112AM035|第112回 看護師国家試験 過去問
ノロウイルス感染症に罹患した患者の嘔吐物が床に飛び散っている。この処理に使用する消毒薬で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.次亜塩素酸ナトリウム
この問題のポイント
対象の病原体の性質に合わせて、環境(床)の消毒薬を選ぶ問題です。手がかりは「ノロウイルス」「嘔吐物」「床」の3つです。ノロウイルスはエンベロープをもたないため、アルコールや低水準消毒薬が効きにくく、塩素系消毒薬が第一選択になります。
解説
問題文の手がかり
- ノロウイルス:消毒薬に抵抗性をもつウイルスです。
- 嘔吐物:大量のウイルスを含みます。また有機物が多いので、消毒薬の効力が落ちやすい状態です。
- 床に飛び散っている:消毒の対象は人体ではなく環境表面です。そのため、皮膚・粘膜用の消毒薬は候補から外れます。
ノロウイルスと消毒薬の関係
ノロウイルスはカリシウイルス科のRNAウイルスで、外側に脂質の膜(エンベロープ)をもちません。エンベロープは、アルコールや界面活性作用をもつ消毒薬で壊れやすい構造です。このため、エンベロープをもつウイルス(インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、HIVなど)は消毒薬に比較的弱く、もたないウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、A型肝炎ウイルスなど)は消毒薬に抵抗性を示します。
ノロウイルスに確実に有効なのは、次の2つです。
- 次亜塩素酸ナトリウム:酸化作用でウイルスの蛋白質と核酸を直接壊します。
- 加熱
ノロウイルスは少量のウイルスでも感染が成立します。乾燥した嘔吐物が舞い上がって吸い込まれることでも感染が広がるため、嘔吐物は乾く前に確実に処理する必要があります。
消毒薬の水準(スポルディングの考え方と合わせて整理)
- 高水準:グルタラール、フタラール、過酢酸(内視鏡など)
- 中水準:次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、ポビドンヨード
- 低水準:塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、アルキルジアミノエチルグリシン
中水準の中でも、ノロウイルスの環境消毒に使えるのは塩素系です。エタノールは効きにくく、ポビドンヨードは生体用です。
嘔吐物処理の手順
- 使い捨ての手袋、マスク、ガウン(エプロン)を着用し、周囲の人を遠ざけます。
- 嘔吐物をペーパータオル等で覆い、外側から内側へ向かって静かに拭き取ります。拭き取ったものはビニール袋に入れて密閉します。
- 床は約0.1%(1,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭きます。その後、水拭きをします。
- 処理中から処理後まで十分に換気します。手袋などを外した後は、石けんと流水で手を洗います。
先に嘔吐物を取り除いてから消毒するのは、有機物が残っていると塩素が消費されて効力が落ちるためです。汚物が付いていない手すりやドアノブ、食器などの消毒には、約0.02%(200ppm)程度の低い濃度を用います。
希釈の計算も確認しておきましょう。市販の塩素系漂白剤(塩素濃度約5%)から0.1%をつくる場合は、5÷0.1=50で、約50倍に薄めます。
使用上の注意は次のとおりです。
- 金属を腐食させ、布を脱色します。
- 酸性の洗浄剤と混ぜると塩素ガスが発生します。
- 噴霧すると吸入のおそれがあるため、拭き取りで使います。
臨床では、感染性胃腸炎の患者に標準予防策に加えて接触予防策を行います。手指衛生はアルコール手指消毒だけに頼らず、石けんと流水で洗います。汚染リネンは熱水や塩素系で処理します。この知識は、病棟だけでなく高齢者施設や保育所での集団感染対策にもそのまま生きます。
選択肢の確認
1.70%エタノール:エンベロープを壊す作用が主体のため、エンベロープをもたないノロウイルスには十分な効果が期待できません。一般細菌、結核菌、真菌、エンベロープをもつウイルスには有効な中水準消毒薬です。そのため、手指消毒や注射部位の消毒、インフルエンザ流行時の環境清拭では正しい選択になります。「アルコールはほとんどの微生物に効く」と一般化して選ばないよう注意します。
2.ポビドンヨード:皮膚・粘膜・創部など生体に用いるヨウ素系の消毒薬で、床のような環境表面の消毒には用いません。嘔吐物のように有機物が多い場では効力が落ちやすく、床や衣類を着色する点でも不向きです。手術野の皮膚消毒や含嗽に用いる場面なら適切です。
3.塩化ベンザルコニウム:第4級アンモニウム塩(逆性石けん)に分類される低水準消毒薬で、ノロウイルスなどエンベロープをもたないウイルスには効果がほとんど期待できません。結核菌や芽胞にも無効です。普通の石けんと混ざると効力が落ちます。一般細菌を対象とした環境や器具の消毒、粘膜の消毒には使われます。
4.次亜塩素酸ナトリウム:正答。本剤は酸化作用によってウイルスの蛋白質と核酸を破壊し、エンベロープの有無にかかわらず効果を示します。そのため、ノロウイルスで汚染された床の消毒に適しています。嘔吐物を拭き取った後に約0.1%で浸すように拭き、金属面は腐食を防ぐため水拭きで仕上げます。
覚えるポイント
- エンベロープをもたないウイルス(ノロ・ロタ・アデノ・A型肝炎)は、アルコールや低水準消毒薬が効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムと加熱が有効です。
- 次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、嘔吐物・便が付着した場所は約0.1%(1,000ppm)、汚物のない環境や食器は約0.02%(200ppm)です。
- 嘔吐物処理は、個人防護具の着用、静かに拭き取って密閉、塩素系で消毒後に水拭き、換気、流水と石けんの手洗い、の順で行います。乾燥させないことが重要です。
- 消毒薬の水準は、高水準がグルタラールなど、中水準が次亜塩素酸ナトリウム・エタノール・ポビドンヨード、低水準が塩化ベンザルコニウム・クロルヘキシジンです。
- 次亜塩素酸ナトリウムは、有機物で効力が低下します。また、金属の腐食、布の脱色、酸性洗剤との混合による塩素ガス発生に注意します。
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