第108回
108PM043|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み42〜44の問いに答えよ。A市は川沿いに位置する人口7万人の高齢化率24.6%の市である。A市には13人の保健師が勤務し地区担当制で業務を行っている。A市では5年前に大規模災害が発生し、多くの死傷者が出た。死傷者は高齢者の割合が高かった。自治会の会合から2年後の午後4時、A市内を震源とする震度6の地震が発生した。市全域は断水、停電した。道路は一部泥状化によって隆起した箇所はあるが寸断はない。B保健師は災害時保健活動マニュアルに従い、発災30分後に保健センターに出勤し担当避難所に出向いた。このときにB保健師が行う保健活動で正しいのはどれか。
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正解3
正答
3.災害時要配慮者の安全確保
この問題のポイント
発災30分後に保健センターへ参集し、担当避難所に出向いた保健師が、その時点で行う保健活動を問う問題です。災害時の保健活動は時期によって重点が移ります。発災直後の初動期(フェーズ0)は、生命と安全を守る活動が最優先です。5年前の災害で死傷者に占める高齢者の割合が高かったこと、市全域が停電・断水していることは、要配慮者への対応を急ぐべきことを示す手がかりです。
解説
事例の状況を整理する
- 時期:発災30分後に参集し、担当避難所に出向いた時点です。避難所の開設と運営が始まったばかりで、住民が次々に集まってくる段階です。
- 被害:震度6の地震で、市全域が断水・停電しています。道路は一部で隆起していますが、寸断はありません。
- 地域特性:人口7万人、高齢化率24.6%です。出題時期に近い2021年10月1日現在の全国の高齢化率は28.9%(総務省「人口推計」)なので、それより低めです。一方、5年前の大規模災害では、死傷者に占める高齢者の割合が高くなりました。
- 保健師の体制:13人が地区担当制で活動しています。そのため、B保健師は日頃の地区活動から、支援が必要な住民を把握しやすい立場にあります。
- 時刻:午後4時で、夕方にかかる時間帯です。停電しているため、日没後は避難所内も暗くなります。
災害時の保健活動の時期区分
日本公衆衛生協会と全国保健師長会の「災害時の保健活動推進マニュアル」は、保健活動を次のフェーズに分けて整理しています。
- フェーズ0(初動体制の確立):概ね発災後24時間以内
- フェーズ1(緊急対策期、生命・安全の確保):概ね72時間以内
- フェーズ2〜3(応急対策期、生活の安定):避難所対策が中心で、仮設住宅への入居まで続く時期
- フェーズ4〜5(復旧・復興期):仮設住宅での生活支援や新たなコミュニティづくりが中心の時期
発災直後のこの時点はフェーズ0にあたります。この時期に避難所で行う主な活動は次のとおりです。
- 避難者の人数と健康状態の把握
- 負傷者や急病人の発見と、救護所や医療機関へのつなぎ
- 要配慮者の把握と、安全に過ごせる場所の確保
- 災害対策本部への情報の報告
避難所の衛生管理や感染症予防は、避難者の状況を把握したうえで、主にフェーズ1以降に本格化します。健康相談の場づくり、生活不活発病の予防、外部の支援チームと連携した心のケアは、避難生活が長引くにつれて比重が増す活動です。
要配慮者と避難行動要支援者
災害対策基本法は、要配慮者を「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」と定めています。実際には、妊産婦、難病患者、医療的ケアが必要な人、日本語に不慣れな外国人なども含めて考えます。
避難行動要支援者は、要配慮者のうち、自ら避難することが難しく、避難に特に支援を要する人です。2013年の法改正で、市町村長に避難行動要支援者名簿の作成が義務づけられました。名簿の情報は、平常時は本人の同意(または市町村の条例の定め)がある場合に、消防や民生委員などの避難支援等関係者へ提供されます。災害が起きたときやそのおそれがあるときは、生命・身体を守るために特に必要であれば、同意がなくても提供できます。2021年の改正では、個別避難計画の作成が市町村長の努力義務になりました(出題当時すでに施行済み)。
この事例で要配慮者の安全確保が急がれる理由
市全域の停電と断水は、医療機器や継続的な治療に頼って生活している人に大きく影響します。生命に危険が及ぶまでの時間で分けると、優先順位を判断しやすくなります。
- 停電で直ちに生命に関わる人:電源に依存する医療機器を使う人です。代表は、人工呼吸器(特に常時使用している人)、吸引器、在宅酸素療法の酸素濃縮器の使用者です。人工呼吸器は、バッテリーの残り時間と蘇生バッグの有無を確認し、電源を確保できる医療機関などへの移送を急ぎます。吸引器は、痰を除去できないと窒息のおそれがあるため、手動式や充電式の備えを確認します。酸素濃縮器は停電で止まるため、予備の酸素ボンベに切り替え、残量を確認します。
- 治療や薬の中断が続くと生命に関わる人:人工透析には大量の水と電力が必要なため、断水・停電した地域では透析施設が稼働できないことがあります。透析を受けられない状態が続くと、数日のうちに高カリウム血症や溢水(体液過剰)の危険が高まります。それまでに、被災地の外も含めて透析を受けられる施設を確保し、移送につなぎます。インスリンや抗てんかん薬を持ち出せずに避難した人も、中断が続くと重い状態になるおそれがあります。インスリン治療が欠かせない人では糖尿病ケトアシドーシス、抗てんかん薬を中断した人ではてんかん重積状態などです。
