111PM099|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。Aさん(82歳、女性)は息子(57歳、会社員)と息子の妻(55歳、パート勤務)との3人暮らし。3年前に Alzheimer〈アルツハイマー〉型認知症 Alzheimer disease と診断され、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準Ⅱb、要介護2である。Aさんの介護は、主に息子の妻が行っていた。Aさんは、声かけがあれば日常生活動作〈ADL〉を自分で行うことができた。しかし、Aさんは徐々に認知症が重度化し、1人で外出すると帰ってくることができなくなり、夜間に落ちつきなく動き回ることが多くなった。息子と息子の妻はAさんの介護について介護支援専門員に相談していたが、息子の妻は睡眠不足となり、体調を崩してしまった。そのため、Aさんは介護老人保健施設に入所することになった。入所して1週後。Aさんは、朝、声をかけられてもなかなか目を覚まさない。午前中は看護師が他の入所者と交流することを目的に共有スペースに誘導するが、Aさんは共有スペースの椅子に座ったまま眠ってしまい、レクリエーションへ誘われても参加はしない。夕方から夜間にかけてAさんは活動的となり、施設の廊下を歩き職員に話しかけている。Aさんへの看護師の対応で最も適切なのはどれか。

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正解: 2

正答

2.日中の散歩に誘う。

この問題のポイント

介護老人保健施設に入所して1週後のAさんは、朝起きられず、日中は居眠りし、夕方から夜間に活動的になっています。これは**睡眠覚醒リズムの乱れ(昼夜逆転)**です。認知症高齢者が環境の変化に弱いことを踏まえ、日中の覚醒と活動量を高め、光を浴びて体内時計を整える援助を選びます。Aさんが歩く力を保っていることと、集団のレクリエーションには参加しないことも、判断の手がかりになります。

解説

事例の整理

  • 82歳、アルツハイマー型認知症、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱb、要介護2です。声かけがあればADLを自分で行えます。
  • 歩行は保たれています。夜間に廊下を歩き回れることからも分かります。
  • 在宅のころから夜間に落ち着きなく動き回ることがありました。主介護者である息子の妻が睡眠不足になり体調を崩したことが、入所のきっかけです。
  • 入所1週後の様子は次のとおりです。朝は声をかけてもなかなか目を覚まさず、午前中は共有スペースの椅子で眠ってしまいます。レクリエーションには参加せず、夕方から夜間に活動的になります。

何が起きているのか

アルツハイマー型認知症では、加齢と病気の進行によって体内時計の働きが弱まり、睡眠覚醒リズムが乱れやすくなります。そこへ入所という大きな環境の変化が加わると、不安や混乱が強まり、行動・心理症状(BPSD)が悪化しやすくなります(リロケーションダメージ)。日中の刺激や活動が少ないと居眠りが増え、夜に眠れずに活動するという悪循環が生じます。夕方から夜にかけて落ち着かなくなり、歩き回る現象は夕暮れ症候群と呼ばれ、認知症の人によくみられます。

援助の考え方

体内時計の中枢は視床下部の視交叉上核にあり、主に光で調整されます。朝から日中に明るい光を浴びると、松果体からのメラトニン分泌が抑えられ、覚醒が保たれます。夜になるとメラトニンの分泌が高まり、眠気が生じます。さらに、日中に体を動かすと覚醒が維持され、適度な疲労が夜間の眠りを深くします。つまり、昼夜逆転への援助の基本は「朝起きる」「日中に光を浴びる」「日中に体を動かす」ことです。

散歩はこれらを一度に満たす援助です。Aさんに合っている理由は次のとおりです。

  • 夜間に廊下を歩き回れるほど歩行能力が保たれており、本人が持っている力をそのまま生かせます。
  • 集団のレクリエーションには参加しませんが、看護師と1対1で行う散歩であれば安心感を得やすく、職員となじみの関係を築くきっかけにもなります。
  • 景色や季節の変化は会話を生み、ほどよい刺激になります。
  • 強制せずに「誘う」形をとることで、本人の意思を尊重できます。

