111PM101|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み100〜102の問いに答えよ。Aさん(83歳、男性)は妻(81歳)と2人暮らし。息子夫婦は共働きで同市内に住んでいる。Aさんは自宅の廊下で倒れているところを妻に発見され、救急搬送された。Aさんは右上下肢に力が入らず、妻の声かけにうなずくが発語はなかった。頭部CTで左中大脳動脈領域の脳梗塞 cerebral infarction と診断されたため救急外来で血栓溶解療法が行われ、入院となった。血栓溶解療法による治療後2週。Aさんは右上下肢麻痺、失語などの後遺症があるが、自宅への退院を希望したため、機能訓練の目的で回復期リハビリテーション病棟に転棟した。転棟後1日。Aさんはベッドから車椅子への移乗動作の訓練を始めたが、健側の下肢筋力が低下しているため、立位のときにバランスを崩しやすい状況である。Aさんは妻や看護師との話の内容は理解しているようだが、返答の際に言葉を間違えてしまうことや言葉がなかなか出てこないことがある。Aさんへの看護師の対応で適切なのはどれか。

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正解: 1

正答

1.Aさんの言葉を推測しながら話す。

この問題のポイント

左中大脳動脈領域の脳梗塞で、話の内容は理解できるのに言葉が出てこない、言い誤るという症状から、Broca〈ブローカ〉失語(運動性失語)と判断できるかを問う問題です。失語症は聴力や知能の障害ではなく、言語機能の障害です。このことを押さえたうえで、本人の自尊心を守りながら意思の疎通を助ける関わりを選びます。

解説

問題文の手がかり

  • 左中大脳動脈領域の脳梗塞:右利きの人のほとんどは、左大脳半球が言語の優位半球です。左中大脳動脈の灌流域には、前頭葉のBroca野と側頭葉のWernicke野という言語野が含まれます。そのため、失語が起こりやすい部位です。
  • 「右上下肢に力が入らず」:左中大脳動脈の灌流域には、大脳半球外側面にある顔面・上肢の運動野も含まれます。そのため、顔面と上肢に強い右片麻痺が起こりやすくなります。さらに中大脳動脈は、穿通枝(レンズ核線条体動脈)などを通じて、放線冠や内包の一部を通る錐体路も灌流しています。この錐体路まで障害されると下肢にも麻痺が及ぶため、本事例のような右上下肢の麻痺も起こります。一方、下肢の運動野は大脳半球内側面にあり、前大脳動脈の灌流域です。そのため、前大脳動脈の梗塞では下肢に強い麻痺が起こります。
  • 発症時の「うなずくが発語はなかった」:呼びかけを理解して反応できるのに話せない状態です。言葉を表出する側の障害を示唆しています。
  • 「話の内容は理解しているようだ」:言葉の理解は比較的保たれています。
  • 「言葉を間違えてしまう」「言葉がなかなか出てこない」:錯語(言い誤り)と喚語困難(言いたい言葉を思い出せない状態)を表しています。

理解が比較的保たれ、表出が障害されていることから、Aさんは運動性失語と考えられます。

失語のタイプと、構音障害との違い

  • Broca失語(運動性失語):病巣は左前頭葉の下前頭回後部です。発話は非流暢で、努力を要し、たどたどしく短くなります。理解は比較的保たれ、本人は自分の誤りに気づいていることが多いです。そのため、もどかしさや自信の喪失を感じやすくなります。
  • Wernicke失語(感覚性失語):病巣は左側頭葉の上側頭回後部です。発話は流暢ですが錯語が多く、意味の通じにくい話になります。言葉の理解が著しく障害され、病識に乏しいことが多いです。
  • 全失語:表出と理解の両方が重度に障害されます。
  • 構音障害:脳卒中では、唇・舌・声帯など発声発語器官の運動が障害されて起こります(運動障害性構音障害)。言語機能そのものは保たれるため、筆談や50音表が役立ちます。これに対して失語症では、「話す・聞く・読む・書く」の言語機能が程度の差はあれ全般に障害されます。特に仮名の処理が難しくなりやすいため、50音表は有効とは限りません。

運動性失語の人への関わり

  • 静かな環境で、ゆっくり、短くわかりやすい文で話しかけます。
  • 急かさず、本人が言葉を探す時間を十分にとって待ちます。
  • 言葉が出てこないときや言い誤ったときは、文脈や表情から言いたいことを推測します。そのうえで、「〜ということですか」とはい・いいえで答えられる閉じた質問で確認します。
  • 身ぶり・表情・指さし・絵カード・実物などの非言語的な手段と、漢字で書いた単語などの文字による視覚的な手がかりを併用します。
  • 言い誤りをいちいち訂正せず、成人として尊重し、子ども扱いしません。
  • 言語聴覚士(ST)と訓練内容や有効な伝達方法を共有し、看護師どうしで統一した関わりをします。

