第109回

109AM055|第109回 保健師国家試験 過去問

2つ選択

次の文を読み55の問いに答えよ。A市は地場産業が主要産業の人口5万人の市である。平成30年度(2018年度)策定の自殺対策計画では数値目標として自殺者数の20%減少を掲げており、計画策定時に対策が優先された対象は60歳以上の男女と40~59歳の無職の男性であり、直近2年の自殺者総数は減少した。一方で、20歳代男女の自殺企図による救急搬送の件数は増加傾向にある。今後のA市の20歳代への自殺対策として適切なのはどれか。2つ選べ。

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正解1・5

正答

1.ソーシャルネットワーキングサービス〈SNS〉を活用した相談支援体制の強化
5.ハローワークと連携した相談事業の実施

この問題のポイント

自殺対策計画を評価する中で見つかった新しいハイリスク層(20歳代)に対して、市として何を追加すべきかを問う問題です。判断の鍵は、「自殺者総数は減ったが、20歳代の自殺企図による救急搬送は増えている」という情報と、「地場産業が主要産業の市」という地域条件です。20歳代が日常的に使う手段と、困りごとを抱えて実際に訪れる場所に相談の入口を置く、という対象に合わせた考え方が問われています。

解説

問題文から読み取ること

  • 自殺対策計画:自殺対策基本法の2016年改正で、市町村にも策定が義務づけられた計画です。A市は2018年度に策定し、自殺者数の20%減少を数値目標にしています。
  • 優先対象:計画策定時の重点は、60歳以上の男女と40〜59歳の無職男性でした。20歳代は重点対象に入っていません。
  • 成果:直近2年の自殺者総数は減少しています。
  • 新たな課題:20歳代男女の自殺企図による救急搬送が増加傾向です。

自殺企図(自殺未遂)の経験は、その後の自殺既遂の最も強い危険因子の一つです。自殺者数という結果指標だけを見れば計画は順調です。しかし救急搬送件数という別のデータから、計画で手当てされていない層でリスクが高まっていることが分かります。PDCAサイクルでいえば、評価(Check)で新たな課題を見つけ、対象を追加して対策を見直す(Act)場面です。

20歳代の特性

  • 相談行動:若年層は援助希求(困ったときに助けを求めること)が低い傾向があります。電話や窓口での相談、精神科の受診には抵抗を感じやすい一方、SNSでの文字のやりとりは日常の手段です。
  • 自殺の背景:学業、就職活動、非正規雇用、職場の人間関係や長時間労働、失業や経済的困窮など、進学・就労をめぐる問題が関わりやすい年代です。
  • 地域の条件:地場産業が中心の市では若者の就職先の選択肢が限られます。そのため、就職や転職の悩み、離職後の孤立が生じやすいと考えられます。

人口動態統計では、近年、20歳代の死因の第1位は自殺が続いており、若年層の自殺対策は全国的な課題です。出題時点の自殺総合対策大綱(2022年10月閣議決定)でも、子ども・若者の自殺対策の推進・強化が重点に掲げられています。SNSなどを活用した相談体制の充実も求められています。

正答に至る考え方

地域の自殺対策の基本は、ハイリスク者が相談に来るのを待つことではありません。対象が「使う手段」と「行く場所」に支援の入口を置くことです。20歳代では、前者がSNS相談、後者がハローワークにあたります。

自殺対策基本法は、自殺対策を生きることの包括的な支援と位置づけています。失業、困窮、孤立などの「生きることの阻害要因」を減らし、「促進要因」を増やすことが対策の考え方です。就労の場と連携した相談は、まさにこの考え方に沿っています。

救急搬送が増えていることから、実践では救急医療機関と連携し、自殺未遂者を退院後の継続支援につなぐ体制づくりも重要になります。

選択肢の確認

1.ソーシャルネットワーキングサービス〈SNS〉を活用した相談支援体制の強化:正答。20歳代が日常的に使う手段で相談を受けるため、電話や来所に抵抗がある人や匿名で相談したい人にも支援が届きます。文字のやりとりから危険度を見立て、必要に応じて電話・対面の相談、医療機関、生活支援へつなぐ流れを整えることが「体制の強化」にあたります。

2.精神保健福祉相談の希望者を対象とする精神科医による診察の実施:自ら相談を希望して来所した人だけが対象となるため、援助希求が低く相談につながっていない20歳代のハイリスク者には届きにくい方法です。精神保健福祉相談は保健所や市町村が行う大切な事業で、治療が必要な人を医療につなげる場面では役立ちます。ただし、既存の「待ち」の支援を続けるだけでは、救急搬送の増加という新たな課題への対策になりません。

3.特定健康診査・特定保健指導の場を活用したメンタルヘルス対策:特定健康診査・特定保健指導は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、医療保険者が40〜74歳を対象に行うメタボリックシンドロームに着目した健診と保健指導です。20歳代は対象外なので、この場を使っても20歳代には届きません。40〜59歳の男性や60歳以上への対策であれば、健診の場を活用することに一定の意味があります。

4.年1回のストレスチェック実施の義務化:ストレスチェックは労働安全衛生法に基づき事業者が労働者に行うものです。出題当時は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で年1回の実施がすでに義務づけられていました(50人未満は努力義務)。義務化は国が法律で定める事項であり、市の自殺対策として行えるものではありません。また、無職の人や学生は対象外なので、20歳代全体への対策にもなりません。その後、2025年の法改正で50人未満の事業場にも実施が義務づけられることになりました(施行は公布から3年以内)。

5.ハローワークと連携した相談事業の実施:正答。就職活動がうまくいかない人や離職・失業した人など、仕事や経済面の悩みを抱えた20歳代が実際に訪れる場所に相談の入口を設けられます。職業相談の場で心身の不調や生活の困りごとに気づき、保健師による相談や生活困窮者への支援へつなぎます。職員へのゲートキーパー研修と組み合わせると、さらに効果的です。雇用の選択肢が限られる地場産業中心の地域では、特に意味のある対策です。

覚えるポイント

  • 自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正)により、都道府県と市町村は地域の自殺対策計画を策定する義務があります。
  • 自殺総合対策大綱の数値目標は「2026年までに自殺死亡率を2015年比で30%以上減少」です。2022年の大綱では、子ども・若者、女性への対策強化が重点になりました。
  • 自殺未遂(自殺企図)の経験は最も重要な危険因子です。救急搬送データは、自殺者数には表れない新たなハイリスク層を見つける手がかりになります。
  • 対策は「対象が使う手段」と「対象が行く場所」に入口を置きます。若年層にはSNS相談、求職者・失業者にはハローワークとの連携が定石です。
  • 特定健診・特定保健指導の対象は40〜74歳です。ストレスチェックは労働安全衛生法に基づき事業者が行い、出題当時は常時50人以上の事業場で義務でした。いずれも20歳代全体には届きません。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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