111PM100|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み100〜102の問いに答えよ。Aさん(83歳、男性)は妻(81歳)と2人暮らし。息子夫婦は共働きで同市内に住んでいる。Aさんは自宅の廊下で倒れているところを妻に発見され、救急搬送された。Aさんは右上下肢に力が入らず、妻の声かけにうなずくが発語はなかった。頭部CTで左中大脳動脈領域の脳梗塞 cerebral infarction と診断されたため救急外来で血栓溶解療法が行われ、入院となった。血栓溶解療法による治療後2週。Aさんは右上下肢麻痺、失語などの後遺症があるが、自宅への退院を希望したため、機能訓練の目的で回復期リハビリテーション病棟に転棟した。転棟後1日。Aさんはベッドから車椅子への移乗動作の訓練を始めたが、健側の下肢筋力が低下しているため、立位のときにバランスを崩しやすい状況である。Aさんへの移乗時の援助で適切なのはどれか。2つ選べ。

2つ選択
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正解: 4・5

正答

4.車椅子をAさんの左側に準備する。
5.移乗前に血圧測定を行う。

この問題のポイント

左中大脳動脈領域の脳梗塞で右片麻痺と失語が残る高齢者が、ベッドから車椅子への移乗訓練を始めた時期の援助を問う問題です。「右上下肢麻痺」から健側は左だと分かり、これが車椅子を置く位置を決める手がかりになります。「健側の下肢筋力が低下」「立位のときにバランスを崩しやすい」からは転倒の危険が高いことが分かります。「転棟後1日」「移乗動作の訓練を始めた」からは、新しい環境で立位を伴う動作を始めたばかりで血圧の変動に注意が必要な段階だと分かり、車椅子の配置の原則と移乗前の全身状態の確認の2点が判断の鍵になります。

解説

事例から読み取る情報

  • 左中大脳動脈領域の脳梗塞:運動の神経路(錐体路)は延髄で左右が交叉します。そのため、左半球が障害されると反対側の右上下肢に麻痺が出ます。多くの人は言語中枢が左半球にあるため、失語を伴いやすいです。
  • 健側は左:ただし健側の下肢筋力も低下しています。高齢であることや、発症後の安静・活動量の低下による廃用が影響していると考えられます。立ち上がりや方向転換のときに健側だけで体重を支えきれず、バランスを崩しやすい状態です。
  • 失語:発症時は妻の声かけにうなずいても発語がなく、転棟時も失語の後遺症が残っています。そのため、めまいや気分不快などの自覚症状を言葉で訴えにくいと考えられます。
  • 血栓溶解療法後2週・転棟後1日:病棟が変わった翌日に、立位を伴う移乗動作の訓練を始めたばかりの段階です。起立に伴う血圧の変動や、慣れない動作での転倒に注意が必要です。

片麻痺のある人の移乗の原則

片麻痺のある人は、健側の上下肢を使って動作をします。ベッドから車椅子に移るときの基本は次のとおりです。

  • 車椅子は健側に置き、ベッドに対して20〜30度ほどの角度をつけます。ブレーキをかけ、フットサポートは上げておきます。
  • 患者はベッドの端に浅く腰かけます。健側の足をやや後ろに引いて前かがみになり、健側の足に体重をのせて立ち上がります。
  • 健側の足を軸にして回転し、健側の手で遠いほうのアームサポート(ひじ掛け)をつかみながら座ります。

この配置にすると、回転する角度と移動する距離が最小になります。介助者は、膝折れや転倒が起こりやすい患側(Aさんでは右側)の前方に立ちます。患側の膝が折れないように支えながら、腰部や骨盤を支えます。Aさんは健側の筋力も低下しているため、健側の力だけに頼れません。回転を最小限にする配置に加えて、移乗用ベルト(トランスファーベルト)の使用や2人での介助も検討します。

ベッドの高さは、端座位で足底が床にしっかりつき、車椅子の座面と同じかやや高くなるように調整します。高い位置から低い位置へ移るほうが、立ち上がりに必要な筋力が小さくて済むためです。

回復期リハビリテーション病棟は、日常生活動作の改善と在宅復帰を目指して集中的に訓練を行う病棟です。退院後は81歳の妻が主な介助者になると考えられます。健側を生かした安全な移乗方法を訓練の初期から身につけることが、Aさんの自立と妻の介護負担の軽減につながります。

移乗前の血圧測定が必要な理由

臥床が続いたり活動量が落ちたりすると、循環血液量が減り、血圧を保つ反射(圧受容器反射)の働きも低下します。その結果、起き上がったときに血圧が下がりやすくなります。これが起立性低血圧で、立位になってから3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下するものをいいます。高齢者ではさらに起こりやすくなります。

