111AM037|第111回 看護師国家試験 過去問
上肢のフィジカルアセスメントの立位での実施場面の写真(別冊No. 1)を別に示す。手のひらを上にして、肩の高さで水平に前方に両腕を伸ばしてもらった。その後、閉眼してもらうと、左腕が回内しながら下がっていった。アセスメントの結果で正しいのはどれか。

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正解: 2
正答
2.錐体路の障害
この問題のポイント
手のひらを上に向けて両腕を前に水平に上げ、そのまま目を閉じて保持してもらうのは、上肢のバレー〈Barré〉徴候をみる検査です。「目を閉じると片側の腕が回内しながら下がる」という所見を、軽い運動麻痺、つまり錐体路(皮質脊髄路)の障害と読み取れるかが問われています。同じく閉眼で行うロンベルグ試験(深部感覚の評価)や、小脳機能の検査と混同しないことが鍵です。
解説
写真は被検者を正面から写しているので、向かって右側が被検者の左腕です。左の「開眼時」では、両腕とも肩の高さで前に伸び、手のひらを上に向けたまま左右同じ高さに保たれています。右の「閉眼時」では、右腕は開眼時と同じ姿勢のままです。一方、左腕は体の横で腰の高さ付近まで下がっています。そばには下向きの太い矢印と手首付近の回転を示す矢印があり、「回内しながら下がる」と添えられています。回内とは前腕を内側にひねって手のひらを下に向ける動きで、回外はその反対に手のひらを上に向ける動きです。開眼時には左右差がなく、目を閉じたときにだけ片側の腕が回内しながら下がった、という変化が判断の手がかりです。
この検査は上肢のバレー徴候(英語ではpronator driftとも呼ばれます)をみるもので、軽い片麻痺を見つけるために行います。錐体路は随意運動の経路です。大脳皮質の運動野(中心前回)から内包、中脳の大脳脚、橋を通って延髄の錐体に至ります。延髄下部の錐体交叉で大部分の線維が反対側へ移り、脊髄の側索を下って脊髄前角細胞に達します。錐体路が障害されたときの筋力低下には、上肢では伸筋や回外筋に強く現れ、屈筋や回内筋は比較的保たれやすいという特徴があります。そのため手のひらを上に向けた回外位を保てなくなり、前腕が回内しながら腕全体が下がっていきます。肘や手指が軽く曲がってくることもあります。
手のひらを上に向けてもらうのは、回外位を保たせることで回内への変化を見やすくするためです。また、目を開けていると、わずかな筋力低下があっても腕の位置を目で確かめて無意識に補正できてしまいます。目を閉じて視覚による補正をなくすと、徒手筋力テストでは左右差がはっきりしない程度の軽い麻痺でも、回内・下降として表に出てきます。本問で開眼時には異常がなく、閉眼後に初めて左腕が下がったのはこの仕組みによるものです。したがって、アセスメントは錐体路の障害となります。
錐体路は錐体交叉で反対側に移ります。そのため、錐体交叉より上(大脳や脳幹)の病変では、病変と反対側に麻痺が出ます(脊髄の病変では同じ側に出ます)。本問の左腕の所見は、脳の病変であれば右側の錐体路障害、たとえば右大脳半球の脳梗塞や脳出血を疑わせます。錐体路障害(上位運動ニューロン障害)ではほかに、次の所見がみられます。
- 腱反射の亢進
- バビンスキー反射などの病的反射(足底の外側をこすると母趾が背屈する反射で、乳幼児期には正常でもみられます)
- 痙性の麻痺(脳卒中の急性期には弛緩性のこともあります)
慢性期の片麻痺でみられるウェルニッケ・マン肢位では、上肢が屈曲・回内位をとります。上肢の屈筋・回内筋が優位になる点で、この検査の所見と共通しています。
臨床では、脳卒中が疑われる人の初期評価に使います。脳血管障害で入院している患者の神経症状を継続して観察し、麻痺の出現や悪化を早く見つける目的でも用います。市民向けの脳卒中の見分け方「FAST」(Face・Arm・Speech・Time)の「Arm」も、両腕を上げてもらい片方が下がるかをみるもので、同じ考え方です。陽性であれば、意識レベル、瞳孔、顔面の左右差、構音障害や失語、下肢の麻痺、バイタルサインをあわせて確認します。発症時刻(最後に普段どおりだった時刻)は血栓溶解療法などの治療の適応判断に直結するため、確認してすぐに医師へ報告します。本問のように立って目を閉じてもらう場合は、ふらつきや転倒に備えて看護師がすぐ支えられる位置に立ちます。立位が不安定な人では座位で行います。
