111PM102|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み100〜102の問いに答えよ。Aさん(83歳、男性)は妻(81歳)と2人暮らし。息子夫婦は共働きで同市内に住んでいる。Aさんは自宅の廊下で倒れているところを妻に発見され、救急搬送された。Aさんは右上下肢に力が入らず、妻の声かけにうなずくが発語はなかった。頭部CTで左中大脳動脈領域の脳梗塞 cerebral infarction と診断されたため救急外来で血栓溶解療法が行われ、入院となった。血栓溶解療法による治療後2週。Aさんは右上下肢麻痺、失語などの後遺症があるが、自宅への退院を希望したため、機能訓練の目的で回復期リハビリテーション病棟に転棟した。転棟後1日。Aさんはベッドから車椅子への移乗動作の訓練を始めたが、健側の下肢筋力が低下しているため、立位のときにバランスを崩しやすい状況である。転棟後5週。Aさんは歩行練習が開始となり、病棟内では日常生活動作〈ADL〉も徐々に自立してきている。食事は時々むせがみられるが、配膳すれば自力で摂取できる。排泄は車椅子でトイレへ移動しており、ズボンの着脱に介助が必要である。入浴はシャワーチェアーに座り、手が届くところは自分で洗うことができる。歯磨きは一部介助が必要である。Aさんは早く自宅に帰りたいと話し、午前と午後の機能訓練には積極的に参加しているが、機能訓練後は「疲れて何もしたくない」 とベッドで横になり眠っている。夕方に面会に来た妻は「面会時にいつも疲れたと言って眠っているので、このままの状態で退院して家で世話ができるかどうか自信がありません。息子夫婦も仕事が忙しいので、介護を手伝ってもらえるかわかりません」と言っている。看護師の妻への対応で最も適切なのはどれか。

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正解: 3

正答

3.Aさんの機能訓練中の様子の見学を勧める。

この問題のポイント

在宅介護に自信がないと話す高齢の妻に、看護師がまず何をすべきかを問う問題です。判断の鍵は、妻の不安が「面会時にいつも疲れたと言って眠っている」夕方の姿だけから生まれている点です。Aさんは訓練に意欲的に取り組み、ADLも徐々に自立してきています。この実際の状況を妻に知ってもらうことが、不安を和らげ、退院に向けた家族支援を始める出発点になります。

解説

事例の整理

  • Aさん:83歳男性です。左中大脳動脈領域の脳梗塞で、右上下肢麻痺と失語が残っています。本人は自宅への退院を希望しています。
  • 経過:転棟後5週で歩行練習が始まり、病棟内のADLは徐々に自立してきています。
  • ADLの内訳:食事は時々むせるものの、配膳すれば自力で食べられます。排泄は車椅子でトイレへ移動し、ズボンの着脱に介助が必要です。入浴はシャワーチェアーに座り、手の届く範囲は自分で洗えます。歯磨きは一部介助です。
  • 意欲:午前と午後の機能訓練に積極的に参加しています。訓練後は「疲れて何もしたくない」とベッドで眠っています。
  • 妻:81歳です。夕方の面会ではいつも眠っている夫を見ており、「このままの状態で」家で世話ができるか自信がないと話しています。息子夫婦の協力が得られるかもわかりません。

妻の不安はどこから来ているか

妻が見ているのは、一日の訓練を終えて疲れているAさんの姿だけです。訓練中にAさんがどれほど意欲的に取り組み、何ができるようになっているかを、妻は知らない可能性が高いと考えられます。「このままの状態で」という言葉からは、夫はいつも疲れて寝ていて介護に手がかかる、という受け止め方がうかがえます。

回復期では1日に複数回の訓練を行うため、訓練後に疲労が出るのはよくあることです。休息をとること自体は問題ではありません。ただし、疲労が強すぎる場合や、意欲低下・抑うつが疑われる場合は、訓練量の調整や評価が必要です。

つまり、妻の不安の根には、Aさんの実際の回復状況と妻の認識のずれがあります。家族支援の基本は、次の流れです。

  • まず家族の思いを受け止めます。
  • 次に、その不安が何に基づいているのかを明らかにします。
  • そのうえで、家族が正確な情報を得られるように支援します。

