第109回

109AM054|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み53、54の問いに答えよ。Aさん(64歳、男性、要支援2)は妻(63歳)と2人暮らしである。5年前に歩行時の違和感を自覚し受診したところ、脊髄小脳変性症と診断された。Aさんは難病になったことに驚いたが徐々に受け入れ、妻の励ましやサポートを受けて生活してきた。最近、歩行時のふらつきが強くなったため「室内に手すりをつけたい」と保健師に相談した。住宅改修の後、保健師が1年に1回の家庭訪問を行い3年が経過した。ある日、妻から「通院治療を続けてきたが、最近、夫がよく転ぶようになり食事中もむせることが多くなりました。病気が悪くなってきているようで不安です」と相談があった。保健師が確認する情報で優先度が高いのはどれか。

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正解2

正答

2.AさんのADL

この問題のポイント

脊髄小脳変性症で在宅療養を続けるAさんについて、妻から病状の悪化を心配する相談を受けたときに、保健師が優先して把握すべき情報を問う問題です。判断の鍵は「よく転ぶようになり」「食事中もむせることが多くなりました」という2つの変化です。どちらも疾患の進行による機能低下を示し、転倒による外傷や誤嚥性肺炎という、安全と生命に関わる危険につながります。本人の日常生活動作(ADL)が今どこまで保たれ、どこで難しくなっているかを具体的に確かめることが、支援を見直す出発点になります。

解説

事例から読み取ること

Aさんは冒頭の時点で64歳、要支援2です。40〜64歳の介護保険第2号被保険者は、加齢に伴って生じる特定疾病が原因の場合に限り、要介護・要支援認定を受けられます。脊髄小脳変性症はこの特定疾病に含まれます。

歩行時のふらつきに対して手すりを設置し、その後は年1回の家庭訪問で経過を見守ってきました。今回の相談は、住宅改修の後に3年が経過した時点のものです。そのため、Aさんも妻も60代後半になっています。Aさんは65歳以上となって介護保険の第1号被保険者に移っており、世帯は夫婦ともに65歳以上の2人暮らし(高齢者世帯)です。介護の必要が増えれば高齢の妻がそれを担うことになり、いわゆる老老介護となることも念頭に置く必要があります。

年1回の訪問で見守れる程度に安定していた経過の中で、転倒の増加と食事中のむせの増加という新しい変化が家族から報告されています。通院治療を続けていても症状が進んでいることから、疾患そのものの進行による変化と考えられます。

脊髄小脳変性症の経過と今回の変化

脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が徐々に変性・脱落し、運動失調を主症状とする進行性の神経変性疾患の総称で、指定難病の対象です。初期には歩行時のふらつきが目立ちます(足を広げて体を揺らしながら歩く酩酊様歩行)。歩行障害に加えて、手足の協調運動障害、構音障害(断綴性言語)、眼振などがみられ、進行すると嚥下障害も現れます。病型によっては、起立性低血圧や排尿障害などの自律神経症状を伴います。

  • 転倒の増加:体幹と下肢の失調が進み、手すりなど現在の環境調整だけでは補えなくなってきたことを示します。骨折や頭部外傷の危険が高まります。
  • 食事中のむせ:嚥下障害の出現や進行を示します。誤嚥性肺炎や窒息の危険があり、食事量が減れば低栄養・脱水にもつながります。

どちらの変化も「生活の中でどの動作がどの程度できなくなったか」という形で表れます。その全体像をつかむための情報がADLです。

なぜADLの確認が最優先なのか

妻の「悪くなってきているようで不安」という訴えは主観的な表現です。保健師はまず、変化を具体的な事実として確かめます。たとえば次のような点です。

  • 移動・移乗:どこで、どの動作のときに転ぶのか(立ち上がり、方向転換、夜間のトイレ移動など)。手すりのない場所で転んでいないか。けがはないか。
  • 排泄・入浴・更衣・整容:一人で行えているか。介助や見守りが必要になっていないか。
  • 食事:食事中の姿勢、どのような物(水分など)でむせるか、食事にかかる時間、食事量や体重の変化。あわせて、発熱や痰の増加がないかも確認します。

ADLの状況が分かれば、転倒と誤嚥の危険度を評価し、次のような支援につなげられます。

  • 主治医への報告と、言語聴覚士などによる嚥下機能評価の依頼
  • リハビリテーションの導入
  • 手すり以外の福祉用具や住環境の再検討
  • 要介護認定の区分変更申請の検討

