第108回

108AM045|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。Aさん(35歳、会社員、初産婦)は妊娠8週で母子健康手帳の交付を受けるために市役所を訪れた。地区担当保健師が面接したところ、Aさんは5年前にうつ病で通院していたが、その後症状が軽快し、現在は通院していないことがわかった。Aさんは「実家から引っ越してきたばかりで近所に知り合いがいないため不安です。夫は仕事が忙しく、家事や育児への協力は期待できません」と話した。妊娠10週にAさんから地区担当保健師に電話があり、「産科の先生や助産師さんには次の健診で相談してみようと思いますが、残業があり、仕事中の休憩や休暇も取りにくく、つわりもあるので仕事が負担になってきました。何か使える制度はないでしょうか」と相談があった。現時点でAさんが会社に制度の利用を請求した場合、法律に基づき会社が対応する必要があるのはどれか。

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正解1

正答

1.時間外勤務をなくす。

この問題のポイント

働く妊婦が会社に請求したときに、会社が法律上必ず応じなければならない母性保護の内容を問う問題です。手がかりは「残業があり」「現時点で」「会社に制度の利用を請求した場合」という言葉です。労働基準法の請求による保護と、男女雇用機会均等法の母性健康管理措置の違いを区別できるかが鍵になります。均等法の措置では、医師等の指導が前提になっているかどうかと、健診時間の回数基準がよく問われます。

解説

事例の整理

Aさんは35歳の初産婦で、会社員として働いています。相談時点は妊娠10週です。困りごとは、残業があること、休憩や休暇が取りにくいこと、つわりがあることの3つです。産科医や助産師にはまだ相談しておらず、「次の健診で相談してみよう」と考えている段階です。つまり現時点では医師等からの指導事項は出ていません。設問は、「現時点で」「本人が請求した場合」に「法律に基づき」会社が対応すべきものを問うています。

働く妊婦を守る2つの法律

労働基準法には、妊産婦(妊娠中の女性と産後1年を経過しない女性)を保護する規定があります。その中心は、本人が請求すれば、医師の診断書や指導がなくても会社が応じなければならない保護です。

  • 妊産婦が請求したときは、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはなりません。変形労働時間制の場合でも、1日・1週の法定労働時間を超えて働かせることはできません(第66条)。
  • 妊娠中の女性が請求したときは、他の軽易な業務に転換させなければなりません(第65条第3項)。
  • 出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)からは、請求により産前休業を取得できます。産後8週間は、請求の有無にかかわらず原則として就業させてはなりません。ただし、産後6週間を経過した女性が請求し、医師が支障がないと認めた業務には就かせることができます(第65条第1項・第2項)。
  • このほか、妊産婦等の危険有害業務への就業制限や、生後1年未満の子を育てる女性の育児時間(1日2回、各30分以上)も定められています。

男女雇用機会均等法は、事業主に母性健康管理の措置を義務づけています。

  • 保健指導・健康診査を受けるための時間の確保(第12条):妊娠23週までは4週間に1回、24〜35週は2週間に1回、36週以降出産までは1週間に1回です。この回数は、標準的な妊婦健康診査の受診間隔と同じです。医師等がこれと異なる指示をした場合は、その回数によります。産後1年以内も、医師等の指示があれば時間を確保します。
  • 指導事項を守るための措置(第13条):通勤緩和(時差通勤など)、休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩回数の増加など)、症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休業など)があります。これらは医師等から指導を受けた旨の申出があった場合に講じるものです。指導内容を会社に正確に伝える手段として、母性健康管理指導事項連絡カードが用意されています。

正答に至る判断

Aさんが挙げた負担のうち、残業は労働基準法で対応できます。妊産婦が請求すれば、会社は時間外労働をさせることができません。医師等の指導を待たずに、現時点の請求だけで会社が法的に対応しなければならないのは選択肢1です。

ほかの選択肢は、いずれも設問の条件に当てはまりません。休憩回数の増加は医師等の指導を前提とする措置であり、まだ指導を受けていない現時点では該当しません。健診時間の確保は、妊娠10週では4週間に1回が基準です。健診費用の助成は市町村の事業です。

なお、労働基準法上の管理監督者に当たる人には、時間外・休日労働の制限は適用されません。ただし、深夜業の制限は請求できます。事例のAさんにはそうした事情が示されていないため、一般の労働者として判断します。

