第108回
108AM046|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み44〜46の問いに答えよ。Aさん(35歳、会社員、初産婦)は妊娠8週で母子健康手帳の交付を受けるために市役所を訪れた。地区担当保健師が面接したところ、Aさんは5年前にうつ病で通院していたが、その後症状が軽快し、現在は通院していないことがわかった。Aさんは「実家から引っ越してきたばかりで近所に知り合いがいないため不安です。夫は仕事が忙しく、家事や育児への協力は期待できません」と話した。AさんはBちゃんを36週に2,400 gで出産した。Aさんは産後5日で退院し、Bちゃんは黄疸が強かったため光線療法が行われ、生後10日で退院した。産後25日に地区担当保健師が家庭訪問した。Bちゃんは身長47.0 cm、体重2,600 gであった。Aさんのエジンバラ産後うつ病質問紙票〈EPDS〉の得点は3点であった。Aさんは「母乳が出ているか心配です」と話した。キッチンに洗っていない食器が置かれたままだった。保健師の対応の優先度を判断する上で最も必要な情報はどれか。
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正解3
正答
3.Bちゃんの体重増加量
この問題のポイント
産後25日の家庭訪問で、気がかりな情報がいくつもある中から「まず何を確かめれば対応の緊急度が決まるか」を問う問題です。手がかりは3つあります。児が在胎36週・出生体重2,400 gで光線療法を受けていること、母親が「母乳が出ているか心配」と訴えていること、EPDSが3点と低いことです。児の栄養状態は生命と健康に直結し、体重という客観的な数値で評価できます。そのため、体重増加量が優先度を決める鍵になります。
解説
事例の整理
- Aさんは35歳の初産婦です。5年前にうつ病の治療歴がありますが、現在は通院していません。転居したばかりで近隣に知人がおらず、夫の協力も期待しにくい状況です。これらは妊娠届出時の面接で把握されています。
- Bちゃんは在胎36週、出生体重2,400 gで、早産児かつ低出生体重児です。黄疸が強く光線療法を受け、母親より遅れて生後10日で退院しました。
- 訪問時(産後25日)の状況は次のとおりです。児は身長47.0 cm、体重2,600 gでした。AさんのEPDSは3点です。Aさんは「母乳が出ているか心配」と話し、キッチンには洗っていない食器が残っていました。
児のリスクを考える
在胎34週0日〜36週6日で生まれた児は後期早産児(late preterm児)と呼ばれます。見た目は正期産児に近くても、哺乳力が弱い、授乳中に眠ってしまいやすいといった特徴があり、哺乳量が不足しがちです。低血糖や黄疸も起こしやすい時期です。哺乳量が不足するとビリルビンの排泄が遅れ、高ビリルビン血症が強まりやすくなります。Bちゃんが光線療法を必要としたことは、栄養・哺乳の面でリスクが高い児であることを示す情報でもあります。
新生児の体重は、出生後いったん出生体重の10%未満の範囲で減ります(生理的体重減少)。通常は生後1〜2週間ほどで出生体重に戻り、その後は1日25〜30 g前後を目安に増えていきます。Bちゃんは出生から25日で200 gしか増えておらず、単純に割ると1日約8 gです。生理的体重減少から回復するまでの日数を差し引いても、目安に届いていない可能性があります。
なぜ体重増加量が「最も必要な情報」か
Aさんの訴えは「母乳が出ているか」ですが、母乳が足りているかどうかは、乳房の張りや母親の感覚では判断できません。退院時の体重と訪問時の体重を比べ、1日あたりの増加量を出して初めて客観的に評価できます。退院時の体重は、母子健康手帳の記録や医療機関からの情報で確認します。
- 増加が十分な場合:授乳を続けながら、母親の不安に寄り添う支援が中心になります。
- 増加が不十分な場合:脱水や哺乳不良がないかを確認します。そのうえで、授乳の回数や方法の見直し、人工乳の補足、小児科や出産した施設への早期受診の調整など、緊急度の高い対応が必要になります。