- 直ちに生命には関わらないが対応が必要な人:電動のエアマットを使っている人です。停電でマットがしぼむと体圧を分散できなくなり、褥瘡のリスクが高まります。停電時に空気を保持できるかどうかは機種によって違うので確認し、必要に応じて体位変換で除圧します。
A市の高齢化率は全国平均より低いものの、前回の災害では高齢者に被害が集中しました。高齢化率の数値だけで判断せず、過去の被害の特徴から、高齢者を含む要配慮者が被害を受けやすい地域だと読み取ることが大切です。人口7万人で高齢化率24.6%なら高齢者は約1万7千人となり、率が低めでも対象となる人数は少なくありません。道路は寸断されていないため、医療機関への搬送や、福祉避難所などより適した場所への移送も検討できます。
保健師はまず避難者の間に入って要配慮者を見つけ出し、医療が必要な人を救護所や医療機関につなぎます。避難所内では、段差が少なくトイレに近い場所を割り当てるなどして、日没前に居場所と移動経路を整えます。まだ避難してきていない避難行動要支援者の安否確認は、名簿をもとに自治会や民生委員などと連携して進め、把握した情報を本部に報告します。これが、この時点で最も求められる保健活動です。
選択肢の確認
1.健康相談の場所の設置:健康相談の窓口が役立つのは、避難生活が始まり、持病の悪化や体調不良が表面化してくる時期です。発災から間もないこの時点では、避難者が次々に到着している最中で、避難所の運営体制も整っていません。相談に来るのを待つ形では、自分から申し出られない要配慮者や重症者を見落とします。この時期は、保健師が自ら避難者の間を回って状態を確かめることが優先です。避難所の運営が動き出してから相談の場を設けるのであれば、適切な活動です。
2.生活不活発病の予防:生活不活発病(廃用症候群)は、避難所で動く機会や役割を失うことで心身の機能が低下する状態で、高齢者に起こりやすいものです。重要性が増すのは避難生活が長引く時期(フェーズ2以降)で、体操の呼びかけや避難所内での役割づくりなどに取り組みます。早い段階から予防の視点は持っておきますが、発災直後に優先する活動ではありません。避難生活で注意する健康課題として、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防も一緒に押さえておきます。
3.災害時要配慮者の安全確保:正答。フェーズ0では生命と安全の確保が最優先です。5年前の災害で死傷者に占める高齢者の割合が高かったA市では、高齢者を含む要配慮者が被害を受けやすいと考えられます。停電・断水のなかでは、医療機器が使えなくなったり、治療の継続が難しくなったりする人もいます。保健師はこうした人を早く見つけ、避難所内で安全な居場所を確保します。さらに、医療機関への搬送や福祉避難所などへの移送が必要な人を見極め、本部につなぎます。
4.消毒薬などの衛生資材の調達:断水下では手洗いやトイレの清潔を保つことが難しく、感染症対策は重要な課題です。ただし、必要な物資の種類と量は、避難者数や衛生状態を把握したうえで判断します。調達も災害対策本部などを通じて組織的に行うもので、担当避難所に着いたばかりの保健師が真っ先に行うことではありません。避難者の状況を把握できた段階(主にフェーズ1以降)で、必要な衛生資材を本部に要請するのであれば適切な活動です。
5.災害派遣精神医療チーム〈DPAT〉との連携:DPATは都道府県等が組織する専門チームで、被災地からの要請を受けて派遣され、精神科医療と精神保健活動の支援を行います。派遣の要請や受入れの調整は本部が担い、発災直後のこの時点ではまだ被災地に到着していません。避難所の保健師がDPATと連携するのは、DPATが活動を始めた後です。精神科治療が中断した人や、強いストレス反応が続く人などをつなぐ場面がこれにあたります。急性期の救命医療を担うDMAT(災害派遣医療チーム)とは役割が異なるので、混同しないようにします。
覚えるポイント
- フェーズ0(概ね発災後24時間以内)とフェーズ1(概ね72時間以内)は、生命と安全の確保が最優先です。避難所では、要配慮者の把握と安全確保、負傷者や急病人の医療へのつなぎ、本部への報告を行います。
- 避難所の衛生管理・感染症予防は、避難者の状況を把握したうえで主にフェーズ1以降に本格化します。健康相談の場づくり、生活不活発病の予防、外部の支援チームと連携した心のケアは、避難生活が長引くにつれて比重が増します。
- 要配慮者は「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」で、避難行動要支援者はそのうち避難に特に支援を要する人です。名簿の作成は市町村長の義務、個別避難計画の作成は市町村長の努力義務です。災害時には、生命・身体を守るために特に必要なら同意がなくても名簿の情報を提供できます。
- 停電で直ちに生命に関わるのは、人工呼吸器(特に常時使用している人)、吸引器、在宅酸素療法の酸素濃縮器の使用者です。治療や薬の中断が続くと生命に関わるのは、人工透析患者(数日以内に透析施設の確保と移送が必要)や、インスリン・抗てんかん薬を使用している人です。
- DMATは急性期の救命医療、DPATは精神科医療と精神保健活動の支援を担います。どちらも派遣の調整は本部が行います。
- 事例文の高齢化率は、全国平均(2021年10月1日現在28.9%、総務省「人口推計」)と比べて読みます。そのうえで、過去の災害の被害の特徴、停電・断水、道路の状況も合わせて、優先すべき対象と実行できる支援を判断します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。
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