第109回
109PM047|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み45~47の問いに答えよ。人口約3,300人のA町にあるB地区は人口約200人で商店や飲食店が連なっている地域である。B地区は高齢化率50%で、独居高齢者世帯も多い。早朝、B地区で大規模火災が発生し、死者が1名、重傷者が2名出ている。火災発生から10日が経った。避難所で不眠を訴える住民が増え、イライラしている様子も見受けられる。B地区の担当保健師は、今後の避難住民の心のケアを検討していくために、精神保健福祉センターの精神科医師に応援要請を行った。B地区の担当保健師が精神保健福祉センターの精神科医師に依頼する内容で適切なのはどれか。
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正解1
正答
1.保健師の地区活動における心のケアの方針に関する助言
この問題のポイント
災害後の心のケアで、精神保健福祉センターの精神科医師に何を依頼するのが適切かを問う問題です。判断の手がかりは、応援要請の目的が「今後の避難住民の心のケアを検討していくため」と書かれていることです。精神保健福祉センターは、市町村や保健所に技術指導・技術援助を行う、専門的な後方支援の機関です。住民への支援を続けて担うのは地区担当の保健師です。センターの専門医にはその活動の方向を定める助言を求める、という役割分担で考えます。
解説
事例と心理反応の整理
A町は人口約3,300人の小さな町で、被災したB地区の人口は約200人です。高齢化率は50%で、独居高齢者世帯も多い地域です。商店や飲食店が連なる地区なので、住まいだけでなく仕事や生計の基盤を失った住民もいると考えられます。死者1名、重傷者2名が出ているため、遺族、負傷者の家族、近隣住民は強い心理的衝撃を受けていると考えられます。火災から10日が経ち、避難所では不眠やいらだちが目立ってきました。
災害後およそ1か月の間は、不眠、いらだち、不安、集中困難、出来事を繰り返し思い出すといった反応が多くの人に現れます。これらは「異常な事態に対する正常な反応」です。安心・安全の確保、生活リズムの回復、正確な情報提供、話を聴く機会づくりによって、大半の人は自然に軽快していきます。
一方で、次のような場合は専門的な評価が必要です。PTSD、うつ病、アルコール関連問題などを念頭に置きます。
- 症状が1か月を超えて続く、または悪化する
- 日常生活が送れない
- 飲酒量が増える
- 希死念慮がある
遺族、負傷者とその家族、精神疾患の既往がある人、孤立しやすい独居高齢者は、ハイリスク者として重点的に見守ります。
したがって、この時点で必要なのは、一人ひとりの不眠をすべて医療で扱うことではありません。次の要素を含む「地区全体の心のケアの計画」が必要です。
- 避難所全体への働きかけ(心理教育、環境調整)
- 住民の状態の把握(巡回や相談での聞き取り、必要に応じて質問票によるスクリーニング)と、ハイリスク者の継続的な見守り
- 専門医療へつなぐ基準の明確化
精神保健福祉センターの役割
精神保健福祉センターは、精神保健福祉法に基づいて都道府県と指定都市に置かれる、精神保健福祉の技術的中核機関です。主な業務は次のとおりです。
- 保健所・市町村・関係機関に対する技術指導と技術援助
- 人材育成、普及啓発、調査研究
- 複雑・困難な事例の相談
- 精神医療審査会の事務
- 精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療(精神通院医療)の判定
災害時の地域の心のケアは、重層的な体制で行われます。住民に身近な町の保健師が第一線で活動し、保健所がそれを支えます。精神保健福祉センターは、専門的な立場から方針や技術を援助します。治療が必要な人の診療は、地域の医療機関が担います。大規模災害では、都道府県等が派遣する災害派遣精神医療チーム(DPAT)が加わることもあります。
正答に至る判断
保健師は住民の状況を最もよく把握しており、今後も継続して地区にかかわる立場にあります。相談、健康調査、質問票によるスクリーニングは、保健師が自ら行える活動です。これらを専門医に代わって行ってもらうのではなく、専門性が必要な判断の枠組みを示してもらうことが大切です。具体的には、次のような点について方針の助言を受けます。
- どこまでを正常な反応とみなし、どの状態になったら受診につなぐか
- 住民の状態をどう把握するか(スクリーニングを行う場合の時期・方法・結果の解釈を含む)
- 避難所での心理教育や環境調整をどう進めるか
- 遺族やハイリスク者への支援をどう組み立てるか
こうした助言を得れば、保健師の地区活動全体の質が上がり、多くの住民に継続的な支援が届きます。限られた専門職の力を最も効果的に生かせる依頼であり、これが正答になります。
