への協力を依頼する関係機関として、最も適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.ハローワーク

この問題のポイント

事例の後半では、視点がAさん個人への支援から、B市全体の自殺対策(地域の実態調査に基づく啓発活動)へ移っています。調査で分かった「壮年期の男性が失業をきっかけに自殺に至る」という経路に注目します。そのうえで、経路の入口にいる人と確実に接する機関はどこかを考えることが鍵です。自殺対策は精神保健の分野だけでなく、雇用・経済・福祉などの生活分野と連携して進めるという自殺対策基本法の考え方を理解しているかが問われています。

解説

問題文から読み取る手がかり

設問の主体は、生活保護担当の保健師と自殺対策計画の担当保健師です。2人は個別事例での気づきをもとに市全体の現状を調査・評価し、次の2点を明らかにしました。

  • 壮年期の男性が失業をきっかけとして自殺に至る事例の増加
  • 自殺未遂後に後遺症や障害が残った事例の増加

そのうえで行うのは「新たな自殺予防対策の啓発活動」です。予防のための啓発は、自殺の危険が差し迫る前の段階にいる人やその周囲に届いてはじめて効果を持ちます。そこで考えるべきことは2つです。「失業した壮年期男性はどこに現れるか」と、「誰なら早い段階でその変化に気づけるか」です。

自殺対策の基本的な考え方

自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正)は、自殺を個人の問題としてのみ捉えないことを基本理念としています。自殺の背景には失業、倒産、多重債務、孤立などの社会的要因があるため、社会全体の取組として進めるという考え方です。2016年の改正では、次の点が定められました。

  • 自殺対策を生きることの包括的な支援として実施すること
  • 保健・医療・福祉・教育・労働などの関連施策と有機的に連携すること
  • すべての都道府県と市町村に自殺対策計画の策定を義務づけること

B市の自殺対策計画も、この規定に基づくものです。

出題当時の自殺総合対策大綱(2017年閣議決定)は、自殺の多くは「追い込まれた末の死」であり、防ぐことができる社会的な問題だとしています。そして対策を「対人支援」「地域連携」「社会制度」の3つのレベルで連動させ、事前対応・危機対応・事後対応の段階ごとに講じるという枠組みを示しています。大綱は2022年10月に見直されましたが、生活分野を含めた関係機関の連携を重視する方向性は変わっていません。

失業から自殺に至る経路と「入口」

失業は収入を失うだけでは終わりません。預貯金の枯渇、住まいへの不安、社会的役割や人とのつながりの喪失が次々に起こり、うつ状態や絶望感を経て自殺に至ることがあります。Aさんも「失業→就職先が決まらない→預貯金が底をつく→身寄りも相談相手もいない」という経過をたどっていました。

警察庁「自殺統計」(2021年)では、自殺者数は男性が女性のおよそ2倍です。動機(原因)は健康問題が最も多く、次いで経済・生活問題となっています。壮年期の男性は悩みを打ち明けたり、自ら相談機関に出向いたりすることが少ないとされます。そのため、保健・医療の窓口に現れる前に追い込まれてしまいがちです。

この経路の早い段階で確実に接点があるのが公共職業安定所(ハローワーク)です。失業した人は、求職の申込みや雇用保険の手続きのために来所します。基本手当の受給中も、原則4週間に1回の失業認定のために繰り返し来所します。窓口職員がゲートキーパーとして、疲れた表情や生活の困窮、不眠などのサインに気づき、声をかけ、話を聴き、相談先につなげば、保健医療の側からは見えにくい層に早く働きかけられます。具体的な協力としては、次のようなものが考えられます。

