112PM068|第112回 看護師国家試験 過去問

Aさん(63歳、男性)は妻と2人暮らしで、肺癌 lung cancer の終末期で在宅医療を受けて医療用麻薬を使用中である。看護師が訪問したとき、Aさんは椅子に座って咳をしながら苦痛に耐えている様子であった。妻は「レスキュー薬が効くまでは苦しそうなので、何か私にできることはありますか」と訪問看護師に尋ねた。このときの訪問看護師の妻への対応で適切なのはどれか。

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正解: 3

正答

3.Aさんの背中をさすりながら傍にいるよう勧める。

この問題のポイント

在宅で終末期を過ごす肺癌患者がレスキュー薬の効果を待つ間に、家族が安全にできるケアを問う問題です。手がかりは「在宅医療を受けて医療用麻薬を使用中」「椅子に座って咳をしながら苦痛に耐えている」「レスキュー薬が効くまで」「私にできることはありますか」という言葉です。この症状は病状から予測されたもので、すでに処方どおりに対処している最中です。薬の調整は医師の指示の範囲で行うこと、家族のケアへの参加を支えることを押さえると、正答を選べます。

解説

場面の整理

  • Aさんは63歳、肺癌の終末期で、自宅で医療用麻薬による症状緩和を受けています。
  • 訪問時は椅子に座り、咳をしながら苦痛に耐えています。自分で楽な座位をとっている点にも注目します。
  • 妻の言葉から、レスキュー薬はすでに使っていて、効き始めるのを待っている段階だと分かります。
  • 妻は「何か私にできることは」と尋ねています。夫が苦しむ姿を見ながら何もできないつらさ(無力感)を抱えていることがうかがえます。

問われているのはAさんへの処置ではなく「妻への対応」です。看護師が帰った後も含めて、妻が安全に無理なく続けられることを伝える場面だと捉えます。

レスキュー薬と待ち時間の意味

がん患者に使う医療用麻薬は、徐放性製剤などの定時投与で症状の土台を抑えます。そのうえで、一時的に強まる痛みや症状には速効性製剤をレスキュー薬として追加します。レスキュー薬の1回量は、経口では定時投与の1日量のおおむね1/6(10〜20%)を目安に医師が決めます。内服では飲んですぐには効かず、効果が現れるまでしばらく時間がかかるため、その間をどう過ごすかがケアの課題になります。モルヒネなどのオピオイドには、呼吸困難感や咳を和らげる作用もあります。

家族に伝えるケア

苦痛は身体面だけでなく、不安や恐怖と結びつくとより強く感じられます(全人的苦痛の考え方)。呼吸の苦しさや咳き込みは「このまま息ができなくなるのでは」という不安で強まりやすい症状です。さらに不安が呼吸を浅く速くするという悪循環に陥りやすくなります。

そばに家族がいて背中をさすってくれると、触れられる安心感で緊張や不安がほぐれ、苦痛の感じ方が和らぎます。痛みがある場合には、さすることによる触覚刺激が痛みの伝わりを抑えるとも説明されます(ゲートコントロール説)。タッチングは器具も特別な技術も要らず、副作用もなく、妻がすぐに実行できる非薬物的ケアです。

妻にとっても「夫のために自分にできることがある」と感じられることは、無力感を和らげます。看取りに向けた心の準備(予期悲嘆)を支えることにもつながります。終末期の在宅ケアでは、家族は介護の担い手であると同時にケアの対象でもあります。そのため、家族が参加できるケアを具体的に示すことが大切です。

あわせて伝えられる非薬物的な工夫には、次のようなものがあります。

  • 上体を起こした座位や、テーブルに置いた枕に寄りかかる前かがみの姿勢(起坐位)を保つ
  • うちわや扇風機で顔に風を送る、窓を開けて空気の流れをつくる、室温をやや低めにする
  • 衣服や寝具の締めつけを緩める
  • ゆっくり息を吐くよう声をかける(口すぼめ呼吸)