選択肢の確認
1.保健師の地区活動における心のケアの方針に関する助言:正答。応援要請の目的は、今後の避難住民の心のケアを検討していくことです。精神科医師の専門知識を、保健師の地区活動の方針づくりに生かす依頼です。これは、精神保健福祉センターの本来の役割である技術指導・技術援助に合致します。助言を求める内容には、正常な反応と受診が必要な状態の見分け方、住民の状態の把握のしかた、ハイリスク者の見守り方、避難所で伝える心理教育の内容などがあります。こうした助言を得ることで、保健師が継続して行う支援が地区全体に行き渡ります。
2.避難住民を対象としたストレスチェックの実施:避難住民のストレス反応を質問票などで把握するスクリーニングや健康調査は、保健師が健康相談や避難所の巡回とあわせて自ら実施できる活動です。そのため、精神科医師に実施そのものを依頼する内容ではありません。災害時には、K6(抑うつや不安などの心理的苦痛をみる6項目の質問票)やIES-R(出来事の後の侵入・回避・過覚醒の症状をみる尺度)などを用いた調査が被災住民に行われることがあり、状態を把握する方法としては有用です。ただし、スクリーニングは実施するだけでは支援になりません。結果をどう解釈し、どの状態の人を受診や継続的な見守りにつなぐかという方針があって、初めて意味をもちます。精神科医師に求めるべきなのはその方針への助言であり、それは選択肢1に含まれます。なお、ここでいうストレスチェックは、労働安全衛生法に基づき事業者が労働者に対して行う職場のストレスチェック制度とは別のものです。
3.医療保護入院ができる医療機関の整備:医療保護入院は、本人の同意によらない非自発的入院です。精神保健指定医の診察で入院が必要と判断され、かつ精神障害のために本人の同意による任意入院が行える状態にない場合に、家族等の同意を得て精神科病院で行います。事例には、入院治療を要するほどの重い精神症状を示す情報はありません。多くの被災者にみられる不眠やいらだちの段階で入院体制を考えるのは飛躍しています。また、医療機関の整備は、都道府県が医療計画などで進める行政の体制整備であり、応援を求めた1人の医師に依頼できることではありません。なお、混同しやすい措置入院は、自傷他害のおそれがあり、2人以上の精神保健指定医の診察結果が一致したときに、都道府県知事(指定都市では市長)の権限で行う入院です。
4.睡眠障害を訴えている避難住民の診察:不眠は、避難住民の多くに現れている、災害後によくみられる反応です。まず保健師が相談や健康観察を行い、睡眠を妨げる避難所の環境(騒音、照明、寒暖、プライバシーの不足など)を整えます。そのうえで、治療が必要な人をかかりつけ医などの地域の医療機関につなぐのが基本です。精神保健福祉センターの中には診療機能をもつところもありますが、今回の応援要請の目的は今後の心のケアを検討することです。専門医が個別の診察を担っても、一部の住民への一時的な対応にとどまります。どの程度の不眠を受診につなぐかという目安は、選択肢1の助言として求めるのが適切です。
覚えるポイント
- 精神保健福祉センターは、精神保健福祉法に基づき都道府県・指定都市に置かれる技術的中核機関です。主な業務は、保健所・市町村への技術指導・技術援助、人材育成、普及啓発、調査研究、複雑困難な相談、精神医療審査会の事務、手帳・自立支援医療(精神通院医療)の判定です。
- 役割分担は、市町村保健師が住民に身近な第一線、保健所が市町村支援と広域調整、精神保健福祉センターが専門的な後方支援、医療機関が診療です。専門職に応援を求めるときは、保健師が自ら行える活動の代行ではなく、方針への助言や技術援助を求めます。
- 災害後およそ1か月以内の不眠やいらだちは、多くの人にみられる正常な反応です。支援の中心は、環境調整、心理教育、見守りです。
- 症状が1か月を超えて続く・悪化する、生活に支障がある、飲酒が増えた、希死念慮がある、という場合は専門医療につなぎます。遺族、負傷者とその家族、精神疾患の既往がある人、独居高齢者はハイリスク者です。
- 被災住民のストレス反応を質問票(K6、IES-Rなど)で把握するスクリーニングは、保健師も実施できます。結果を支援につなげる方針とあわせて計画します。労働安全衛生法に基づく職場のストレスチェック制度(事業者が労働者に実施)とは別のものです。
- 医療保護入院は、精神保健指定医の診察と家族等の同意による入院です。措置入院は、自傷他害のおそれについて2人以上の精神保健指定医の診察結果が一致した場合に、都道府県知事(指定都市では市長)が行う入院です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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