111PM060|第111回 看護師国家試験 過去問
生後11か月の男児。ある日の朝、自宅でボタン型電池を飲み込んだ疑いがあり、その日の午前中に外来を受診した。胸部エックス線撮影によって、ボタン型電池が食道下部にあることが確認された。行われる処置で適切なのはどれか。
解答・解説を見る
正解: 4
正答
4.緊急摘出術の実施
この問題のポイント
乳児が飲み込んだボタン型電池が食道下部にとどまっているときに、どの処置を選ぶかを問う問題です。判断の鍵は「ボタン型電池」と「食道」という2つの条件です。食道粘膜に接した電池は短時間で腐食性の組織障害を起こすため、自然排出を待たずに緊急に摘出する必要があります。窒息への対応や、薬剤で排出させる方法との違いを整理しておくことが大切です。
解説
問題文の手がかり
- 生後11か月:何でも口に入れる時期で、誤飲事故が多い年齢です。症状を言葉で訴えられません。本事例も「飲み込んだ疑い」なので、飲み込んだ時刻は正確には分かりません。
- ボタン型電池:消化管異物の中で最も緊急度が高いものの一つです。
- 食道下部にある:胃まで進んでおらず、電池が食道粘膜に接し続けている状態です。
- 朝に誤飲した疑い、午前中に受診:受診した時点で、すでに数時間たっている可能性があります。組織障害が進んでいると考えて対応します。
- 呼吸困難や窒息をうかがわせる記載はありません。
ボタン型電池が危険な理由
電池が湿った粘膜に接すると、粘膜を介して電流が流れ、負極側で水酸化物イオンが生じます。その部分が強いアルカリ性になると、組織が溶けるように壊死する融解壊死が起こります。損傷は表面にとどまらず、深部へ広がります。電池の圧迫による壊死や、内容物の漏出による損傷が加わることもあります。
通電とアルカリの産生は、電池が粘膜に接した直後から始まります。動物実験では、数十分で粘膜の障害が確認されています。2時間程度で潰瘍などの重い損傷に至りうるとされています。停留が長引くほど、食道穿孔、気管食道瘻、縦隔炎、大動脈食道瘻による大出血といった重い合併症の危険が高まります。「2時間」は重い損傷に至りうる時間の目安です。それまでは安全という意味ではありません。
とくにコイン形リチウム電池は危険です。電圧が約3Vと高く、直径も大きいため食道に引っかかりやすいからです。使い切った電池でも電圧が残っていれば損傷は起こりえます。「古い電池だから大丈夫」とは判断できません。
処置の考え方
誤飲が疑われるときは、エックス線撮影で電池の有無と位置を確認します。ボタン型電池は正面像で、縁が二重の輪郭(ダブルリングサイン)に見えることがあります。これが硬貨と見分ける手がかりになります。異物がとどまりやすいのは、食道の3か所の生理的狭窄部です。入口部、大動脈弓・左主気管支と交差する気管分岐部付近、横隔膜を貫く部分の3か所です。
ボタン型電池が食道に停留していると分かった時点で、症状の有無にかかわらず、直ちに摘出します。乳児では、全身麻酔下に内視鏡で摘出するのが一般的です。摘出と同時に、粘膜の損傷の程度も確認できます。摘出後も、遅れて穿孔や瘻孔が起こったり、後に食道狭窄が生じたりすることがあります。そのため経過観察が欠かせません。
一方、硬貨のように腐食性のない異物が胃まで進んでいる場合は、便とともに出てくるのを待つことが多くあります。同じ誤飲でも、異物の種類と停留部位によって緊急度が大きく変わります。これがこの問題の核心です。
看護の視点
受診時には、いつ・何を・どのくらい飲み込んだかを確認します。電池の種類も、家に残っている同じ製品や包装で確かめます。あわせて、呼吸状態、流涎、飲み込みにくさ、嘔吐、吐血、不機嫌などを観察します。摘出までは飲食をさせず、嘔吐を誘発する行為も避けます。
家族には再発予防として、次の3点を具体的に伝えます。
- 電池や電池を使う小型機器は、子どもの手の届かない場所に置きます。
- 電池ぶたがねじなどで固定される製品を選びます。
- 使用済みの電池も放置しません。
直径約39mmより小さい物は、乳幼児の口に入る大きさの目安とされ、誤飲防止の指導に用いられます。誤飲が疑われるときは無理に吐かせず、症状がなくてもすぐに受診するよう伝えておくことも大切です。
選択肢の確認
1.背部の叩打:背部叩打は、気道に異物が詰まり、有効な咳ができない窒息時に行う気道異物除去の手技です。本事例の電池は気道ではなく食道にあり、窒息の所見もありません。叩打しても、食道の電池は除去できません。乳児の気道異物では、背部叩打と胸部突き上げを交互に行い、腹部突き上げは行いません。この知識と一緒に覚えておくと、取り違えを防げます。
2.緩下薬の使用:緩下薬は腸に作用して排便を促す薬で、食道にとどまった異物を胃へ進める作用はありません。使えば摘出が遅れ、その間に粘膜の損傷が進みます。「胃まで進んだ異物は便とともに排出されるのを待つ」という別の場面の対応と、混同しやすい選択肢です。
3.催吐薬の使用:嘔吐させても、電池が確実に出てくる保証はありません。食道内を上方へ移動した電池が別の部位の粘膜を傷つけたり、口腔内に戻った電池を誤嚥して気道異物になったりするおそれがあります。誤飲・中毒全般で、催吐は原則として勧められていません。腐食性物質や石油製品の誤飲、意識障害がある場合には、とくに禁忌です。本事例のような乳児への使用は危険で、摘出を遅らせることにもなります。
4.緊急摘出術の実施:正答。食道に停留したボタン型電池は、粘膜に接した直後から通電によってアルカリを生じさせます。数十分で粘膜障害を生じ、2時間程度で潰瘍などの重い損傷に至りえます。さらに穿孔や大血管への穿破へ進む危険があります。そのため、症状がなくても自然排出を待たず、直ちに内視鏡などで摘出します。
覚えるポイント
- ボタン型電池が食道に停留していれば、症状の有無を問わず緊急摘出です。粘膜障害は短時間で始まり、2時間以内に重篤化しうるため、一刻を争います。
- 損傷の機序は、通電による水酸化物イオンの発生と、アルカリ性の融解壊死です。コイン形リチウム電池はとくに危険で、使用済みでも油断できません。
- 誤飲への対応は、異物の種類と部位で決まります。硬貨が胃にある場合は多くが経過観察ですが、ボタン型電池の食道停留は緊急です。複数の磁石は腸管壁を挟んで引き合い、穿孔を起こしうるため危険です。
- 誤飲・中毒で催吐は原則行いません。再損傷と誤嚥の危険があるためです。
- 乳児の気道異物(窒息)には、背部叩打と胸部突き上げを行います。食道異物とは対応が異なります。
- 予防指導では、直径約39mm未満の物は乳幼児の口に入ると伝えます。電池は手の届かない場所に保管するよう説明します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。