保健師の支援としての意味

保健師は、請求だけで使える制度(時間外・休日・深夜業の制限、軽易業務への転換)を具体的に伝えます。あわせて、次の健診でつわりや仕事の負担を医師・助産師に相談するよう勧めます。医師等に母性健康管理指導事項連絡カードを記入してもらい、会社に提出すれば、休憩や勤務時間の短縮などの措置につながることも説明します。

会社が応じない場合の相談先は、根拠となる法律によって異なります。

  • 労働基準法の母性保護(時間外・休日・深夜業の制限、軽易業務への転換、産前産後休業など)が守られない場合は、労働基準監督署に相談します。
  • 男女雇用機会均等法の母性健康管理措置(健診時間の確保、指導事項を守るための措置)が守られない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が窓口です。妊娠・出産等を理由とする解雇などの不利益取扱いや、ハラスメントも同じ窓口で扱います。
  • 時間外労働の制限などを請求したことを理由とする不利益取扱いも、均等法で禁止されています。

Aさんには、うつ病の既往、転居による孤立、夫の協力が得にくいという背景もあります。妊娠期から継続して支援すべき対象であり、仕事の負担を減らすことはメンタルヘルスの面でも重要です。

選択肢の確認

1.時間外勤務をなくす。:正答。労働基準法第66条は、妊産婦が請求した場合、使用者は時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならないと定めています。医師の指導や診断書は要件ではなく、本人が請求すれば会社は応じる義務を負います。Aさんの「残業があり」という訴えに直接対応でき、「現時点で請求した場合」という条件にも合っています。

2.休憩時間の回数を増やす。:休憩回数の増加は、男女雇用機会均等法に基づく措置の一つで、事業主が医師等の指導事項を守れるように講じるものです。この措置は、医師等から指導を受けた旨の申出があった場合に講じることになっています。Aさんは次の健診で相談しようとしている段階で、まだ指導を受けていません。そのため、現時点の請求だけでは、会社に回数を増やす法的義務は生じません。労働基準法の休憩の規定は全労働者に共通のもので、妊婦が請求すれば回数が増えるという定めはありません。生後1年未満の子を育てる女性が請求できる育児時間とも混同しないよう注意が必要です。

3.妊産婦健康診査の費用を助成する。:妊婦健康診査は母子保健法に基づいて市町村が行うもので、費用は受診券などにより公費で助成されます。標準的な受診回数は14回程度とされ、その費用が公費負担の対象です。助成するのは市町村であり、事業主に費用の助成を義務づける法律はありません。会社の義務は、健診を受けるための時間を確保することです。

4.勤務時間中に2週間に1回の妊婦健康診査の時間を確保する。:男女雇用機会均等法で事業主が確保すべき健診時間は、妊娠23週までは4週間に1回です。妊娠10週のAさんについて、会社に2週間に1回の時間確保が義務づけられることはありません。2週間に1回は妊娠24〜35週の基準で、36週以降は1週間に1回になります。医師等が別の回数を指示した場合はその回数によりますが、現時点ではそうした指示も出ていません。健診時間の確保そのものは会社の義務なので、妊娠週数に応じた回数まで確認することが求められています。

覚えるポイント

  • 労働基準法の母性保護のうち、時間外・休日・深夜業の制限、軽易業務への転換、産前休業は、本人の請求だけで会社に義務が生じます。医師の指導や診断書は要件ではありません。
  • 産前休業は、請求により出産予定日の6週間前(多胎は14週間前)から取得できます。産後8週間は原則就業禁止です。6週経過後に本人が請求した場合は、医師が支障がないと認めた業務に限り就業できます。
  • 均等法の健診時間の確保は、23週まで4週に1回、24〜35週は2週に1回、36週以降は1週に1回です。医師等が異なる指示をすれば、その回数によります。
  • 休憩時間の延長・回数増加、通勤緩和、勤務時間の短縮、休業は、均等法に基づき、医師等の指導があったときに講じる措置です。指導内容は母性健康管理指導事項連絡カードで会社に伝えます。
  • 妊婦健診の費用助成は、母子保健法に基づく市町村の事業であり、事業主の義務ではありません。
  • 会社が守らないときの相談先は、労働基準法の母性保護なら労働基準監督署です。均等法の母性健康管理措置や、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い・ハラスメントなら、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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