第109回

109PM046|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み45~47の問いに答えよ。人口約3,300人のA町にあるB地区は人口約200人で商店や飲食店が連なっている地域である。B地区は高齢化率50%で、独居高齢者世帯も多い。早朝、B地区で大規模火災が発生し、死者が1名、重傷者が2名出ている。B地区の建物の半数が焼失し、小学校の体育館に避難所が設置された。火災発生の翌日、B地区の担当保健師は避難所を訪問した。避難所には50人が避難していて、避難者のほとんどが独居で生活をしていた高齢者である。避難をしているCさん(80歳、男性、独居、介護認定なし)は、自分の荷物を置いている場所やトイレの位置が分からなくなることがあると保健師に話した。Cさんに対するB地区の担当保健師の対応で最も適切なのはどれか。

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正解4

正答

4.認知機能について災害前後の変化を把握する。

この問題のポイント

災害翌日の避難所で、高齢者が「荷物の場所やトイレの位置が分からなくなる」と話した場面で、地区担当保健師が最初に何をすべきかを問う問題です。判断の手がかりは、Cさんが介護認定を受けずに独居生活を続けてきたことと、症状が慣れない避難所という環境で現れていることです。この混乱が災害前からあったのか、災害後に生じたのかで必要な支援がまったく変わるため、まず災害前後の変化をアセスメントします。

解説

事例の整理

  • 時期は発災翌日の急性期です。避難所は小学校の体育館で、避難者約50人のほとんどが独居高齢者です。
  • Cさんは80歳の男性で、独居、介護認定はありません。災害前は介護サービスを使わずに一人暮らしを維持できていたと考えられます。
  • 訴えは「荷物の場所やトイレの位置が分からなくなることがある」です。場所に関する見当識や記憶の混乱が疑われます。本人が困りごととして自覚し、自分から保健師に話しています。
  • 対応するのはB地区の担当保健師です。平常時の地区活動で住民の生活状況を知り、近隣住民や民生委員とのつながりを持つ立場です。

考えられる背景

Cさんの症状には、大きく2つの可能性があります。

  • 災害と避難による一時的な混乱:体育館は同じような区画が並んで目印が乏しく、騒音・照明・プライバシーのなさで睡眠も妨げられます。トイレを気にして水分を控えると脱水になりやすく、火災による心理的ショックや生活リズムの崩れも重なります。高齢者はこうした要因でせん妄や、住み慣れた環境から離れることによる心身の不調(リロケーションダメージ)を起こしやすく、原因の除去や環境の調整で改善が期待できます。
  • 災害前からの認知機能低下が表に出た:住み慣れた自宅では、習慣や身の回りの手がかりで補えていた軽い認知機能低下が、環境が変わったことで目立つようになる場合があります。この場合は、避難生活の後も続く医療・介護の支援を考える必要があります。

両者が重なることもあり、認知症のある人はせん妄を起こしやすいことも知られています。せん妄は急に始まって時間帯により変動し、認知症は緩やかに進行するため、「いつから、どのように変わったか」という経過が見分ける最大の手がかりになります。

把握の方法と並行して行うこと

災害前後の変化は、本人から災害前の生活(買い物・調理・金銭管理・服薬・通院など)や現在の睡眠・食事・水分・排泄の状況を聞くとともに、近隣住民、民生委員、同じ避難所にいる顔見知り、かかりつけ医、地域包括支援センターなどから情報を集めて確かめます。地区担当保健師であれば、家庭訪問や健診、相談の記録も活用できます。夜間の様子、時間帯による変動、脱水や発熱などの身体症状も確認します。

アセスメントと並行して、避難所内の安全の確保も進めます。トイレまでの動線への目印、トイレに近い場所への居場所の配置、夜間の足元の照明、声かけ、水分摂取の促しなどは、転倒・失禁・脱水の予防にもつながります。

正答に至る判断

選択肢1〜3は、「介護が必要」「認知症が疑われる」「一般の避難所での生活は難しい」という結論を前提にした対応ですが、現時点ではどれも確かめられていません。情報収集とアセスメントを行い、その結果に基づいて支援を選ぶことが保健師活動の基本です。したがって、最も適切なのは災害前後の変化の把握です。

選択肢の確認

1.要介護認定の申請を勧める。:要介護認定は、介護保険サービスを利用するために介護の必要度を市町村が判定する手続きです。申請先は市町村で、地域包括支援センターなどが申請を代行することもできます。Cさんは災害前は介護認定なしで独居生活を送っており、現時点で分かっているのは避難所での場所の混乱だけです。介護が必要かどうかはまだ判断できず、一時的な混乱であれば環境が整うと回復することもあるため、アセスメントを飛ばして申請を勧めるのは早すぎます。把握の結果、災害前から生活に支障が出るほどの認知機能低下があり、避難生活後の暮らしに介護サービスが必要と見込まれる場合には、適切な支援になります。

2.認知症専門外来の受診に同行する。:この対応は、Cさんの症状を認知症によるものと決めつけることになります。避難所での混乱は、せん妄や環境の変化による一時的なものである可能性があり、その場合にまず必要なのは脱水・睡眠・身体疾患の確認と環境の調整です。本人の意向も確かめないまま、発災翌日の混乱した時期に専門外来の受診を進めるのは順序として適切ではありません。災害前から緩やかな低下が続いていたと確認できた場合には、かかりつけ医や認知症の専門医療機関への相談・受診につなぐことを本人と一緒に検討します。

3.福祉避難所に移動することを提案する。:福祉避難所は、高齢者や障害者など、一般の避難所での生活に特別な配慮を必要とする要配慮者のために、市町村がバリアフリーや支援体制を整えて指定する避難所です。Cさんは介護認定がなく、現時点で一般の避難所での生活が困難とまではいえません。環境の変化で混乱している可能性がある高齢者を別の場所に移すと、再び環境が変わることで混乱が強まるおそれもあります。アセスメントと環境調整を行っても一般の避難所での生活が難しいと判断された場合に検討する対応です。

4.認知機能について災害前後の変化を把握する。:正答。症状が災害前からあったのか、災害後に生じたのかは、一時的な混乱(せん妄やリロケーションダメージ)と認知症を見分ける手がかりです。その結果によって、環境調整と見守りで対応するのか、医療や介護につなぐのか、福祉避難所を検討するのかが決まります。地区担当保健師は平常時の活動で得た情報や、近隣住民・民生委員とのつながりを活用でき、この把握を行うのに適した立場にあります。

覚えるポイント

  • 避難所で高齢者に認知機能の混乱がみられたら、まず「災害前からか、災害後か」を把握します。支援の内容はアセスメントの結果で決めます。
  • せん妄は急に始まり、時間帯で変動し(夜間に悪化しやすい)、注意の障害が目立ち、原因の除去で改善しうる状態です。認知症は緩やかに進行し、記憶障害が中心です。
  • 避難所の高齢者は、脱水(トイレを気にした水分の制限)、睡眠障害、生活不活発病、転倒、せん妄を起こしやすく、目印・動線・照明・居場所の工夫が予防になります。
  • 福祉避難所は、一般の避難所での生活に特別な配慮を要する要配慮者のための避難所です。移動そのものが環境の変化になる点にも注意します。
  • 要介護認定の申請、専門医の受診、福祉避難所への移動は、アセスメントを踏まえて必要性を判断する次の段階の支援です。
  • 地区担当保健師は、平常時の地区把握(住民の生活状況や関係者とのつながり)を災害時の個別支援に生かします。

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