ケアプランを担当する地域包括支援センター(要介護となれば居宅介護支援事業所の介護支援専門員)との情報共有も必要です。また、Aさんにどの程度の介助が必要かが分かって初めて、妻に求められる介護の量と負担も具体的に見積もれます。妻の不安を受け止めることも大切ですが、不安の源はAさんの状態の変化です。変化の実態を確かめて必要な支援につなげることが、妻の不安を和らげることにもつながります。

本人の状態の変化についての相談では、情報収集は「本人の安全と生活機能」→「それを支える家族の介護力」→「経済状況や利用できる制度」の順に広げていくのが基本です。

難病保健活動の視点

難病療養者と家族への訪問相談や、医療・介護・福祉の関係者と連携した支援体制づくりは、保健所をはじめとする保健師の重要な活動です。難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)には、指定難病の医療費助成(特定医療費)のほか、関係機関が地域の支援体制を協議する難病対策地域協議会(設置は努力義務)などが定められています。進行性の難病では、症状が変化した時点が支援体制を見直す重要な機会です。定期訪問の周期にこだわらず、家族から相談を受けた時点で状態を評価し直し、必要であれば訪問の頻度を上げることが求められます。

選択肢の確認

1.妻の健康状態:妻はAさんと2人で暮らす主な支援者です(冒頭では63歳、3年以上たった相談時点では60代後半)。そのため、その健康状態は、介護を続けられるかを判断するうえで欠かせない情報です。相談時点では夫婦ともに65歳以上の世帯になっており、妻の介護力には限りがあることも念頭に置きます。ただし今回の相談は夫の病状の悪化についての内容で、妻自身の体調不良の訴えはありません。また、Aさんにどの程度の介助が必要かが分からなければ、妻の介護負担も評価できません。そのため、Aさんの状態を確認した後に続けて把握します。妻が自身の体調悪化や介護疲れを訴えている場合には、優先度が上がります。

2.AさんのADL:正答。転倒の増加もむせの増加も、日常生活動作の変化として表れます。移動・移乗・排泄・入浴・食事などの自立度を具体的に確かめれば、転倒と誤嚥の危険度を評価できます。そのうえで、主治医やリハビリテーション職との連携、介護サービスの見直しや区分変更の必要性を判断できます。

3.Aさんの世帯の経済状況:経済状況は、指定難病の医療費助成(特定医療費)や、介護保険サービスの利用者負担を検討するときに必要な情報です。特定医療費では、所得に応じて自己負担上限額が決まります。しかし、どのような支援がどれだけ必要かはADLの評価によって決まるため、それを踏まえた後で確認する事柄です。現時点では、経済的な困窮をうかがわせる情報も示されていません。費用を理由にサービスの利用をためらっている様子があれば、確認の優先度が上がります。

4.Aさんの最近の食事内容:食事内容は食形態の工夫や栄養状態を考えるときに役立つ情報です。しかし、何を食べているかが分かっても、嚥下機能がどの程度低下しているかや、転倒の危険は評価できません。むせと関係があるように見えるため、迷いやすい選択肢です。今回のむせは、疾患の進行による嚥下機能の低下が背景にあると考えられます。食事中の姿勢や動作、どのような場面でむせるかの確認は、ADLの「食事」の評価に含まれます。とろみ付けなどの食形態の調整は、嚥下機能を評価した後に検討する事柄です。

覚えるポイント

  • 進行性の難病で家族から悪化の相談を受けたら、まず本人のADLの変化(どの動作が、いつから、どの程度難しくなったか)を具体的に確認します。
  • 脊髄小脳変性症の主症状は運動失調(ふらつき、酩酊様歩行)です。構音障害や眼振を伴い、進行すると嚥下障害が加わります。在宅療養では転倒と誤嚥性肺炎が大きな危険です。
  • 情報収集の優先順位は、本人の安全と生活機能 → 家族の介護力 → 経済状況や制度、の順が基本です。介護者自身の不調や介護疲れが訴えられている場合は、介護者の状況を確認する優先度が上がります。
  • 状況設定問題では「3年が経過した」などの時間経過を読み落とさないようにします。相談時点の年齢や世帯の状況(夫婦ともに65歳以上の世帯、老老介護など)で考えます。
  • ADLは食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動などの基本動作です。IADL(手段的日常生活動作)は、買い物・調理・服薬管理・金銭管理など、より複雑な生活動作です。
  • 脊髄小脳変性症は介護保険の特定疾病で、40〜64歳の第2号被保険者でも要介護・要支援認定の対象になります。ADLが大きく変化したら、区分変更申請、福祉用具や住宅改修の見直し、主治医やリハビリテーション職との連携を検討します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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