つまり、この1つの情報によって対応の優先度そのものが決まります。
母親側の情報の位置づけ
Aさんには、うつ病の既往、高年初産、社会的孤立といった産後うつのリスク因子があります。しかし日本版EPDSでは、9点以上(区分点8/9点)で産後うつ病の可能性を考えるとされており、3点は区分点を大きく下回ります。洗っていない食器も、新生児の世話で手が回らない時期にはよくみられる光景です。それだけで生活の破綻や抑うつを示す根拠にはなりません。
とはいえ、これらは継続支援を計画するうえで欠かせない情報です。授乳や育児の負担が重なれば、抑うつが表に出てくることもあります。そのため、今後も見守りを続ける必要があります。ただし「いま何を最優先に対応するか」を決めるうえでは、児の生命と健康に直結する客観的な情報が先になります。
なお、出生体重2,500 g未満の児は、母子保健法に基づき保護者が市町村へ届け出る対象です(低体重児の届出)。市町村はこの届出などをきっかけに、訪問指導を通じて早い時期から支援につなげます。地域の母子保健活動では、母親の訴えを入り口にし、それを客観的な指標で確かめ、児と母の双方のリスクを並べて緊急度を判断する視点が求められます。
選択肢の確認
1.家族の支援体制:夫の協力が期待できず近隣に知人もいないことは、妊娠届出時の面接ですでに把握されています。支援体制は、育児負担を軽くする方法や社会資源の導入を考えるうえで重要な情報です。しかし、この情報がそろっても、児の栄養状態に問題があるかどうか、今すぐ受診の調整が必要かどうかは判断できません。継続支援を計画する段階で詳しく確認すべき情報です。
2.Aさんの抑うつの程度:うつ病の既往は産後うつのリスク因子であり、軽く見ることはできません。ただし訪問時のEPDSは3点で、日本版の区分点(9点以上)を大きく下回っています。現時点で抑うつへの対応を最優先にする根拠は乏しい状況です。EPDSが高得点の場合や、自傷に関する項目に該当がある場合であれば、精神科受診の調整などを優先することになります。
3.Bちゃんの体重増加量:正答。Bちゃんは在胎36週・出生体重2,400 gで光線療法を受けており、哺乳不良のリスクが高い児です。出生から25日で200 gの増加(1日約8 g)にとどまっています。退院時の体重と比べて1日あたりの増え方を確認すれば、母乳が足りているかを客観的に評価できます。その結果によって、授乳指導を続ければよいのか、補足や受診の調整を急ぐ必要があるのかが決まります。したがって、優先度を判断するうえで最も必要な情報です。
4.Aさんの家事の遂行状況:洗っていない食器が置かれていることは、新生児期の育児で家事まで手が回らない家庭ではよくみられることです。それだけでは、生活の破綻や抑うつの徴候とはいえません。セルフケアや家事の状況は、母親の疲労や精神状態を推測する補助的な情報として把握しておきます。しかし、EPDSが低得点である現時点では、対応の緊急度を決める情報にはなりません。
覚えるポイント
- 「母乳が足りているか」は、母親の感覚ではなく、児の1日あたりの体重増加量で客観的に評価します。生後早期の目安は1日25〜30 g前後です。
- 生理的体重減少は出生体重の10%未満で、通常は生後1〜2週間ほどで出生体重に戻ります。評価には退院時の体重との比較が役立ちます。
- 在胎34週0日〜36週6日の後期早産児は、哺乳不良・黄疸・低血糖を起こしやすいため、退院後の体重の推移を必ず確認します。
- 日本版EPDSは9点以上(区分点8/9点)で産後うつ病を疑います。既往歴や孤立などのリスク因子がある場合は、低得点でも継続して見守ります。
- 優先度の判断では、生命と健康に直結し、客観的に評価できる情報を先に確かめます。家族の調整や生活支援は、その次の段階で組み立てます。
- 出生体重2,500 g未満の児は、母子保健法に基づき、保護者が市町村へ低体重児の届出を行います。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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