112PM095|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み94〜96の問いに答えよ。Aさん(53歳、女性)は休日に公園を散歩中、階段から落ちて頭部を強打し、意識を消失した状態で病院に救急搬送された。病院到着時のAさんは開眼せず、声は発しているが理解不能である。痛み刺激には逃れようとする動作がみられる。Aさんは右側の急性硬膜外血腫 acute epidural hematoma と診断され、緊急開頭手術を受けることになった。術前のバイタルサインは、体温37.2 ℃、呼吸数14/分、脈拍74/分、整。血圧は、搬送時の134/84 mmHg から174/66 mmHg に上昇し、痛み刺激に対する反応が消失している。このときのAさんの瞳孔の状態はどれか。

解答・解説を見る
正解: 1 または 3
正答
1.①
3.③
公式には、この2つがいずれも正答として扱われます。
この問題のポイント
右側の急性硬膜外血腫で頭蓋内圧が上がり、脳ヘルニアが進んだときの瞳孔所見を図から選ぶ問題です。手がかりは2つあります。1つは、血圧が134/84 mmHgから174/66 mmHgへ上がり、脈圧が50 mmHgから108 mmHgへ広がったこと(クッシング現象)です。もう1つは、痛み刺激への反応が消えたこと(意識レベルのさらなる低下)です。血腫と同じ右側の動眼神経が鉤ヘルニアで圧迫され、右の瞳孔が散大した③が典型所見です。脳幹の障害が進んだ段階の所見として読める左右同大の①も、公式に正答として扱われています。
解説
事例の整理
- 53歳の女性が階段から転落して頭部を強打し、意識を失った状態で搬送されました。
- 病院到着時は、開眼しない(E1)、声は出るが意味をなさない(V2)、痛み刺激から逃れようとする(M4)状態でした。GCSはE1V2M4の合計7点です。8点以下なので重症頭部外傷に当たります。
- 右側の急性硬膜外血腫と診断され、緊急開頭手術(血腫除去)が予定されています。
- 術前の血圧は134/84 mmHgから174/66 mmHgへ変わりました。収縮期は上昇、拡張期は低下し、脈圧は50 mmHgから108 mmHgへ広がっています。脈拍74/分・整、呼吸数14/分、体温37.2℃です。痛み刺激への反応は消失しており、GCSの運動反応はM1、JCSではⅢ-300に相当します。
到着時より意識が明らかに悪くなり、同時に血圧が大きく上がっています。この組み合わせがこの問題の核心です。
頭蓋内圧亢進から脳ヘルニアへ
急性硬膜外血腫は、頭蓋骨と硬膜の間にできる血腫です。典型的な原因は、側頭部の骨折に伴う中硬膜動脈の損傷です。動脈からの出血なので短時間で大きくなりやすく、CTでは凸レンズ型の高吸収域として写ります。
頭蓋骨の中は脳実質・血液・脳脊髄液で満たされ、容積はほぼ一定です。血腫が増えると、はじめは髄液や静脈血が頭蓋の外へ押し出されて代償されます。しかし限界を超えると、頭蓋内圧は急に上がります。脳灌流圧は「平均動脈圧-頭蓋内圧」で決まります。そのため頭蓋内圧が上がると、脳血流を保とうとして全身の血圧が押し上げられます。これがクッシング現象で、収縮期血圧の上昇と脈圧の拡大、徐脈、呼吸の異常が特徴です。
Aさんの脈拍は74/分で、明らかな徐脈ではありません。それでも、血圧が大きく上がったのに頻脈を伴わず、脈圧は2倍以上に広がり、意識レベルもさらに下がっています。頭蓋内圧亢進が進み、脳ヘルニアが起きている、または差し迫っている状態と判断します。
右の血腫は脳を内側・下方へ押しやります。すると右側頭葉の内側にある鉤が、小脳テントの切れ目(テント切痕)へはみ出します。これが鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニアの一型)です。テント切痕のすぐそばを動眼神経が通っているため、同じ側(右)の動眼神経がまず圧迫されます。さらに中脳が圧迫されると、意識障害の進行、反対側(左)の片麻痺、除脳硬直へと進みます。治療が間に合わなければ延髄まで障害され、呼吸が止まります。
瞳孔の変化と図の読み取り
動眼神経には、眼球を動かす線維のほかに、瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が含まれます。この線維は神経の表層を通っているため、外からの圧迫では最初に障害されます。その結果、瞳孔を広げる交感神経の作用が勝ち、血腫と同じ側の瞳孔が散大します。対光反射は鈍くなったあと消失します。圧迫が進むと、眼瞼下垂や眼球の外下方への偏位も加わります。
図は、左の列が「右眼」、右の列が「左眼」と表示されています。患者と向かい合って見たときの配置です。
- ①:左右とも同じ中くらいの大きさ
- ②:左右とも点のように小さい
- ③:右眼だけが大きい
- ④:左眼だけが大きい
右の急性硬膜外血腫による鉤ヘルニアの典型所見は、右の瞳孔が散大して左右差(瞳孔不同)が生じた③です。
一方で、瞳孔所見はヘルニアの型と進行の段階によって変わります。