正答に至る判断

この場面は、終末期肺癌で予測される症状が出現し、処方どおりのレスキュー薬で対処している最中です。緊急搬送や自己判断による増量は必要ありません。むしろ危険であったり、本人の意向に反したりするおそれがあります。本人が選んでいる楽な姿勢を変える理由もありません。

これらと比べると、背中をさすって傍にいることは、安全で、すぐにでき、Aさんの安楽と妻の気持ちの両方に働きかけます。そのため、この対応が最も適切です。あわせて、レスキュー薬を使っても苦痛が続く場合や使用回数が増えている場合は、訪問看護ステーションや主治医に連絡し、薬の調整を検討してもらうよう伝えておきます。

選択肢の確認

1.救急車を要請するよう提案する。:Aさんの症状は終末期肺癌の経過で予測されたもので、すでにレスキュー薬で対処している最中です。救急搬送が必要な状況ではありません。救急要請は病院への搬送や救命処置につながり、自宅で過ごすというAさんと家族の選択にそぐわないおそれがあります。在宅療養中に症状が強まったり判断に迷ったりしたときは、まず24時間対応の訪問看護ステーションや在宅主治医に連絡するのが基本です。転倒による外傷など病状と関係のない事態では救急要請が必要な場合もあるため、緊急時の連絡先と対応を本人・家族・医療者で事前に話し合っておきます。

2.Aさんを仰臥位にする介助方法を指導する。:仰臥位では腹部臓器に押されて横隔膜が挙上し、肺が広がりにくくなります。そのため、呼吸困難や咳のある人ではかえって苦しさが増します。上体を起こすと横隔膜が下がって換気しやすくなるので、呼吸が苦しい人は自然と座位をとります。Aさんはすでに椅子に座って楽な姿勢をとっており、仰臥位に変える必要はありません。本人が横になって休みたいと望む場合も、ファウラー位などで上体を高くするのが一般的です。家族に指導するなら、座位や前傾姿勢の保持を助ける方法が適切です。

3.Aさんの背中をさすりながら傍にいるよう勧める。:正答。触れられ、見守られている安心感が不安と緊張を和らげ、苦痛の感じ方を軽くします。安全で、妻がすぐに実行でき、レスキュー薬の効果を待つ時間を支えるケアです。「自分にもできることがある」という実感は、妻の無力感を和らげ、看取りに向けた家族の支えにもなります。

4.一度に2倍量のレスキュー薬の服用を試すよう説明する。:レスキュー薬の1回量や使用間隔は医師が決めるもので、家族や看護師の判断で変更できません。まだ効き始める前に2倍量を追加すると、効果が重なった時点で強い眠気や呼吸抑制など過量投与の危険が生じます。効果が不十分なときは、あらかじめ医師から指示された量と間隔の範囲で追加します。効かない状態が続く場合や使用回数が増えている場合は、主治医に報告して定時投与量やレスキュー量を見直してもらいます。

覚えるポイント

  • レスキュー薬は、突出した痛みや症状に使う速効性の薬です。1回量(経口では1日量の約1/6が目安)と使用間隔は医師が決め、自己判断で増量しません。
  • 効果が出るまでの待ち時間は、背中をさする、そばに付き添うといったタッチングと寄り添いで不安を和らげます。不安は呼吸困難や痛みを増幅させます。
  • 呼吸困難のある人は、上体を起こした座位や前かがみの起坐位が楽です。仰臥位は横隔膜が挙上して換気しにくくなります。
  • 呼吸困難の非薬物的ケアには、顔への送風、換気、室温を低めにする、締めつけを緩める、口すぼめ呼吸、そばにいることがあります。
  • 在宅終末期で予測された症状が強まったときは、救急車ではなく訪問看護ステーションや主治医に連絡します。この体制を事前に家族と共有しておきます。
  • 終末期の家族はケアの担い手であり、ケアの対象でもあります。家族にできるケアを具体的に示し、無力感や予期悲嘆を支えます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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