  • 啓発ポスターやリーフレットの掲示・配布
  • 職員向けのゲートキーパー研修
  • 生活困窮者自立支援制度の相談窓口や、こころの健康相談の案内

もう一つの課題(後遺症の残る未遂者)について

自殺未遂の経験は、その後の自殺の強い危険因子です。後遺症が残った未遂者には、医療機関と連携した再企図防止、障害福祉サービス、金銭管理の支援などの個別的・継続的な関わりが必要です。ただし、これはすでに把握された人への対応です。本問の啓発活動は失業を契機とする自殺を未然に防ぐことに重点があるため、協力依頼先としては失業者の入口にいる機関が最も適切になります。

個別事例から共通課題に気づき、データで地域の実態を確かめ、対象集団が集まる場に働きかけて施策につなげる流れは、公衆衛生看護の基本的な展開そのものです。

選択肢の確認

1.民生委員・児童委員協議会:民生委員は民生委員法に基づいて厚生労働大臣が委嘱し、児童福祉法上の児童委員も兼ねる地域の相談・見守りの担い手です。協議会は、その活動を組織的に進める単位です。独居高齢者や子育て家庭の見守り、生活保護法に基づく福祉事務所への協力などで重要な連携先であり、地域の孤立防止や住民全体への一般的な啓発が課題であれば有力な協力先になります。しかし、それまで働いていた壮年期の男性は民生委員との日常的な接点が少なく、失業という契機を捉えて早期に働きかける場としては選択肢3のほうが直接的です。

2.精神科医療機関:精神科の病院や診療所は、うつ病などの治療や、自殺未遂者の再企図防止に向けた継続的な評価と治療を担います。救急医療機関とともに、未遂者支援の要となる連携先です。本問でも、後遺症の残る未遂者への個別支援や市の自殺対策ネットワークでは欠かせない存在です。しかし、接するのは受診に至った人に限られ、失業後に誰にも相談できずにいる人の多くは未受診の段階にいます。予防的な啓発を届ける入口としては選択肢3に及びません。

3.ハローワーク:正答。公共職業安定所は国(厚生労働省)の機関として都道府県労働局のもとに置かれ、職業紹介や雇用保険の手続きを担っています。失業した人の多くが、求職活動や給付手続きのために繰り返し来所します。調査で明らかになった「失業を契機とする壮年期男性の自殺」という経路の入口で、対象者と直接、継続的に接することができる最も確実な場です。職員がゲートキーパーとして気づきとつなぎを担えば、保健医療の窓口に現れにくい層へ予防的に働きかけられます。

4.警察:この機関は、自殺の現場への対応、全国の自殺統計の基になる情報の集約、保護を要する人への対応、精神保健福祉法に基づく通報などを担います。関わる場面は、主に危険が差し迫った段階や自殺が起きた後です。自殺統計は地域の実態把握の基礎資料なので、本問の現状調査・評価の段階では情報面で重要な関係機関です。しかし、失業した人が生活上の相談に訪れる場ではないため、失業を契機とする自殺を早い段階で防ぐ啓発の協力先としては、選択肢3のほうが目的に合っています。

覚えるポイント

  • 啓発や予防の協力先は、「対象集団が必ず接する場」と「最初に変化に気づける人」で選びます。失業ならハローワーク、生活困窮なら自立相談支援機関、多重債務なら消費生活センターや法律相談、児童生徒なら学校です。
  • 自殺対策基本法は2006年制定、2016年改正です。改正で「生きることの包括的な支援」、保健・医療・福祉・教育・労働などとの連携、都道府県・市町村の自殺対策計画の策定義務が定められました。
  • ゲートキーパーの役割は、気づき・声かけ・傾聴・つなぎ・見守りです。医療職以外の窓口職員も担い手になります。
  • 自殺未遂歴は強い危険因子です。未遂者支援(医療機関との連携による再企図防止)と、未然に防ぐための啓発は段階が異なります(事前対応・危機対応・事後対応)。
  • 自殺予防週間は9月10日〜16日、自殺対策強化月間は3月で、いずれも自殺対策基本法に定められています。
  • 警察庁「自殺統計」(2021年)では、男性は女性のおよそ2倍で、動機は健康問題が最多、次いで経済・生活問題です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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