- ヘルニアが進んで中脳が両側とも障害されると、瞳孔を縮める副交感神経と広げる交感神経の経路がどちらも断たれます。このとき瞳孔は左右とも中等大で固定し、対光反射が消えます。痛み刺激にまったく反応しないAさんの状態は、脳幹の障害がかなり進んだ段階とも考えられます。
- 血腫の位置によっては、間脳や中脳が下方へ押し下げられる中心性ヘルニアが主体になり、瞳孔不同が目立たないまま悪化することもあります。
- 図は瞳孔の大きさしか表せず、対光反射の有無は示せません。
こうした点から、左右同大の①も成り立つ所見と考えられます。公式にも①と③のいずれも正答として扱われています。
看護での生かし方
頭部外傷の患者では、次の項目を短い間隔で観察し、前回との変化で判断します。
- 意識レベル(GCS・JCS)
- 瞳孔の大きさ・左右差・対光反射(瞳孔計で直径を測り、ペンライトの光を外側(耳側)から当てて直接・間接の対光反射を確かめます)
- 四肢の動き
- バイタルサイン
次の変化は、頭蓋内圧亢進が急速に進んでいるサインです。
- 瞳孔不同の出現や対光反射の消失
- GCS合計点が2点以上下がるような急な意識の悪化
- 片麻痺の出現
- 血圧上昇と脈圧の拡大・徐脈
これらに気づいたら直ちに医師へ報告し、気道確保や緊急手術の準備を急ぎます。GCSが8点以下では、舌根沈下や誤嚥で気道を保てなくなるおそれがあるため、確実な気道確保が検討されます。
頭蓋内圧を上げないために、次の点も重要です。
- 頭部を15〜30度挙上し、頸部を正中位に保つ
- 努責・咳・吸引などの刺激を最小限にする
- 低酸素や高二酸化炭素血症を防ぐ(脳血管が拡張して頭蓋内圧が上がるため)
頭蓋内圧亢進が疑われるときの腰椎穿刺は、脳ヘルニアを誘発するおそれがあるため禁忌です。
選択肢の確認
1.①:正答。左右の瞳孔が同じ大きさで、選択肢3の左眼や選択肢4の右眼と同じ程度に描かれており、散大も縮小もしていません。鉤ヘルニアに典型的な瞳孔不同の形ではありません。しかしヘルニアが進んで中脳が両側とも障害されると、瞳孔は左右とも中等大で固定し、対光反射が消えます。大きさだけを示す図では、この状態は左右同大の瞳孔として表されます。ヘルニアの型によっては瞳孔不同が目立たないこともあり、公式に正答として扱われています。
2.②:左右とも針の先のように著しく縮小した瞳孔(針先瞳孔)です。橋出血などの橋の障害や、モルヒネなどのオピオイド、有機リン系農薬による中毒で典型的にみられます。本問のような小脳テントより上(テント上)の血腫による脳ヘルニアでは、動眼神経の圧迫による散瞳や、中脳の障害による中等大で固定した瞳孔が問題になります。両側の著しい縮瞳は典型的ではないため、正答には当たりません。
3.③:正答。右眼の瞳孔だけが散大し、左右差(瞳孔不同)が生じています。右側の血腫による鉤ヘルニアで右の動眼神経が圧迫されると、表層を通る副交感神経線維がまず障害されます。その結果、血腫と同じ側の瞳孔が散大し、対光反射が失われます。血圧上昇と脈圧の拡大、痛み刺激への反応の消失と合わせると、脳ヘルニアの進行を示す最も典型的な所見です。公式に正答として扱われています。
4.④:左眼の瞳孔だけが散大しており、血腫とは反対側の散瞳です。鉤ヘルニアによる散瞳は原則として血腫と同じ側に起こるため、左の散瞳ならまず左側の病変を考えます。まれに反対側の散瞳がみられることもありますが、典型ではないため正答には当たりません。片麻痺が血腫と反対側(左)に出ることとの混同や、図の左右(向かって左の列が右眼)の取り違えから選びやすい選択肢です。
覚えるポイント
- 頭蓋内圧亢進の三主徴は頭痛・嘔吐・うっ血乳頭です。急激に悪化するときは、意識レベルの低下、瞳孔不同、片麻痺、クッシング現象(収縮期血圧上昇・脈圧拡大、徐脈、呼吸の異常)が脳ヘルニア切迫のサインになります。
- 鉤ヘルニアでは、同じ側の動眼神経が圧迫されて血腫側の散瞳と対光反射の消失が起こります。中脳(大脳脚)が圧迫されると反対側の片麻痺が起こります。「瞳孔は同側、麻痺は反対側」と覚えます。
- 瞳孔の目安は、正常が直径2.5〜4 mmで左右同大です。2 mm以下が縮瞳、5 mm以上が散瞳、左右差0.5 mm以上が瞳孔不同です。
- 瞳孔所見と障害部位の対応です。
- 動眼神経の圧迫:片側の散瞳
- 中脳の障害:中等大で固定
- 橋出血・オピオイド・有機リン中毒:両側の著しい縮瞳
- ホルネル症候群:病側の縮瞳と軽い眼瞼下垂
- 急性硬膜外血腫は頭蓋骨と硬膜の間の出血(中硬膜動脈が多い)で、CTでは凸レンズ型です。意識清明期を伴うことがあります。急性硬膜下血腫は硬膜とくも膜の間の出血(架橋静脈や脳挫傷から)で、三日月型です。
- GCSは開眼4点・言語5点・運動6点の合計3〜15点で、8点以下は重症です。言葉にならない声はV2、痛みからの逃避はM4、痛みに反応しないのはM1(JCSではⅢ-300)です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。