ここでいう推測は、本人が話し終える前に言葉を先取りすることではありません。十分に待っても言葉が出てこないときや、言い誤りで意味が取りにくいときに行います。本人が言葉を探し続ける負担を減らし、「伝わった」という経験を積み重ねるための支援です。ただし、推測を決めつけず、本人がうなずくか首を振るかで必ず確かめます。

回復期リハビリテーション病棟では、排泄の希望や痛み、不安といった訴えを看護師が確実にくみ取ることが、ニードの充足に直結します。Aさんは立位でバランスを崩しやすい状態です。意思が伝わらないまま自分で動こうとすると、転倒にもつながりかねません。また、Aさんは自宅退院を希望しており、退院後は高齢の妻と2人で暮らします。入院中から妻にも伝わりやすい関わり方を具体的に伝え、家族全体のコミュニケーションを支えることが重要です。

選択肢の確認

1.Aさんの言葉を推測しながら話す。:正答。Aさんは話の内容を理解できており、言いたいことはあるのに言葉が出てこない状態です。十分に待ったうえで看護師が言いたいことを推測し、はい・いいえで答えられる形で確認すれば、少ない発話でも意思を伝えられます。伝わったという経験は、話そうとする意欲やリハビリテーションへの意欲を支えます。推測が外れていないかを、本人の反応で必ず確かめます。

2.Aさんの言い誤りを訂正する。:錯語は本人の努力不足ではなく、言語野の損傷による症状です。運動性失語の人は自分の誤りに気づいていることが多く、言い誤るたびに指摘されると失敗体験が重なります。その結果、自尊心が傷つき、話すこと自体を避けるようになりかねません。言い直させれば言葉の訓練になると考えがちですが、言語訓練は言語聴覚士が本人の状態に合わせて段階的に行うものです。日常の会話では、正確に言えることよりも意思が伝わることを優先します。意味が推測できれば誤りを指摘せず、「〜のことですね」と内容を確かめます。これは実質的に選択肢1の関わりです。

3.大きな声で話す。:Aさんは妻や看護師の話の内容を理解できており、困っているのは聞き取りではなく言葉の表出です。失語症は聴覚の障害ではないため、声を大きくしても言葉が出やすくなるわけではありません。大声は威圧感を与えます。また、「耳が遠い人」「理解できない人」として扱われているように感じさせるおそれもあります。失語症の人には、声量よりも、ゆっくり、短く、区切って話すことが有効です。なお、加齢性難聴のある高齢者でも、大声より、正面から低めの声でゆっくりはっきり話すほうが聞き取りやすくなります。

4.話題を変える。:言葉が出てこないときに別の話に移ってしまうと、Aさんが伝えたかったことは伝わらないまま終わってしまいます。本人にとっては意思を軽視された体験となり、話す意欲の低下や孤立感につながります。疲労が強いときに休憩をはさみ、あとで改めて聞くことはあります。ただし、それは本人に確認したうえで行う配慮であり、伝えたい内容を置き去りにすることとは違います。

覚えるポイント

  • 左中大脳動脈領域の脳梗塞では、失語と、顔面・上肢に強い右片麻痺が出やすいです。下肢に強い片麻痺は、下肢の運動野(大脳半球内側面)を灌流する前大脳動脈の梗塞の特徴です。右半球の病変では、左半側空間無視が出やすくなります。
  • Broca失語(運動性)は左前頭葉の病変で、発話は非流暢、理解は比較的保たれ、自分の誤りに気づいていることが多いです。Wernicke失語(感覚性)は左側頭葉の病変で、発話は流暢だが錯語が多く、理解が障害され、病識に乏しいことが多いです。
  • 運動性失語への関わりは次の4点です。急かさず待つ、推測して閉じた質問で確認する、身ぶりや絵カードなどの非言語的手段と漢字の単語などの文字の手がかりを併用する、言い誤りを訂正しない。
  • 感覚性失語では理解が障害されるため、短い文に身ぶり・絵・実物を組み合わせて理解を補うことが中心になります。
  • 50音表や筆談は構音障害には有効です。一方、失語症では仮名の処理も障害されやすく、有効とは限りません。
  • 失語症は聴覚の障害でも知能全般の低下でもありません。大声や子ども扱いは避け、成人として尊重して関わります。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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