第108回
108PM044|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み42〜44の問いに答えよ。A市は川沿いに位置する人口7万人の高齢化率24.6%の市である。A市には13人の保健師が勤務し地区担当制で業務を行っている。A市では5年前に大規模災害が発生し、多くの死傷者が出た。死傷者は高齢者の割合が高かった。発災後2か月が経過し、被災者は避難所から市内の仮設住宅へ入居した。A市の保健師が行う仮設住宅の住民への支援で適切なのはどれか。
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正解4
正答
4.すべての仮設住宅を巡回訪問し健康相談を行う。
この問題のポイント
災害後の時期に合わせて、保健師が優先すべき活動を判断できるかを問う問題です。手がかりは、今回の災害について示された「発災後2か月が経過」「避難所から市内の仮設住宅へ入居」という記述です。この時期は住民が集団生活から個別の住戸へ分かれるため、健康状態や生活の変化が外から見えにくくなります。そのため、全戸を訪問して一人ひとりの状況を把握し、支援が必要な人を見落とさないことが活動の土台になります。
解説
設問の状況を整理する
A市は人口7万人、高齢化率24.6%の市で、13人の保健師が地区担当制で活動しています。問題文には時点の異なる2つの災害の情報が含まれているので、分けて読む必要があります。
- 「5年前に大規模災害が発生し、多くの死傷者が出た。死傷者は高齢者の割合が高かった」は、5年前の災害についての背景情報です。
- 「発災後2か月が経過し、被災者は避難所から市内の仮設住宅へ入居した」は、設問の時点の状況です。この「発災」は5年前の災害ではなく、連問の前の問いで新たに起きた災害を指します。
今回の災害で誰がどの程度被災したのか(死傷者の数や年齢構成など)は、本問には示されていません。5年前の災害で死傷者に高齢者が多かったことは、この地域では高齢者が災害の影響を受けやすいという背景を示します。しかし、心のケアの必要度は年齢で一律に決めるものではありません。一人ひとりの被災・喪失体験やストレス反応の程度で判断します。そのため、この情報から選択肢1のように高齢者を一律に優先することにはなりません。
連問の事例文では、過去の出来事と設問の時点の出来事を区別して読みます。過去の被害は地域の背景として生かし、支援の対象は設問の時点の状況と一人ひとりの状態から判断します。本問で判断の中心になるのは、住民が発災から2か月後に避難所を出て、仮設住宅での生活を始めたという時期の情報です。
災害の時期ごとの保健活動
災害時の保健活動は、時期(フェーズ)ごとに重点が変わります。
- 発災直後〜急性期:救命・救護、医療の確保、避難所の立ち上げ、要配慮者の把握と安全確保が中心です。
- 避難所生活の時期:避難所の衛生管理、感染症や食中毒の予防、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の予防、要配慮者の継続的な健康管理が重要になります。
- 仮設住宅へ移行した時期以降(復旧・復興期):個別の健康管理、孤立の防止、新しいコミュニティづくりへと重点が移ります。
発災後2か月で仮設住宅へ入居した本問は、この3つ目の時期の始まりにあたります。
仮設住宅の時期に起こりやすい健康課題
避難所では周囲に被災者や支援者がいるため、体調の変化に気づかれやすい環境でした。仮設住宅では住戸ごとに生活が分かれます。さらに、入居の順番や場所によっては以前の近所付き合いが途切れます。その結果、次のような問題が表に出にくくなります。
- 閉じこもりによる生活不活発病(活動量が落ちて心身の機能が低下する状態)
- 社会的孤立と孤立死(孤独死とも呼ばれ、阪神・淡路大震災後の仮設住宅で大きな社会問題になりました)
- 飲酒量の増加とアルコール関連問題
- 抑うつ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、喪失や死別による悲嘆
- 受診や服薬の中断による慢性疾患の悪化
これらの問題は、自分から相談に来ない人ほど深刻になりやすいのが特徴です。窓口で相談を待つだけでは、支援が必要な人を把握できません。
