第108回
108PM045|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み45〜47の問いに答えよ。Aさん(58歳、男性、独居)は1年前に失業した。その後、就職先が決まらず、預貯金が底をついたが、身寄りがなく身近な相談者もいなかった。経済苦により3か月前に自殺を図って病院に搬送された。日常生活動作〈ADL〉は問題なく回復したが、頭を打ったことによる外傷性脳損傷によって軽度の記憶障害が残り、特に数の計算が難しくなった。また、入院中に生活保護を受給することになった。病院から、退院に向けた検討を進めたいとAさんが居住するB市に連絡があり、B市の生活保護担当の保健師とケースワーカーが入院中のAさんを訪問した。退院後にAさんに提案するサービスで適切なものはどれか。
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正解2
正答
2.日常生活自立支援事業
この問題のポイント
自殺未遂のあと、外傷性脳損傷による軽度の記憶障害と計算の困難が残った独居男性について、生活保護を受けながら地域で暮らすために必要な支援を選ぶ問題です。手がかりは次の3つです。「日常生活動作〈ADL〉は問題なく回復した」こと、「軽度の記憶障害」が残り「特に数の計算が難しくなった」こと、独居で身寄りも身近な相談者もいないことです。ここから、身体介護よりも日常の金銭管理と見守りを担う人がいないことが生活上の課題だと読み取れるかが鍵になります。そのうえで、判断能力が十分でなくても契約内容は理解できる人の金銭管理を支える仕組みとして、日常生活自立支援事業を選びます。
解説
事例の整理
- 58歳男性、独居で、身寄りも身近な相談者もいない
- 失業後に就職先が決まらず経済的に困窮し、それをきっかけに自殺を図った(自殺未遂者)
- ADLは自立しているが、外傷性脳損傷によって軽度の記憶障害が残り、特に計算が難しい(高次脳機能障害)
- 入院中に生活保護の受給が決まり、退院支援のために生活保護担当の保健師とケースワーカーが訪問している
退院後の生活で何が困るか
身の回りの動作は自分でできるため、介護など身体面の支援の必要性は低いと考えられます。問題になるのは、生活を管理する力です。Aさんは毎月支給される保護費を家賃、光熱水費、食費などに配分し、期限までに支払わなければなりません。しかし記憶障害があると支払いを忘れやすくなります。計算が難しいと使いすぎに気づけず、月の途中で生活費が足りなくなるおそれがあります。
Aさんが自殺を図った背景には、経済苦と、相談できる人がいない孤立がありました。退院後に再びお金のことで行き詰まり、しかも相談相手がいなければ、再企図の危険が高まります。自殺未遂者は、再企図のリスクが高い集団です。そのため退院支援では、次の2つを確保することが重要になります。①金銭管理を継続して支える仕組み、②定期的に本人と接点をもつ人です。
日常生活自立支援事業の仕組み
- 社会福祉法に定める福祉サービス利用援助事業として行われています。実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会です。相談窓口の多くは、市区町村の社会福祉協議会が担っています。
- 対象は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などで、判断能力が不十分な人です。あわせて、この事業の契約内容を理解できる程度の判断能力があることが条件です。高次脳機能障害のある人も対象になります。
- 援助の内容は、福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理(預貯金の出し入れ、公共料金や家賃の支払いなど)、通帳・印鑑・証書などの預かり、行政手続きの援助などです。
- 専門員が相談を受けて支援計画を作り、生活支援員が定期的に訪問して実際の援助を行います。この定期訪問には、生活の変化に気づく見守りの役割もあります。
- 利用料は原則として自己負担ですが、生活保護受給世帯は無料とされるのが一般的です。
Aさんの障害は軽度で、契約の内容は理解できると考えられます。この事業は本人の意思にもとづく契約で、必要な部分だけを支援します。Aさんの自己決定を尊重しながら生活を支えられる点でも適しています。
成年後見制度は、次のような場合に検討します。判断能力の低下が進んで契約内容を理解できない場合や、不動産の処分、遺産分割など日常的な範囲を超える財産管理や法律行為が必要な場合です。成年後見制度では、家庭裁判所が選任した成年後見人等が、代理権や同意権・取消権によって本人を支えます。法定後見には、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3類型があります。一方、日常生活自立支援事業は本人との契約で成り立つため、契約内容を理解できることが前提です。この使い分けは頻出です。
退院支援における保健師の役割