脳梗塞の後は、血圧が変わっても脳血流を一定に保つ仕組み(脳血流の自動調節能)が障害されていることがあります。そのため、血圧が下がると脳の虚血が悪化するおそれがあります。反対に血圧が高すぎることも、再発や出血の点で好ましくありません。

移乗の前には血圧と脈拍を測り、離床してよい状態かを確認します。端座位になった後や移乗の後にも、顔色・冷汗・表情の変化・反応の低下などを観察します。Aさんのように失語がある場合は、訴えがないことを「異常がない」と判断してはいけません。客観的な測定と、言葉以外のサインの観察を組み合わせることが特に大切です。

選択肢の確認

1.ズボンのウエスト部分をつかんで引き上げる。:衣服をつかんで引き上げる介助は、ズボンが股部に食い込んで痛みや皮膚の損傷を起こします。羞恥心や尊厳の面でも好ましくないため、不適切です。衣服は伸びたりずれたりするので支えが安定せず、転倒の原因にもなります。また、立ち上がりは、前かがみになって重心を足の上に移してから行うのが自然な動きです。真上に引き上げる力はこの動きに合わず、Aさんが健側の力を使って立ち上がる動きを妨げます。介助では衣服ではなく腰部・骨盤・殿部を支えるか、移乗用ベルトを使います。

2.ベッドの高さを車椅子の座面より低くする。:ベッドが低いと膝や股関節の曲がりが深くなり、立ち上がりに大きな筋力が必要になるため、不適切です。健側下肢の筋力が落ちているAさんには特に不利で、立ち上がりの途中で支えきれずに転倒する危険が高まります。ベッドから車椅子へ移るときは、ベッドを車椅子の座面と同じかやや高くし、端座位で足底が床につく高さにします。足底が床につかないほど高くするのも不安定になるため避けます。高いほうから低いほうへ移るほうが楽という原則は、逆向きでも同じです。車椅子からベッドへ戻る場面では、ベッドを座面と同じかやや低めにすると移りやすくなります。移る向きによって適切な高さの関係が逆になる点を混同しないようにします。

3.床に離床センサーマットを設置する。:離床センサーマットは、ベッドから降りた患者がマットを踏むと、ナースコールなどで知らせる機器です。見守りが必要な患者が一人で離床しようとする行動を早く察知するための転倒予防策です。看護師が付き添って行う移乗介助そのものを安全にする援助ではないため、この場面の援助としては適切ではありません。問題文には、Aさんが一人で起き上がろうとする様子も書かれていません。床に置いたマットは、足元のつまずきや車椅子の操作の妨げになることもあります。一人で離床しようとする行動がみられる患者に、転倒予防策の一つとして検討するものです。

4.車椅子をAさんの左側に準備する。:正答。右片麻痺のAさんの健側は左です。健側に車椅子を置くと、力の入る左下肢を軸に最小の回転で移乗でき、左手で遠いほうのアームサポートをつかんで身体を支えられます。ベッドに対して20〜30度の角度をつけ、ブレーキをかけ、フットサポートを上げておきます。反対に患側の右に置くと、力の入らない右下肢に体重をかけながら回転することになります。その結果、膝折れして転倒する危険が大きくなります。

5.移乗前に血圧測定を行う。:正答。Aさんは高齢で、健側の下肢筋力まで低下していることから、活動量の低下による廃用が考えられます。そのため、起立性低血圧を起こしやすい状態です。移乗訓練を始めたばかりで、起立したときの血圧の反応を確かめながら進める必要がある段階でもあります。脳梗塞後は脳血流の自動調節能が低下していることがあり、血圧の変動が脳虚血の悪化や転倒に直結します。失語のため症状を言葉で訴えにくいことからも、移乗前に血圧を測って離床の可否を判断することが適切です。移乗中や移乗後にも、顔色や表情を観察します。

覚えるポイント

  • 左大脳半球の障害では右片麻痺と失語が起こりやすく、右大脳半球の障害では左片麻痺と左半側空間無視が起こりやすいです。
  • 片麻痺のある人の移乗では、車椅子を健側にベッドと20〜30度の角度で置き、ブレーキをかけてフットサポートを上げます。健側の下肢を軸に回転します。
  • 介助者は膝折れしやすい患側の前方に立って支えます。持つのは衣服ではなく、腰部・骨盤・殿部または移乗用ベルトです。
  • 移乗は高いほうから低いほうへ移ると楽です。ベッドから車椅子へ移るときは、ベッドを座面と同じかやや高くし、端座位で足底が床につくように調整します。
  • 離床初期や訓練の開始時は、移乗前にバイタルサインを測定します。起立性低血圧は、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下するものです。失語のある患者では、表情・顔色などの言葉以外のサインも観察します。
  • 離床センサーは、一人で離床しようとする行動を察知するための機器です。介助場面の援助と混同しないようにします。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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