選択肢の確認
1.位置覚の異常:位置覚は、目で見なくても手足の位置や関節の角度がわかる深部感覚の一つで、脊髄後索を上行して伝わります。位置覚が障害されると、閉眼時に伸ばした腕が方向の定まらない揺れ方をしたり、指がゆっくりくねるように動いたり(偽性アテトーゼ)することがあります。しかし、片側の腕が回内という一定の方向にねじれながら下がるのは錐体路性の筋力低下に典型的なパターンで、位置覚の障害を示す所見ではありません。位置覚は、目を閉じてもらい、検者が動かした指の向き(上か下か)を答えてもらう関節位置覚の検査や、ロンベルグ試験で評価します。「閉眼で行うから感覚の検査」と早合点すると選んでしまう選択肢です。
2.錐体路の障害:正答。手のひらを上にして前に水平に上げた腕が、閉眼後に回内しながら下がるのは上肢のバレー徴候陽性の所見です。錐体路(皮質脊髄路)が損なわれたことによる軽い運動麻痺を示します。錐体路性の筋力低下は上肢の伸筋・回外筋に強く出るため、回外位を保てずに前腕が回内し、腕が下がります。所見は左腕に出ているので、脳の病変であれば右側の錐体路障害を考えます。
3.小脳機能の異常:小脳は運動の方向・距離・タイミングを調整する協調運動の中枢で、障害されると筋力は保たれていても運動失調が起こります。評価には、指鼻試験(測定障害や企図振戦をみる)、膝踵試験、手の回内・回外をすばやく繰り返す検査(反復拮抗運動障害をみる)、継ぎ足歩行などを用います。小脳性の失調は目を開けていても現れ、目を閉じても大きくは悪化しません(ロンベルグ徴候は陰性)。そのため、閉眼して初めて片側の腕が回内しながら下がるという本問の所見とは結びつきません。「回内」という言葉が出てくる反復拮抗運動の検査と取り違えないようにしましょう。
4.関節可動域の障害:関節可動域は関節が動く範囲のことで、拘縮や関節の病気、痛みなどで制限されます。制限があれば、目を開けていても腕を肩の高さまで上げたり手のひらを上に向けたりできないはずです。しかし写真の開眼時には、両腕とも肩関節を約90°屈曲し、前腕を回外した姿勢を左右差なく保てています。関節の動く範囲は目を閉じても変わらないため、閉眼後に初めて起こった下降は関節ではなく筋力の問題と判断できます。関節可動域は角度計(ゴニオメーター)で自動運動と他動運動の両方を測ります。他動では動くのに自動では動かせない場合は、関節そのものではなく麻痺や筋力低下を考えます。
覚えるポイント
- 上肢のバレー徴候は、手のひらを上に向けて両腕を前に水平に上げ、目を閉じて保持してもらう検査です。麻痺側が回内しながら下降すれば陽性で、錐体路障害による軽い麻痺を示します。
- 目を閉じてもらうのは視覚による補正をなくすため、手のひらを上に向けるのは回外位を保たせて回内への変化を見やすくするためです。
- 錐体路は延髄下部の錐体交叉で大部分が交差するため、脳の病変では反対側に麻痺が出ます(左腕が下がれば右側の病変を疑います)。
- 上位運動ニューロン障害の特徴は痙性麻痺・腱反射亢進・バビンスキー反射陽性です。下位運動ニューロン障害では弛緩性麻痺・腱反射低下〜消失・筋萎縮・線維束性収縮がみられます。
- ロンベルグ試験は、両足をそろえて立ち、目を閉じると動揺が強まれば陽性で、深部感覚障害(脊髄後索の障害など)を示します。小脳性運動失調は目を開けていても動揺するため陰性です。小脳機能は指鼻試験・膝踵試験・反復拮抗運動・継ぎ足歩行で評価します。
- 下肢の軽い麻痺は、下肢のバレー徴候(腹臥位で両膝を曲げて保持)やミンガッツィーニ徴候(背臥位で股関節・膝関節を約90°曲げて保持)で、麻痺側の下腿が下がるかをみます。
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