第109回

109AM051|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み50~52の問いに答えよ。A町は人口1万人で高齢化率40%、後期高齢者の割合が65%と高齢化が進行し、独居高齢者が多い。A町は広大な山間部を有し、山の中腹や谷合に集落が点在している。運動機能が低下すると坂が多いため閉じこもり傾向となる高齢者が多い。近年、介護認定率が急増しており、健康寿命を延伸し住み慣れた地域で生活できるよう、地域包括ケアシステムの構築をめざす取り組みが検討されている。3か月間の筋力トレーニングの取り組み終了直後は参加者の運動機能は向上したが、1年後に介護認定を受けている参加者がいることが分かった。そのため、地域ケア会議で今後のA町の介護予防について検討することになった。検討する内容で最も適切なのはどれか。

解答・解説を見る

正解4

正答

4.社会的交流を目的とした社会資源の創出

この問題のポイント

3か月の筋力トレーニングで運動機能は向上しましたが、1年後には介護認定を受けた参加者が出ました。この「効果が続かなかった」結果を受けて、地域ケア会議で何を検討すべきかを問う問題です。判断の鍵は、坂が多く集落が点在し独居高齢者が多いため、運動機能が落ちると閉じこもりやすいという地域特性です。介護予防には心身機能への働きかけに加えて社会参加の場づくりが欠かせないこと、そしてそれを地域課題として資源開発につなげるのが地域ケア会議の役割であることを押さえます。

解説

事例の情報を整理する

  • 人口1万人で高齢化率40%なので、高齢者は約4,000人です。そのうち後期高齢者が65%(約2,600人)を占めます。要介護認定を受ける割合が大きく高まる75歳以上が多い町です。
  • 独居高齢者が多く、家族との会話や一緒の外出といった機会が自然には生まれにくい状況です。
  • 広い山間部に集落が点在し坂も多いため、運動機能が少し落ちるだけで外出が難しくなり、閉じこもりにつながります。
  • 3か月の筋力トレーニングは終了直後には効果がありましたが、1年後には介護認定を受けた参加者がいました。

ここから読み取るべきなのは、「トレーニングの内容に効果がなかった」ことではありません。「教室が終わった後に効果を保つしくみがなかった」ことです。教室終了後に出かける目的や人と会う機会がなければ、次のような悪循環が起こります。

  • 活動量が減り、筋力が再び低下する
  • 外出がさらに億劫になり、閉じこもりが進む
  • 廃用による機能低下が進み、要介護に至る

独居で地理的にも外出しにくいA町は、この悪循環に入りやすい地域です。

介護予防の考え方

2014年の介護保険法改正で介護予防・日常生活支援総合事業が再編された際に、介護予防の考え方も見直されました。それまでの介護予防は、機能回復訓練など高齢者本人へのアプローチに偏りがちでした。その結果、教室が終わった後に活動的な状態を保つ取り組みにつながりにくいことが課題とされました。

そこで、ICFでいう「心身機能」だけでなく「活動」と「参加」にも働きかけることが重視されるようになりました。具体的には、地域の中で生きがいや役割を持って過ごせる居場所と出番をつくるなど、本人を取り巻く環境へのアプローチを含めて取り組むことです。その中心となるのが、住民が主体となって運営し、身近な場所で継続的に集まる通いの場です。

国内の大規模な追跡研究でも、趣味・スポーツ・ボランティアなどのグループ活動に参加している高齢者ほど、要介護状態になりにくいことが示されています。期間を区切った短期集中型の教室は、終了後に地域の通いの場や自主グループへつなぐところまでを一連の流れとして設計することが求められています。

地域ケア会議の役割と正答に至る判断

地域ケア会議は、2014年の介護保険法改正で法律に位置づけられた会議です。市町村や地域包括支援センターが開催し、医療・介護の専門職、民生委員、住民組織などが参加します。個別事例の検討を積み重ねて地域に共通する課題を見出し、資源の開発や施策につなげることが役割で、次の5つの機能があります。

  • 個別課題解決機能
  • ネットワーク構築機能
  • 地域課題発見機能
  • 地域づくり・資源開発機能
  • 政策形成機能

今回は、「教室終了後に機能を保てず要介護に至る」「地理的条件と独居のため閉じこもりやすい」という地域課題が見えてきた段階です。したがって、次に検討すべきは地域づくり・資源開発です。具体的には、次のようなものが考えられます。

  • 集落ごとの公民館や空き家を活用した体操やサロン
  • 教室の修了者が運営側に回る自主グループ
  • 見守りを兼ねた会食の場
  • 通いの場までの移動支援

集落が点在するA町では、中心部に大きな拠点を1か所つくるより、歩いて行ける範囲に小さな場を数多くつくる発想が合っています。こうした場は、運動を続ける機会になるだけではありません。独居高齢者の見守りや異変の早期発見にも役立ち、住民同士の支え合い(互助)も育てます。

保健師は、地区の実情把握、住民リーダーの発掘と育成、自主グループの立ち上げ支援、活動の評価を通して、この場づくりを支える立場にあります。

選択肢の確認

1.筋力トレーニングの質の向上:終了直後に参加者の運動機能は向上しており、教室の内容自体には効果があったと判断できます。問題は、終了後に活動が途切れて機能が再び低下したことです。トレーニングの質を高めても、教室が終われば閉じこもりに戻るという構造は変わりません。終了直後の時点で効果が出ていなかった場合であれば、内容や強度の見直しが検討課題になります。

2.介護予防サービス事業所の誘致:事業所の誘致は、要支援認定を受けた人に専門職がサービスを提供する体制を整える取り組みです。認定に至る前の段階で閉じこもりを防ぐ手段ではありません。また、集落が点在するA町では、事業所ができても移動の問題は残ります。外部の事業所に頼るだけでは、住民同士のつながりや日常的に通える場も生まれません。サービス基盤そのものの不足が地域課題として明らかな場合に検討される内容です。

3.筋力トレーニングの費用対効果:費用対効果の分析は、事業評価の一部としては意味があります。しかし、「なぜ1年後に機能を保てなかったのか」「どうすれば効果を持続できるのか」という今回の課題への対策にはなりません。事業を続けるか縮小するかの判断材料にはなっても、閉じこもりを防ぐ新しい取り組みは生まれません。事業の継続や予算配分を決める場面で重視される視点です。

4.社会的交流を目的とした社会資源の創出:正答。教室が終わった後も、身近な場所で人と会い、体を動かし、役割を持てる場をつくることで、運動機能の維持と閉じこもりの予防を同時に図れます。独居で外出が難しいA町の地域特性に合っており、地域ケア会議の地域づくり・資源開発機能にも合致する検討内容です。

覚えるポイント

  • 介護予防は、心身機能への働きかけ(運動・栄養・口腔など)に、活動と参加を促す環境への働きかけ(居場所と出番づくり)を組み合わせて行います。
  • 期間限定の教室は、終了後に通いの場や自主グループへつなぐところまで設計しないと、効果が続きにくくなります。
  • 閉じこもりは、廃用による機能低下と要介護の入口です。基本チェックリストでも、運動器・栄養・口腔・認知・うつと並ぶ評価領域になっています。
  • 地域ケア会議の5つの機能は、個別課題解決、ネットワーク構築、地域課題発見、地域づくり・資源開発、政策形成です。
  • 「効果が一時的で続かない」事例では、内容の強化よりも、継続できるしくみと場づくりに目を向けます。
  • 山間部で集落が点在する地域では、歩いて行ける小規模な場と移動支援を組み合わせる発想が有効です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。

解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。

学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。