正答に至る判断
そこで保健師は、対象を限定せず、すべての仮設住宅を巡回訪問して健康相談を行います。これは地域に出向いて支援するアウトリーチの実践です。全戸訪問には次のような役割があります。
- 健康状態、生活状況、支援ニーズを網羅的に把握する
- 継続支援が必要なハイリスク者を見つけ、医療・介護・福祉サービスや心のケアの専門職へつなぐ
- 住民との信頼関係をつくる
訪問で得た情報は、地区の健康課題の分析に生かします。さらに、集会所での健康相談やサロン活動など、住民同士のつながりをつくる取り組みへ発展させていきます。A市は13人の保健師による地区担当制なので、担当地区ごとに仮設住宅を分担すれば、全戸巡回を計画的に進められます。地区担当制は地区の住民を継続して把握する体制であり、この時期の活動に適しています。
選択肢の確認
1.心のケアは高齢者を優先させる。:心のケアの必要性は年齢で一律に決めるものではありません。家族や住まいを失うといった被災・喪失体験や、ストレス反応の程度によって、一人ひとり個別に判断します。そのため、高齢者を一律に優先するのは適切ではありません。子ども、家族を亡くした遺族、支援にあたる職員なども心のケアの重要な対象です。訪問などで住民の状態を把握し、年齢にかかわらず必要度の高い人から支援することが基本です。
2.独居の高齢者には施設入所を勧める。:独居であることだけを理由に施設入所を勧めると、住み慣れた地域での生活の継続と本人の自己決定を損なうため適切ではありません。独居高齢者は孤立や生活不活発病のリスクが高い対象です。訪問による見守り、介護保険サービスの活用、近隣や支援員とのつながりづくりによって地域での生活を支えます。心身の状態から在宅での生活が難しい場合には、本人の意向を確かめたうえで施設入所も検討します。
3.エコノミークラス症候群の予防を呼びかける。:エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)の予防が重点となるのは、車中泊や避難所での生活が続く時期です。狭い空間で長時間同じ姿勢をとり、トイレを気にして水分摂取も控えがちになるためです。新潟県中越地震や熊本地震では、車中泊をしていた人の発症が問題になりました。仮設住宅へ移った段階でも活動量の低下には注意が必要です。ただし、この時期の支援の中心は、孤立の防止や健康状態の網羅的な把握に移っています。
4.すべての仮設住宅を巡回訪問し健康相談を行う。:正答。仮設住宅への入居後は、住民の健康状態や生活の変化が外から見えにくくなります。また、自ら相談しない人ほど問題が深刻になりやすくなります。全戸を訪問して状況を把握し、継続支援が必要な人を見つけて関係機関につなぐことが、この時期の保健師活動の基本です。訪問は住民との信頼関係づくりにもなり、その後のコミュニティ形成の支援にもつながります。
覚えるポイント
- 災害時の保健活動は時期で重点が変わります。急性期は救命・救護と要配慮者の把握・安全確保が中心です。避難所の時期は衛生管理と、感染症・エコノミークラス症候群の予防が中心です。仮設住宅の時期は、個別の健康管理・孤立防止・コミュニティづくりが中心になります。
- 仮設住宅の時期は、健康問題が「見えなくなる」時期です。全戸訪問(アウトリーチ)で網羅的に把握し、ハイリスク者を継続支援につなげます。
- 仮設住宅で注意する課題は、生活不活発病、孤立・孤立死、アルコール関連問題、抑うつ・PTSD、慢性疾患の悪化(受診・服薬の中断)です。
- 心のケアは年齢で一律に優先順位をつけません。被災・喪失体験とストレス反応の程度で必要度を判断します。子どもや遺族、支援者も対象です。
- 独居高齢者への支援は、自己決定を尊重し、見守りやサービスの活用で地域での生活の継続を支えることが原則です。
- 連問の事例文では、過去の出来事と設問の時点の出来事を区別して読みます。本問の「死傷者は高齢者の割合が高かった」は5年前の災害の情報です。高齢者が被害を受けやすい地域だという背景にはなりますが、心のケアの対象を年齢で一律に決める根拠にはなりません。
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