第108回

108PM047|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。Aさん(58歳、男性、独居)は1年前に失業した。その後、就職先が決まらず、預貯金が底をついたが、身寄りがなく身近な相談者もいなかった。経済苦により3か月前に自殺を図って病院に搬送された。日常生活動作〈ADL〉は問題なく回復したが、頭を打ったことによる外傷性脳損傷によって軽度の記憶障害が残り、特に数の計算が難しくなった。また、入院中に生活保護を受給することになった。その後、B市の自殺対策計画を担当している保健師は、関係機関との連携強化だけでなく、住民が自殺予防のゲートキーパーとなれるよう、ゲートキーパー養成事業を新たに計画した。予算案作成にあたりこの事業について住民から幅広く意見を得ることとした。意見を得るのに適切な方法はどれか。

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正解4

正答

4.パブリックコメントの実施

この問題のポイント

市の自殺対策計画に基づく新規事業(ゲートキーパー養成事業)について、予算案をつくる段階で「住民から幅広く意見を得る」方法を選ぶ問題です。判断の手がかりは「予算案作成にあたり」と「住民から幅広く」の2つです。案を公表し、期間を定めて住民なら誰でも意見を出せるようにするパブリックコメントがこれに当てはまります。各選択肢が「誰が参加する場か」「何のための場か」を区別できるかが問われています。

解説

問題文の手がかり

この連問は、失業と経済苦から自殺未遂に至ったAさんの個別事例から始まり、設問46からは市全体の自殺対策へと視点が移っています。設問47では、その施策の一つとして新たに計画したゲートキーパー養成事業について、住民から意見を得る方法が問われています。Aさんの自殺未遂の背景には、失業、就職先が決まらず預貯金が底をついた経済苦、身寄りや身近な相談者がいない孤立が重なっていました(生活保護の受給は、自殺未遂後の入院中に決まったものです)。このように自殺の背景には複数の社会的な要因が重なっていることが多く、身近な住民が異変に気づいて支援につなぐゲートキーパーが必要だということを、この経過が示しています。

設問の条件は「予算案作成にあたり」と「住民から幅広く意見を得る」の2点です。また「関係機関との連携強化だけでなく」とあるとおり、この事業は住民自身を自殺予防の担い手にするものです。そのため、意見を求める相手も関係機関ではなく住民になります。ここから、選ぶべき方法は次の3つを満たす必要があります。

  • 事業がまだ案の段階であり、決定前に意見を反映できること
  • 意見を寄せられるのが特定の委員や関係者に限られず、住民全体に開かれていること
  • できるだけ多くの、幅広い層の意見を集められること

パブリックコメントとは

パブリックコメント(意見公募手続)は、行政機関が政策・計画・規則などを決める前に行う手続です。案と関連資料を公表し、意見の提出先と期間を示して、広く意見を募ります。国の行政機関が政令・省令などの命令等を定める際には行政手続法で義務づけられており、意見提出期間は原則30日以上とされています。地方公共団体には、同法の趣旨にのっとって必要な措置を講じる努力義務があります。そのため多くの自治体が条例や要綱でパブリックコメント制度を設け、総合計画や保健福祉分野の計画案などで実施しています。

主な特徴は次のとおりです。

  • 特定の委員や団体に限らず、住民なら誰でも意見を提出できる
  • 郵送、ファクス、電子メール、ウェブフォーム、窓口への持参など複数の方法で受け付けるため、会場に出向けない人や日中働いている人も参加しやすい
  • 決定前の「案」の段階で行うため、寄せられた意見を反映する余地がある
  • 寄せられた意見と、それに対する行政の考え方(反映したかどうかと理由)を公表するため、意思決定の過程が透明になる

保健師活動との関係

2016年(平成28年)の自殺対策基本法改正により、都道府県と市町村のそれぞれに自殺対策計画の策定が義務づけられました。同法の基本理念では、自殺対策は「生きることの包括的な支援」と位置づけられています。自殺対策は保健医療だけでなく、雇用、生活困窮、福祉、教育など多くの分野にまたがる取り組みであり、行政や専門職だけでは完結しません。

ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る人のことです。特別な資格は必要ありません。専門職だけでなく、家族や友人、職場の同僚、地域の住民など誰もが担い手になれます。住民が担い手となる事業では、計画段階から住民の意見を取り入れることが特に大切です。そうすることで、事業の周知や受け入れが進み、参加も促されます。

保健師が施策化を進めるときは、目的に応じて住民参加の方法を使い分けます。

  • 幅広い層から多数の意見を集めたい:パブリックコメント、住民アンケート
  • 特定の立場の人の思いを深く掘り下げたい:グループインタビュー
  • 住民と協働で課題や解決策を考えたい:ワークショップ

このように整理しておくと、類題にも対応できます。本問のキーワードは「幅広く」なので、パブリックコメントが適切です。

選択肢の確認

1.フォーラムの開催:フォーラムは、特定のテーマについて講演や討論を行い、参加者と意見を交わす場です。事業の周知や啓発、関心を高めることには役立ちます。ただし日時と会場が決まっているため、参加できる人数が限られます。参加者も、テーマへの関心が高い人や時間に余裕のある人に偏りやすくなります。住民の意見を幅広く集める方法としては選択肢4に劣るため、不適切です。

2.市議会における審議:市の予算は、市長が予算案を作成して議会に提出し、議会の議決を経て成立します。議会の審議は、選挙で選ばれた議員が予算を決めるための手続であり、予算案ができあがった後の段階にあたります。予算を最終的に決める場を問う設問であれば議会が該当します。しかし本問で求められているのは、予算案を作成する段階で住民から直接意見を集める方法です。議会の審議はこれに当たらないため、不適切です。

3.自殺対策審議会の開催:審議会は、学識経験者や、医療・福祉・労働・教育などの関係機関の代表者で構成される附属機関で、少数の公募委員が加わることもあります。計画の策定や評価について、専門的な立場から審議します。関係機関との連携強化や計画内容の検討には重要な場です。ただし委員の人数は限られており、住民全体から幅広く意見を集める仕組みではないため、不適切です。

4.パブリックコメントの実施:正答。事業の案を公表し、期間を定めて住民なら誰でも意見を提出できるようにする手続です。提出方法も複数あるため、幅広い住民の声を集められます。予算案の作成という決定前の段階で意見を反映できる点でも、設問の条件に合っています。

覚えるポイント

  • 「住民から幅広く意見を得る」ならパブリックコメント。案を公表し、期間を定めて住民なら誰でも意見を提出でき、寄せられた意見と行政の考え方が公表される
  • 国の命令等に対するパブリックコメントは行政手続法に基づく義務で、意見提出期間は原則30日以上。地方公共団体には同法の趣旨にのっとった措置の努力義務があり、多くの自治体が条例や要綱で制度化している
  • 審議会は専門家や関係機関代表による審議の場、議会は議員による議決の場、フォーラムは啓発と意見交換の場であり、いずれも参加者が限られる
  • 住民参加の方法は目的で使い分ける。幅広く多数の意見ならパブリックコメント・アンケート、深く質的に聴くならグループインタビュー、協働で考えるならワークショップ
  • 2016年の自殺対策基本法改正で、都道府県と市町村に自殺対策計画の策定が義務化された。ゲートキーパーの役割は「気づき・声かけ・傾聴・つなぎ・見守り」

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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