111AM022|第111回 看護師国家試験 過去問

1回の気管内吸引を30秒以上実施した場合に生じるのはどれか。

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正解: 3

正答

3.低酸素血症

この問題のポイント

気管内吸引の合併症のうち、1回の吸引時間が長すぎることと直接結び付くものを問う問題です。吸引は分泌物と一緒に、酸素を含んだ気道内の空気も吸い出します。開放式ではその間の換気も途切れるため、時間が長いほど酸素化が低下します。合併症を「時間・吸引圧・挿入の深さ・清潔操作」という原因ごとに整理して覚えておくことが鍵です。

解説

問題文の条件は「1回の」「30秒以上」という時間の長さです。気管内吸引には多くの合併症がありますが、この問題では時間の超過によって起こるものを選ぶ必要があります。

吸引中に体内で起きていること

  • 吸引カテーテルに陰圧をかけると、分泌物だけでなく気管・気管支内の空気も吸い出されます。つまり、酸素を含むガスが肺から除かれます。
  • 人工呼吸器を外して行う開放式吸引では、吸引している間は換気と酸素投与が中断します。人工呼吸器で維持していたPEEP(呼気終末陽圧)も失われます。
  • 陰圧によって末梢の肺胞が虚脱し、肺の容量(機能的残気量)が減ります。虚脱した範囲が広がると無気肺になります。

これらはいずれも、吸引している時間が長いほど進みます。そのため1回の吸引が長引くほど動脈血酸素分圧(PaO2)とSpO2が低下し、低酸素血症に陥ります。低酸素は心臓にも負担をかけ、頻脈・徐脈・不整脈や血圧変動を招きます。重篤な場合は心停止に至ることもあります。

吸引の基準

日本呼吸療法医学会の気管吸引ガイドライン(2013年版、成人で人工気道を有する患者が対象)では、次のように示されています。

  • 1回の吸引時間は10秒以内とし、カテーテル挿入開始から終了までも15秒以内とします。
  • 吸引圧は最大で**20kPa(約150mmHg)**とします。
  • カテーテルは、外径が人工気道の内径の1/2以下のものを選びます。
  • カテーテルの先端は、気管分岐部に当たらない深さまで挿入します。

問題文の「30秒以上」は、この基準を大きく超えています。

実践での予防と観察

  • 吸引は定期的に行うのではなく、必要なときに行います。必要性は次のような所見から判断します。
    痰の貯留を示す副雑音(いびき音など)の聴取、目に見える分泌物、人工呼吸器の気道内圧の上昇や換気量の低下、SpO2の低下などです。
  • 酸素化の低下が予測される患者には、吸引の前後に吸入酸素濃度を上げて酸素化を図ります。
  • パルスオキシメータと心電図モニターでSpO2・心拍数を観察しながら実施し、低下したら中止して酸素化します。SpO2の表示は実際の酸素化の変化より遅れることがあります。そのため数値だけに頼らず、時間の基準を守ります。
  • 1回で取り切れないときは、SpO2の回復を待ってから再度行います。
  • 閉鎖式吸引は人工呼吸器を外さずに吸引できるため、換気やPEEPが途切れにくい方法です。酸素化の低下や周囲の汚染を抑えやすくなります。ただし、閉鎖式でも時間の基準は同じように守ります。

ほかの合併症とその主な原因

  • 気道粘膜の損傷・出血:吸引圧が高すぎる、挿入が深すぎる、乱暴な操作、頻回の吸引
  • 迷走神経反射:気管や咽頭への刺激による徐脈・血圧低下
  • 嘔吐・誤嚥:咽頭反射や咳嗽反射の誘発、食直後の吸引
  • 感染:無菌操作の不備、カテーテルの不適切な取り扱い
  • 無気肺:陰圧による肺胞の虚脱。過大な吸引圧、人工気道の内径に対して太すぎるカテーテル、長時間の吸引で進みます(吸引時間の超過とも関係します)
  • その他:気管支攣縮、頭蓋内圧の上昇など

選択肢に挙がっている嘔吐・感染・気道粘膜の損傷は、時間の長さが主な原因ではありません。主な原因は、それぞれ刺激、清潔操作、圧・深さ・操作です。無気肺のように吸引時間とも関係する合併症はあります。しかし選択肢の中で、吸引時間の超過と最も直接的に結び付き、短時間のうちに生じるのは低酸素血症です。

選択肢の確認

1.嘔吐:咽頭や気管への機械的な刺激が、咽頭反射や咳嗽反射を誘発して起こります。起こりやすさを主に左右するのは、刺激の部位と強さ、実施のタイミングです。口腔・鼻腔からの吸引でカテーテルが咽頭後壁に触れた場合や、食事の直後に吸引した場合に起こりやすくなります。吐物を誤嚥すると誤嚥性肺炎につながるため、食直後の吸引は避けます。吸引時間の超過と直接結び付く合併症ではありません。

2.感染:清潔操作の不備によって病原体が下気道へ持ち込まれることで生じ、実施時間の長さが原因ではありません。気管内吸引は無菌操作で行い、滅菌カテーテルの気道に入る部分を不潔にしないよう扱います。口腔・鼻腔を吸引したカテーテルを、そのまま気管内に入れないことも原則です。人工呼吸器装着中の患者では、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防の観点からも重要です。

3.低酸素血症:正答。陰圧によって酸素を含んだ気道内の空気が吸い出され、肺胞も虚脱します。開放式では、さらに換気の中断とPEEPの消失が加わります。これらは吸引時間が長いほど強まるため、30秒以上の吸引ではPaO2・SpO2が大きく低下します。1回10秒以内(挿入から終了まで15秒以内)を守り、SpO2と心拍数を監視しながら行います。

4.気道粘膜の損傷:過大な吸引圧や深すぎる挿入によって起こります。カテーテル先端を気管分岐部や気管壁に繰り返し当てる、乱暴に出し入れする、といった操作も原因になります。血性の分泌物として現れ、繰り返すと浮腫や肉芽形成の原因にもなります。予防の要点は3つです。吸引圧を20kPa(約150mmHg)以下にすること、気管分岐部に当たらない深さにとどめること、必要時に限って行うことです。時間の超過よりも、圧・深さ・操作の問題として問われる合併症です。

覚えるポイント

  • 気管内吸引の1回の吸引時間は10秒以内、挿入開始から終了までも15秒以内です。長引くほど低酸素血症が進みます。
  • 吸引圧は20kPa(約150mmHg)以下にします。カテーテルは人工気道内径の1/2以下の外径のものを使い、先端は気管分岐部に当たらない深さまでにします。
  • 合併症は原因と対にして覚えます。時間の超過なら低酸素血症、圧・深さ・乱暴な操作なら粘膜損傷・出血、咽頭刺激なら嘔吐です。無菌操作の不備なら感染、迷走神経刺激なら徐脈・血圧低下です。
  • 無気肺は陰圧による肺胞の虚脱で起こります。過大な吸引圧、太すぎるカテーテル、長時間の吸引のいずれでも進みます。
  • 吸引は必要時に行い、前後の酸素化とSpO2・心拍数のモニタリングを組み合わせます。低下したら中止して酸素化を優先します。
  • 閉鎖式吸引は換気とPEEPを保ちやすく、酸素化の低下や汚染を抑えやすい方法です。

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