なぜ見学が最適なのか

機能訓練の見学には、次のような意味があります。

  • 妻が、Aさんの意欲や、移乗・立位・歩行などで「できること」を自分の目で確かめられます。漠然とした不安が、具体的な見通しに変わります。
  • 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士から、どこまで自力ででき、どこに介助が必要か、声かけや介助のこつを直接聞けます。
  • 失語のあるAさんとのコミュニケーションの取り方を、専門職の関わりから学べます。
  • その後の介護指導や退院支援に、妻が主体的に参加するきっかけになります。

リハビリテーションでは、訓練場面で発揮できるできるADLと、病棟生活で実際に行っているしているADLの差を縮めることが目標になります。家族がこの両方を知ることは、退院後の生活を思い描くうえで欠かせません。

退院に向けた支援の流れ

妻は81歳で、退院後は高齢者が高齢者を介護する老老介護になります。妻の心配はもっともであり、軽く扱ってはいけません。見学で現状を理解してもらった後は、次のように段階的に進めます。

  • 介護技術の指導(排泄動作、移乗、むせに配慮した食事など)
  • 介護保険の申請と居宅サービスの検討
  • 息子夫婦を含めた家族の役割の調整
  • 退院前カンファレンスや外泊訓練

本人の希望と家族の介護力の両方を尊重しながら、多職種で退院後の生活を組み立てることが、回復期の看護の役割です。

選択肢の確認

1.施設入所の検討を提案する。:Aさんは自宅への退院を希望しています。妻も「自信がない」と話しているだけで、在宅介護を諦めたわけではありません。ADLが改善途中の転棟後5週の時点で、妻の認識のずれを確かめないまま施設入所を持ち出すと、本人の意思を軽視することになります。妻の不安をかえって強めるおそれもあります。施設入所は、十分な支援とサービス調整を行っても在宅生活が難しいと本人・家族が判断した場合に、選択肢の一つとして検討されるものです。

2.トイレ介助の方法を指導する。:ズボンの着脱に介助が必要なため、いずれは妻への排泄介助の指導が必要になります。しかし、妻はまだAさんの全体像をつかめず不安を抱えている段階です。ここで個別の介助技術だけを教えると、「やはり介護は大変だ」という負担感を強めかねません。また、ADLは改善途中で、退院時に必要な介助量も変わりえます。現状を理解してもらった後、退院が近づいた段階で、妻の体力も考慮しながら指導するのが適切です。

3.Aさんの機能訓練中の様子の見学を勧める。:正答。妻は疲れて眠るAさんしか見ていません。訓練に意欲的に取り組み、ADLが徐々に自立してきている実際の姿を見てもらうことで、不安の原因である認識のずれを解消できます。専門職から介助のポイントやコミュニケーションの方法を学ぶ機会にもなり、在宅介護への見通しを持つ第一歩になります。

4.息子夫婦にも介護に参加してもらうよう助言する。:息子夫婦の協力は、今後の退院調整で確認していく大切な事項です。ただし、妻自身が「手伝ってもらえるかわからない」と話しており、息子夫婦への働きかけを妻に任せると負担を増やしかねません。また、息子夫婦が加わっても、妻がAさんの状態を正しく理解していないという不安の中心は解決しません。家族の役割分担は、退院前カンファレンスなどで看護師や医療ソーシャルワーカーが関わりながら調整していくものです。

覚えるポイント

  • 家族が在宅介護への不安を訴えたら、まず思いを受け止めます。そのうえで、不安の原因が情報不足・誤解・実際の介護力不足のどれなのかを見極めます。
  • 家族が患者の一部の姿しか見ていない場合は、訓練場面の見学などで実際の状態を知ってもらうことが家族支援の出発点になります。
  • 家族への介護指導は、現状を理解し受け止めてもらってから段階的に行います。いきなり技術指導をしたり、施設入所を提案したりはしません。
  • 「できるADL」(訓練場面)と「しているADL」(日常生活場面)を区別し、その差を埋めることが回復期リハビリテーションの目標です。
  • 左中大脳動脈領域の脳梗塞では、右片麻痺と失語(左半球が言語優位の場合)が典型的な症状です。
  • 老老介護では、介護保険サービスや家族の役割分担を多職種で調整し、本人の意思と介護者の負担の両方に配慮します。

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