111AM110|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み109〜111の問いに答えよ。Aさん(68歳、男性、自営業)は、妻(73歳)と2人暮らし。Aさんの就寝時刻は21時で、入眠後90分以上が経過した睡眠中に、大声で叫び、腕や足を振り回し暴れる行動が繰り返しみられたが、昼寝では夜間のような行動はみられない。日中、台所で子どもが遊んでいると言い、妻が台所を確認しても誰もいないことが何度かあった。心配になった妻がAさんとともに病院を受診し、Lewy〈レビー〉小体型認知症 dementia with Lewy bodies と診断された。Aさんは定期的に精神科外来を受診することになった。受診6か月後、Aさんは足の筋肉がこわばり、動きが鈍くなった。また、幻視を訴える頻度が増え、感情のコントロールができず、妻に暴言や暴力を振るうことが多くなったため、精神科病院に入院となった。入院2日、Aさんは歩行時に床に子どもが寝転んでいると訴えて、子どもをよける動作で転びそうになった。また、突然、興奮して大声で怒り出すため、同室患者が苦情を訴えた。Aさんへの看護師の対応で適切なのはどれか。

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正解: 2

正答

2.歩行時は看護師と一緒に歩くように声をかける。

この問題のポイント

Lewy〈レビー〉小体型認知症の患者が、床に子どもが寝転んでいるという幻視をよけようとして転びそうになった場面で、看護師がとるべき対応を問う問題です。判断の鍵は、受診6か月後に現れた「足の筋肉のこわばり」「動きが鈍い」というパーキンソニズムに、増えている幻視が重なり、転倒の危険が高まっていることです。同室患者の苦情や易怒性にも目が向きますが、まずAさんの身体の安全に直結する転倒予防を優先します。

解説

事例の整理

  • 68歳男性で、妻と2人暮らしです。
  • 入眠後90分以上たってから叫ぶ・暴れる行動がみられ、昼寝ではみられません。これはレム睡眠行動障害を示しています。
  • 「台所で子どもが遊んでいる」と訴えており、具体的で生々しい幻視があります。
  • 受診6か月後に、足の筋肉のこわばりと動作緩慢(筋固縮・無動=パーキンソニズム)が出現しました。幻視も増え、感情のコントロールができず妻に暴言・暴力を振るうようになっています。
  • 入院2日に、床の子どもをよけようとして転びそうになりました。突然興奮して怒り出すため、同室患者から苦情が出ています。

レビー小体型認知症の特徴

レビー小体型認知症は、α-シヌクレインを主成分とするレビー小体が大脳皮質や脳幹に広く出現する変性性の認知症です。国際的な診断基準(2017年改訂)では、中核的特徴として次の4つが挙げられています。

  • 認知機能の変動
  • 繰り返し出現する具体的な幻視
  • レム睡眠行動障害
  • パーキンソニズム

Aさんには、このうち幻視、レム睡眠行動障害、パーキンソニズムの3つがみられます(認知機能の変動は事例文には記載されていません)。支持的特徴には、抗精神病薬への過敏性、姿勢の不安定性、繰り返す転倒、失神、起立性低血圧などの自律神経症状があります。つまり、転倒しやすいこと自体がこの疾患の特徴の一部です。

通常、レム睡眠中は骨格筋の緊張が失われるため、夢を見ても体は動きません。レム睡眠行動障害では、この抑制が働かず、夢の内容に合わせて叫んだり手足を動かしたりします。入眠から最初のレム睡眠が現れるまでがおよそ90分であることが、「入眠後90分以上」「昼寝ではみられない」という記述の意味です。

転倒予防が最優先となる理由

Aさんには転倒につながる要因がいくつも重なっています。

  • 幻視:実在すると感じている子どもをよけようとして、急に進路を変えたり足を大きく上げたりします。
  • パーキンソニズム:筋固縮と無動で足が上がりにくくなります。さらに、崩れた体勢をとっさに立て直す姿勢反射も障害されやすくなります。
  • 自律神経症状:起立性低血圧が加わると、立ちくらみによる転倒も起こります。
  • 入院直後:病室・廊下・トイレの配置に慣れていません。

高齢者の転倒は、大腿骨近位部骨折や頭部外傷につながり、寝たきりや生命予後にも影響します。しかも実際に「転びそうになった」という出来事が起きており、今まさに対処が必要な危険です。同室患者の苦情も大切な問題ですが、生命・身体の安全に直結する転倒の危険を先に手当てするのが優先度判断の原則です。

看護師が一緒に歩くことの意味

看護師が付き添って歩けば、幻視が出ても、すぐそばで体を支えながら落ち着いて声をかけられます。「一緒に歩きましょう」という声かけは、行動を禁止したり体験を否定したりするものではなく、安心感を与える関わりです。あわせて、次のような環境調整も行います。