実践で併せて行うこと

  • 朝は決まった時刻にカーテンを開けて部屋を明るくし、穏やかに声をかけます。起床・食事・活動の時刻をそろえます。
  • 日中は明るい場所で過ごしてもらい、生活歴や好みに合った役割や活動を探します。
  • 夕方以降は照明や音を落ち着いたものにし、就寝前の習慣を整えます。夜間に歩き回るときは無理に止めず、付き添って安全を確保し、不安の訴えを受け止めます。
  • 日中の強い傾眠が続く場合は、睡眠薬などの薬剤の持ち越し、低活動型せん妄、脱水、感染、夜間の頻尿や痛みといった身体的な要因がないかも確認します。

介護老人保健施設は、介護保険法に基づき、心身機能の維持回復を図って在宅生活への復帰を支援する施設です。昼夜のリズムが整えば家族の介護負担が軽くなり、在宅生活を再開するための大切な条件の一つがそろいます。

選択肢の確認

1.朝の入浴を勧める。:入浴には体温を上げて目を覚まさせる作用がありますが、それだけで日中の活動量や光を浴びる時間が増えるわけではありません。入浴による疲労で、午前中の居眠りをかえって招くこともあります。また、十分に目が覚めていない状態での入浴は、ふらつきによる転倒や血圧変動の危険を伴います。認知症の人は状況が分からないまま浴室へ誘われると混乱し、入浴を拒否することもあります。眠りを促す目的の入浴であれば、就寝前にぬるめの湯につかり、上がった体温が下がっていく過程で眠気を得る方法のほうが理にかなっています。朝の入浴は、昼夜のリズムを整える中心的な援助にはなりません。

2.日中の散歩に誘う。:正答。散歩は日中の光を浴びて体内時計を整え、身体活動によって覚醒を保ち、夜間の睡眠を促します。Aさんは歩行能力が保たれ、夜間には歩き回っているので、その力を日中の活動に振り向けることができます。集団活動には参加しなくても、看護師と1対1で行う散歩なら安心して参加しやすく、会話や交流のきっかけにもなります。

3.朝はAさんが自分で起きるまで待つ。:本人のペースを尊重しているようにみえますが、起床が遅れるほど朝の光を浴びる時刻も遅れ、体内時計の遅れと昼夜逆転が固定されてしまいます。起床時刻が定まらないと、食事や服薬、活動の時刻も乱れます。本人の意思の尊重とは、起きる時刻を成り行きに任せることではありません。カーテンを開けて部屋を明るくし、穏やかに声をかけるなど、自然に目覚められる環境を整えることで実現します。

4.日中は椅子に座って過ごしてもらう。:Aさんは現に共有スペースの椅子に座ったまま眠ってしまっており、座って過ごすだけでは刺激も活動量も足りず、覚醒を保てません。日中の長い居眠りは夜間の不眠を強めます。活動量の低下が続くと、筋力低下などの廃用症候群にもつながります。休息そのものは必要ですが、日中には活動を組み込むことが大切です。この過ごし方は、他の入所者との交流という目的も果たせていないため、見直すべき状態です。

覚えるポイント

  • 昼夜逆転への援助の基本は「朝の光」「日中の活動」「夜の静かで暗い環境」です。光はメラトニン分泌を抑え、体内時計を整えます。
  • 認知症高齢者は環境の変化に弱く、入所・入院・転居の後に混乱やBPSDが強まりやすくなります(リロケーションダメージ)。夕方から落ち着かなくなる現象は夕暮れ症候群です。
  • 援助は本人の残存能力と好みに合わせて選びます。集団活動に参加しない人には、1対1の関わりや、歩行など本人ができることを生かした活動を考えます。
  • 「本人が起きるまで待つ」「そのまま座って過ごしてもらう」といった選択肢は、問題となっている状態を放置し、固定してしまうことが多いと覚えておきます。
  • 日中の強い傾眠がみられたら、薬剤の影響、低活動型せん妄、脱水や感染などの身体的な要因も確認します。
  • 認知症高齢者の日常生活自立度は次のとおりです。Ⅱaは家庭外で、Ⅱbは家庭内でも支障が多少みられるが、誰かが注意していれば自立できる状態です。Ⅲaは日中を中心に、Ⅲbは夜間を中心に介護を必要とする状態です。

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