生活保護のケースワーカーによる定期的な関わりに、社会福祉協議会の生活支援員の訪問が加わると、Aさんを見守る人が増えます。保健師は、精神面の変化や自殺の危険の兆候を関係機関と共有し、早めに対応できる体制をつくる役割を担います。就労は、生活が安定し、本人が希望した段階で、改めて一緒に考える課題です。
選択肢の確認
1.就労移行支援:障害者総合支援法の訓練等給付の一つです。一般企業への就職を希望し、就労が見込まれる障害者(原則65歳未満)が対象です。標準2年の期間で、職業訓練や求職活動の支援、就職後の定着支援を行います。58歳のAさんは、年齢の面では対象になり得ます。しかし問題文には、本人の就労の意向が示されていません。また、退院直後にまず整えるべきなのは、支給される保護費で滞りなく暮らせる生活基盤です。就労は自立に向けた大切な目標です。ただ、Aさんは失業と求職の行き詰まりから経済苦に陥り、自殺を図りました。この経過を考えると、本人の気持ちを確かめないまま就労へ誘導することは避けるべきです。生活が安定し、本人が望んだときに検討する次の段階のサービスとして区別しましょう。
2.日常生活自立支援事業:正答。社会福祉協議会が本人との契約にもとづいて行う事業で、日常的な金銭管理、通帳などの預かり、福祉サービスの利用援助を行います。Aさんには記憶障害と計算の困難があり、身寄りもなく独居です。この事業は、保護費を計画的に使い、支払いを滞らせずに暮らすための直接の支えになります。生活支援員の定期訪問は、孤立を防ぐ見守りにもなります。障害が軽度で契約内容を理解できる点も、利用の条件に合っています。
3.療養生活環境整備事業:難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)にもとづいて、都道府県などが行う事業です。難病相談支援センター事業、難病患者等ホームヘルパー養成研修事業、在宅人工呼吸器使用患者支援事業などから成り、対象は難病の患者とその家族です。難病法の難病は、「発病の機構が明らかでない」ことなどを要件としています。原因がはっきりしている外傷性脳損傷による障害はこれに当たらないため、Aさんは対象になりません。名称から在宅療養全般の支援と取り違えやすいので、難病対策の事業として覚えておきましょう。
4.自立支援医療〈精神通院医療〉:障害者総合支援法にもとづく制度です。精神疾患の治療のために継続して通院する人の医療費の自己負担を原則1割に軽くし、所得に応じて月ごとの負担上限額を設けています。高次脳機能障害も、継続した通院治療が必要と判断されれば対象になり得ます。しかし問題文には、精神疾患のために継続的な通院治療が必要であることは示されていません。また、医療費の負担を軽くしても、Aさんの生活課題は解決しません。記憶障害と計算の困難による金銭管理の難しさや、孤立が残るためです。そのため、この場面で提案するサービスとしては適切ではありません。なお、生活保護を受給していても、精神疾患のために継続して通院する必要があるときは、この制度が医療扶助より優先して適用されます。これは生活保護法の補足性の原理にもとづく「他法優先」の考え方によるもので、生活保護世帯の自己負担上限月額は0円です。生活保護を受給中であることは、この選択肢を否定する理由にはならない点に注意しましょう。
覚えるポイント
- 日常生活自立支援事業:社会福祉法に位置づけられた福祉サービス利用援助事業で、社会福祉協議会が本人との契約で行います。対象は「判断能力が不十分だが契約内容は理解できる人」です。日常的な金銭管理、書類の預かり、福祉サービスの利用援助を行い、専門員が支援計画を作って生活支援員が援助します。
- 成年後見制度:家庭裁判所が選任した成年後見人等が本人を支える制度で、法定後見には後見・保佐・補助の3類型があります。契約内容を理解できない人や、日常的な範囲を超える財産管理・法律行為が必要な人は、こちらを検討します。
- 生活保護の補足性の原理:資産や能力の活用が保護の要件で、扶養義務者による扶養や他の法律による給付が保護に優先します。生活保護受給者が精神疾患で継続通院する場合も、自立支援医療(精神通院医療)が医療扶助より優先して適用されます。
- 高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害)は精神障害として扱われます。精神障害者保健福祉手帳や障害福祉サービスの対象になります。
- 制度名と根拠法はセットで覚えます。就労移行支援と自立支援医療(精神通院医療)は障害者総合支援法、療養生活環境整備事業は難病法です。
- 退院支援では、ADLが自立していても、金銭管理・服薬・見守りなど「生活を管理する機能」が欠けていないかを確認します。自殺未遂者では、再企図のきっかけ(経済苦、孤立)を減らす支援を優先します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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