111AM118|第111回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み118〜120の問いに答えよ。Aさん(28歳、女性、外国籍)は3年前に日本人の夫と結婚し来日した。簡単な日本語を話せたため、来日した半年後からコンビニエンスストアでアルバイトを始めた。最近になり、夫は仕事で帰りが遅くなることが多くなった。Aさんが「お客さんが自分の悪口を言っている」と話したが、夫は気にしなかった。その後、アルバイト先の上司から「Aさんが奇声を発している」「ぶつぶつと独り言を言って歩き回っている」と夫に連絡があった。夫が病院に付添い精神科外来を受診し、統合失調症 schizophrenia と診断されて入院となった。入院時、Aさんの髪は乱れ、誰かに見張られている気がすると怯えていた。入院当日に看護師が行う情報収集で最も優先するのはどれか。
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正解: 1
正答
1.症状が日常生活に与える影響
この問題のポイント
統合失調症の急性期に入院した当日、看護師が最初に何を把握すべきかを問う問題です。Aさんは被害的な体験に怯え、独語や奇声、髪の乱れがみられます。ここから、症状によって食事・睡眠・清潔・安全などのセルフケアが損なわれている可能性が読み取れます。急性期は生命と安全、基本的な生活の維持を最優先とし、背景情報は状態が落ち着いてから集めるという優先順位の考え方が鍵です。
解説
事例から読み取れること
- 28歳女性、外国籍、来日3年で、簡単な日本語は話せます。夫の帰宅が遅く、孤立しやすい環境にあった可能性があります。
- 「お客さんが自分の悪口を言っている」は、幻聴または被害妄想が疑われる訴えです。
- 奇声、ぶつぶつと独り言を言う(独語)、歩き回るといった様子からは、幻聴への反応、精神運動興奮、まとまりのない行動が考えられます。
- 入院時の髪の乱れは、整容ができていないことを示し、セルフケアが低下しているサインです。
- 「誰かに見張られている気がする」という怯えは注察妄想であり、強い不安と恐怖の中にいることがわかります。
これらは、統合失調症の陽性症状が前面に出ている急性期の状態像です。
入院当日の情報収集で優先すること
急性期の患者は幻覚や妄想に支配され、強い恐怖の中にいます。そのため、次のような問題が起こりやすくなります。
- 食事や水分をとらない(「毒が入っている」と拒食することもあります)
- 眠れない
- 入浴や更衣ができない
- 服薬を拒む
- 恐怖から逃れようとして離院する
- 自分や他者を傷つける
入院当日の情報収集は、生命・安全と基本的な生活がいまどの程度保たれているかを判断し、当面の看護計画と事故防止策を立てるために行います。
精神科看護では、オレム-アンダーウッドのセルフケアモデルが広く用いられます。このモデルでは、セルフケアを「空気・水・食物」「排泄」「体温と個人衛生」「活動と休息のバランス」「孤独と付き合いのバランス」「安全を保つ能力」の領域で捉えます。症状がどの領域をどの程度妨げているかをみることが、日常生活への影響の評価そのものです。具体的には次の点を確認します。
- 睡眠:夜間に眠れているか、昼夜逆転はないか(不眠は症状悪化の重要なサインです)
- 食事・水分:摂取量、拒食の有無、脱水や体重減少の徴候
- 清潔・整容・排泄:入浴や更衣、身だしなみ、排泄の状況
- 安全:命令的な内容の幻聴がないか、自殺念慮、自傷・他害や離院のおそれはないか
- 服薬:内服できるか、薬への拒否感はないか
情報収集の方法にも配慮が必要です。急性期の本人に長時間の聞き取りを行うと、それ自体が刺激となり、不安や被害感を強めかねません。短い会話に加えて、表情・行動・食事や睡眠の様子などの観察と、付き添ってきた夫からの情報を組み合わせて把握します。Aさんは日本語が簡単な程度なので、平易な言葉を選ぶ、必要に応じて医療通訳を活用するなど、意思疎通の手段を並行して整えます。ただし、これらは生活と安全の状態を把握するための手段であり、情報収集の目的の中心は症状が生活に与える影響です。
背景情報の位置づけ
統合失調症の発症は、生来の脆弱性(遺伝的素因など)にストレスが加わって起こるとするストレス-脆弱性モデルで説明されます。この考え方に当てはめると、家族歴は脆弱性に関わる情報です。職場の人間関係や異文化での生活、孤立はストレスに関わる情報です。いずれも全体像の理解や再発予防、退院後の支援に役立ちます。しかし、症状が落ち着き、本人が安心して話せる時期に、関係づくりと並行して集めるのが適切です。
「いまこの人の生活と安全を守るために何が必要か」と「長期的な支援のために何を知りたいか」を区別することが、優先度判断の基本です。
選択肢の確認
1.症状が日常生活に与える影響:正答。幻覚・妄想に怯え、整容もできていない急性期のAさんでは、睡眠・食事・水分・清潔・服薬・安全が症状によってどの程度損なわれているかを把握することが最優先です。この情報は、入院当日の看護計画と事故防止策に直結し、生命と安全に関わります。
2.アルバイト先の人間関係:発症の誘因となったストレスの有無や、退院後に職場へ戻れるかを検討する際には意味のある情報です。しかし、入院当日の安全や生活の維持には直結しません。また、被害的な体験の対象がアルバイト先の客であるため、急性期に詳しく尋ねると妄想の内容に踏み込み、不安や興奮を強めるおそれがあります。回復期から退院支援の段階で、本人や夫から確認していく情報です。
3.医療用語の理解力:外国籍のAさんへの説明方法を工夫するうえでは確認したい情報です。ただし、入院当日に必要なのは専門用語の理解度ではなく、基本的な意思疎通ができるかどうかです。急性期は幻覚・妄想や不安の影響で理解力を正確に評価すること自体が難しく、病気や治療を詳しく説明して理解を確かめるのは、症状が落ち着いてからの心理教育の段階です。平易な日本語や通訳の利用といった言語面の配慮は、生活状況を把握するための手段として並行して行います。
4.精神疾患の家族歴:統合失調症の発症には遺伝的素因が関与するため、家族歴は病歴の一部として意味があります。しかし、入院当日の看護ケアや安全対策を直ちに左右する情報ではありません。血縁者に関する情報は夫が十分に把握していない可能性もあり、急性期に急いで集める必要はありません。
覚えるポイント
- 精神科の入院当日(急性期)は、症状が睡眠・食事・水分・清潔・排泄・服薬・安全に与える影響をまず把握します。発症の背景や家族歴は症状が落ち着いてから集めます。
- セルフケアの評価にはオレム-アンダーウッドモデルを用います。領域は「空気・水・食物」「排泄」「体温と個人衛生」「活動と休息のバランス」「孤独と付き合いのバランス」「安全を保つ能力」です。
- 統合失調症の陽性症状は幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想・注察妄想など)、まとまりのない言動、興奮です。陰性症状は感情の平板化、意欲低下、自閉などです。独語は幻聴への反応、身なりの乱れはセルフケア低下のサインとして捉えます。
- 急性期は刺激の少ない環境で休息と安心を確保します。質問攻めにせず、観察や家族からの情報も活用します。
- 優先度は「生命・安全・基本的生活」→「疾患の理解と教育」→「発症背景・社会生活の調整」の順に考えます。
- 外国籍の患者には平易な言葉や医療通訳で意思疎通の手段を確保します。これは、生活と安全を把握するための手段として並行して行うものです。
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