第108回

108PM042|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。A市は川沿いに位置する人口7万人の高齢化率24.6%の市である。A市には13人の保健師が勤務し地区担当制で業務を行っている。A市では5年前に大規模災害が発生し、多くの死傷者が出た。死傷者は高齢者の割合が高かった。A市のB保健師が担当地区の自治会長から「5年前の大規模災害では多くの高齢者が逃げ遅れた。保健師から住民に必要な災害対策を自治会の会合で話してほしい」と依頼された。B保健師が話す内容として最も適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.避難所までの移動手段の確認

この問題のポイント

地域住民に防災教育をするとき、何を優先して伝えるかを問う問題です。手がかりは「川沿い」「5年前の大規模災害で高齢者の死傷者が多かった」「多くの高齢者が逃げ遅れた」という情報です。ここから、この地域の課題は発災時の避難行動にあると読み取れます。一般的な防災知識を並べるのではなく、地域で実際に起きた被害と住民の訴えに合わせて内容を絞れるかが判断の鍵です。

解説

問題文から地域の課題を読み取る

保健師の地区活動では、地域の実態とそこから見える健康課題に合わせて支援を組み立てます。問題文の情報を整理すると次のようになります。

  • 川沿いの立地:洪水や浸水などの水害リスクがあります。水害は、予報や避難情報をもとに早めに避難を始めれば命を守りやすい災害です。
  • 5年前の大規模災害で死傷者に高齢者が多かった:災害時に高齢者が特に被害を受けやすい地域であることを示しています。
  • 自治会長の「多くの高齢者が逃げ遅れた」という言葉:住民自身が感じている課題そのものです。依頼の核心は「次は逃げ遅れないために何をすべきか」です。

したがって、話す内容は「逃げ遅れ」を防ぐこと、すなわち避難行動を確実にすることに直結したものを選びます。

高齢者が逃げ遅れる理由と、移動手段の確認の意味

高齢者が逃げ遅れる背景には、次のような要因が重なっています。

  • 身体機能:歩行速度の低下、階段の昇降や長距離歩行の困難があります。
  • 感覚機能:防災行政無線や呼びかけが聞こえにくく、情報を受け取りにくくなります。
  • 判断:「自分は大丈夫」と考えてしまう正常性バイアスがあり、避難を始める判断が遅れます。
  • 手段と支援者:車がない、単身や高齢夫婦のみの世帯で付き添う人がいない、経路が浸水して通れない、といった問題があります。

避難所までの移動手段を確認すると、これらの要因を具体的に解決できます。確認する内容は、避難所の場所、ハザードマップで浸水の危険が少ない経路、徒歩か車か、誰が付き添うか、どのタイミングで出発するか、などです。自治会の会合は、住民どうしが顔を合わせて「誰が誰に声をかけ、一緒に避難するか」を話し合える場です。共助の仕組みづくりにつなげられる点でも、この内容が最も適しています。

関連する制度(出題当時)

  • 災害対策基本法の2013年改正で、市町村に避難行動要支援者名簿の作成が義務付けられました。平常時に自治会や自主防災組織などの避難支援等関係者へ名簿情報を提供するには、条例に特別の定めがある場合を除き、本人の同意が必要です。
  • 2021年の同法改正(5月施行)で、要支援者ごとに避難先・経路・支援者などを定める個別避難計画の作成が、市町村の努力義務になりました。出題時点ですでに施行されています。
  • 同じく2021年5月から避難情報が見直されました。警戒レベル3は「高齢者等避難」、警戒レベル4は「避難指示」(避難勧告は廃止)、警戒レベル5は「緊急安全確保」です。高齢者など避難に時間がかかる人は、レベル3の段階で避難を始めます。

保健師は平常時から、こうした制度と住民の支え合いをつなぎ、次の災害で被害を減らす役割を担います。

選択肢の確認

1.家屋の安全点検の方法:家屋の安全点検(耐震性の確認、家具の固定、ガラスの飛散防止など)は、主に地震で建物の倒壊や家具の転倒によるけがを防ぐ自助の備えです。在宅避難を想定する場合や、家具の下敷きによる負傷が多かった地域であれば、優先度が上がります。しかし、川沿いの地域で「高齢者が逃げ遅れた」という課題には直接応えません。水害では家屋を点検しても浸水から逃れられないため、最も適切とはいえません。

2.飲料水、食料品の備蓄量:飲料水と食料品の備蓄は、ライフラインが止まった後の生活や避難生活を乗り切るための備えです。目安は最低3日分、できれば1週間分で、飲料水は1人1日3リットル程度とされています。発災後の生活を支えるうえで大切ですが、避難開始の遅れを防ぐものではありません。また、広報などで広く伝えられている一般的な内容であり、この地域に固有の課題に焦点を当てた話題とはいえません。

3.避難所までの移動手段の確認:正答。「多くの高齢者が逃げ遅れた」という地域の課題と自治会長の依頼に直接応える内容です。避難所の場所、安全な経路、移動の手段、付き添う人、出発のタイミングを住民どうしで事前に決めておけば、次の災害での逃げ遅れを具体的に減らせます。自治会の会合という場を生かして、共助による避難支援の体制づくりにもつなげられます。

4.医療機関の連絡先リストの作成:医療機関の連絡先リストは、発災後に負傷したり持病が悪化したりして受診が必要になったときに役立ちます。慢性疾患をもつ高齢者には、お薬手帳の携行と合わせて意味のある備えです。ただし、命を守る最初の段階である避難行動を早めることにはつながりません。逃げ遅れが課題の地域では、優先度は低くなります。

覚えるポイント

  • 地域への防災教育や健康教育は、その地域で実際に起きた被害の型と住民の訴えから課題を特定し、課題に直結する内容を選びます。逃げ遅れが課題なら、避難行動の具体化を優先します。
  • 高齢者が逃げ遅れる要因は、身体機能、感覚機能(情報の受け取りにくさ)、判断の遅れ(正常性バイアス)、移動手段や支援者の不足です。避難先・経路・手段・同行者・出発のタイミングを事前に決めておくことが対策になります。
  • 災害対策基本法では、避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務(2013年改正)、個別避難計画の作成が市町村の努力義務(2021年改正)です。
  • 警戒レベルは、3が高齢者等避難、4が避難指示、5が緊急安全確保です(2021年5月から。避難勧告は廃止)。高齢者等はレベル3で避難を始めます。
  • 備えは、住まいの安全(家屋点検)、避難行動、避難生活(備蓄は3日〜1週間分、水は1人1日3リットル程度)、発災後の医療に分けて整理します。設問の課題がどの段階にあるかで優先順位を決めます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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