111PM046|第111回 看護師国家試験 過去問
ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉 human immunodeficiency virus infection 感染症で正しいのはどれか。
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正解: 2
正答
2.無症候期がある。
この問題のポイント
HIV感染症について、「ウイルスの種類」「標的細胞」「感染経路」「自然経過」の4つの基本を押さえているかを問う問題です。HIVはRNAをもつレトロウイルスで、CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)を主な標的とし、血液・体液を介して感染します。未治療の場合は、急性感染期のあとに自覚症状のほとんどない無症候期が長く続き、やがてエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症します。この経過を理解しているかが判断の鍵です。
解説
ウイルスの性質と標的細胞
HIVは遺伝情報としてRNAをもつレトロウイルスです。宿主細胞に侵入すると、自らがもつ逆転写酵素を使ってRNAからDNAを合成し、そのDNAを宿主細胞の染色体に組み込んで増殖します。
HIVは細胞表面のCD4分子に結合して侵入します。そのため、CD4をもつ**ヘルパーTリンパ球(CD4陽性Tリンパ球)**が主な標的となり、マクロファージや樹状細胞にも感染します。ヘルパーT細胞は、細胞性免疫と液性免疫の両方に指令を出す免疫の中心的な細胞です。この細胞が減ると免疫全体が低下し、健常者では問題にならない病原体による日和見感染症や、悪性腫瘍が起こりやすくなります。
感染経路
感染経路は次の3つです。
- 性的接触
- 血液を介する感染(針刺し、注射器の共用、輸血など)
- 母子感染(胎内、分娩時、母乳)
感染源となるのは血液、精液、腟分泌液、母乳などです。握手、入浴、食器やトイレの共用といった日常生活上の接触では感染しません。空気感染や飛沫感染もしません。したがって医療現場では標準予防策が基本で、原則として隔離は必要ありません。
自然経過(未治療の場合)
- 急性感染期:感染後数週間で、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、発疹など、かぜに似た症状が出ることがあります。数週間で自然に軽快し、症状が出ない人もいます。
- 無症候期:その後、自覚症状のほとんどない時期が数年から10年程度続きます。症状はなくても、リンパ組織ではウイルスが増殖し続けており、CD4陽性Tリンパ球は徐々に減少します。この時期も他者への感染力はあります。
- エイズ発症期:CD4陽性Tリンパ球が200/μL未満になると、日和見感染症が起こりやすくなります。HIV感染が確認されている人が、厚生労働省の定める23の指標疾患のいずれかを発症すると、エイズと診断されます。指標疾患には、ニューモシスチス肺炎、カンジダ症、サイトメガロウイルス感染症、カポジ肉腫などがあり、わが国で最も多いのはニューモシスチス肺炎です。
無症候期があることの実践上の意味
無症候期があるため、感染に気づかないまま他者に感染を広げたり、エイズを発症して初めて診断されたりすることがあります。早期発見のために、保健所などで無料・匿名の検査が行われています。ただし感染初期には、検査で陰性となる期間(ウインドウ期)があります。そのため、感染の機会から一定期間をあけて検査する必要があります。
現在は、複数の抗HIV薬を組み合わせる抗レトロウイルス療法(ART)により、血中のウイルス量を抑え続けることができます。これによりエイズの発症を防ぎ、長期生存が可能になりました。治療の成否は服薬の継続にかかっているため、服薬アドヒアランスの支援や、差別・偏見への配慮が看護の重要な役割です。
制度面では、感染症法上、後天性免疫不全症候群(HIV感染症を含む)は5類感染症(全数把握)に位置づけられています。また、身体障害者福祉法の免疫機能障害として、身体障害者手帳の対象にもなります。
選択肢の確認
1.空気感染する。:HIVは血液、精液、腟分泌液、母乳などを介して、性的接触・血液・母子感染の経路で感染します。空気中の飛沫核で広がることはありません。空気感染する代表的な疾患は結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)で、これらには陰圧個室やN95マスクによる対策が必要です。HIV感染症の患者には標準予防策で対応し、空気感染対策は必要ありません。
2.無症候期がある。:正答。急性感染期の症状が軽快したあと、未治療では数年から10年程度、自覚症状のほとんどない無症候期が続きます。この間もウイルスは増殖を続け、CD4陽性Tリンパ球は徐々に減少し、他者への感染力もあります。
3.DNA ウイルスによる。:HIVの遺伝子はRNAであり、HIVはRNAウイルスに分類されるレトロウイルスです。逆転写酵素でDNAをつくり、宿主のゲノムに組み込むという増殖の仕組みから、DNAウイルスと取り違えやすい点に注意が必要です。代表的なDNAウイルスには、B型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス科(単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹、サイトメガロ、EB)、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルスなどがあります。
4.血液中のBリンパ球に感染する。:HIVが侵入の足がかりにするのはCD4分子で、主な標的はCD4陽性のヘルパーTリンパ球です。ほかにマクロファージや樹状細胞にも感染します。HIV感染者では液性免疫も障害されますが、これはBリンパ球を助けるヘルパーT細胞が減少した影響によるもので、Bリンパ球が主な感染標的だからではありません。Bリンパ球に感染するウイルスの代表はEBウイルスです。CD4陽性Tリンパ球に感染するウイルスには、HIVのほかに成人T細胞白血病の原因となるHTLV-1があります。
覚えるポイント
- HIVはRNAウイルス(レトロウイルス)です。逆転写酵素でDNAをつくり、宿主の染色体に組み込んで増殖します。
- 主な標的はCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)で、マクロファージにも感染します。Bリンパ球に感染するのはEBウイルスです。
- 感染経路は性的接触・血液・母子感染の3つです。空気・飛沫・日常生活の接触では感染しないため、標準予防策で対応します。
- 経過は、急性感染期 → 無症候期(数年〜10年程度、感染力あり)→ エイズ期です。CD4 200/μL未満で日和見感染症が増え、指標疾患(23疾患)の発症でエイズと診断されます。最も多い指標疾患はニューモシスチス肺炎です。
- 治療はARTの継続が基本で、服薬アドヒアランスの支援が看護の要点です。感染症法では5類感染症(全数把握)に位置づけられています。
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