  • 照明を明るくし、影を減らします。
  • 床や壁の模様、壁に掛けた衣類など、見間違いを誘発しやすいものを減らします。
  • 動線上の障害物やコード類を取り除きます。
  • 滑りにくく履き慣れた履物を用意します。
  • 夜間はレム睡眠行動障害によるベッドからの転落にも備え、ベッドの高さや周囲の安全を整えます。

幻視・興奮への関わり方

幻視は、本人には実際に見えています。頭ごなしに否定しても見えなくなるわけではなく、「信じてもらえない」という不信感や怒りを生みやすくなります。一方で、話を合わせて幻視の内容を強めるのも避けます。「子どもが見えるのですね」と本人の体験と不安を受け止め、必要に応じて一緒に確認する、照明をつける、場所を変えるなどして安心を図ります。

感情のコントロール困難や暴言・暴力は、認知症の行動・心理症状(BPSD)としてとらえます。本人に自制を求めるのではなく、きっかけ(幻視による恐怖、痛みや便秘などの身体の不快、騒がしさ、周囲の関わり方など)を観察して取り除くのが基本です。

レビー小体型認知症では抗精神病薬に過敏で、パーキンソニズムの悪化や過鎮静が起こりやすく、転倒の危険をさらに高めます。興奮を薬で抑えることを急がず、非薬物的な対応を重ねることと、薬物療法中の副作用を観察することが看護の大切な役割です。同室患者には、看護師が苦情をよく聞き、可能な範囲で状況を説明して理解を求めます。そのうえでAさんの興奮の誘因を減らし、双方の療養環境を整えていきます。

選択肢の確認

1.Aさんに別の病室へ移動することを提案する。:入院2日目でまだ環境になじめていない時期にさらに病室を変えることは、認知症の人にとって混乱や不安を強める環境変化(リロケーションダメージ)になりやすく、幻視や興奮の悪化につながるおそれがあります。また、この場面で最も差し迫った危険である転倒は、転室では解決しません。まず興奮の誘因を探って減らし、同室患者にも説明と配慮を行います。それでも他患者の安全や療養が脅かされる場合に、チームで病室の調整を検討することはありえますが、最初にAさんへ提案する対応ではありません。

2.歩行時は看護師と一緒に歩くように声をかける。:正答。幻視をよけようとする動作に、筋固縮や無動、姿勢反射障害といったパーキンソニズムが重なり、Aさんは転倒・骨折の危険が非常に高い状態です。看護師が付き添えば、幻視が出ても体を支えて安全に誘導でき、否定せずに安心感を与える関わりにもなります。照明や障害物などの環境調整と組み合わせて行います。

3.怒りをコントロールできる方法を見つけるように伝える。:感情のコントロールができないのは、レビー小体型認知症による行動・心理症状として生じているもので、本人の努力不足によるものではありません。認知機能が低下した状態で自分に合った対処法を見つけて実行するのは難しく、うまくできないことで自尊心が傷つき、かえって興奮を強めるおそれがあります。自分の感情に気づいて対処法を身につける支援は、認知機能が保たれている人に向く方法です。Aさんの場合は、看護師が怒りのきっかけを観察して取り除き、穏やかで短い言葉で接するなど、周囲の関わりと環境を整えます。

4.床に子どもがいるように見えるのは幻視であることを説明する。:Aさんは床の子どもを実在すると感じて体をよけており、幻視だと説明しても見え方は変わりません。否定されたと受け取って不信感や怒りが強まるおそれがあります。また、転倒の危険という目の前の課題への対処にもなりません。レビー小体型認知症では、本人が幻視を「見えるが実際にはいない」と自覚している時期もあります。ただし、興奮しやすく転倒しかけた場面で一方的に説明するのは適切ではありません。否定も肯定もせずに不安を受け止め、一緒に確認する、照明を明るくするなどで安心を図ります。

覚えるポイント

  • レビー小体型認知症の中核的特徴は、認知機能の変動・具体的な幻視(人や小動物)・レム睡眠行動障害・パーキンソニズムの4つです。抗精神病薬への過敏性、起立性低血圧などの自律神経症状、繰り返す転倒もよくみられます。
  • レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に筋緊張が失われず、夢の内容どおりに叫ぶ・暴れる状態です。入眠後およそ90分以降に起こり、認知症症状に先行することが多いのが特徴です。
  • 幻視とパーキンソニズムが重なると転倒の危険が高まります。付き添い歩行、明るい照明、模様や障害物の除去、夜間の転落対策で安全を確保します。
  • 幻視には否定も肯定もせず、本人の不安を受け止め、一緒に確認するなどして安心を図ります。易怒性や暴言はBPSDとしてとらえ、本人に自制を求めず、誘因を探して除きます。
  • 優先度判断では、同室者の苦情や易怒性よりも、本人の生命・身体の安全(転倒)を先に対応します。環境の急な変化(転室)は混乱を強めやすいことも押さえます。
  • 他の認知症との鑑別点も押さえます。アルツハイマー型は記憶障害が中心で物盗られ妄想が出やすく、前頭側頭型は人格変化・脱抑制・常同行動、血管性は階段状の悪化とまだら認知症が特徴です。

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