第108回
108PM003|第108回 保健師国家試験 過去問
アルコール依存症について正しいのはどれか。
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正解4
正答
4.イネイブラーの存在によって本人の飲酒の状況が維持される。
この問題のポイント
アルコール依存症について、身体合併症、離脱症状が出る時期、再発しやすい慢性疾患であること、家族など周囲との関係を問う問題です。判断の鍵は「イネイブラー」という用語です。周囲の善意の手助けが、かえって本人が飲酒を続けられる状況を支えてしまう、という構造を理解しているかが問われています。ほかの3つは「ことはない」「1週後」「繰り返すことはない」という断定表現に注目すると、誤りに気づきやすくなります。
解説
依存症の成り立ち
アルコール依存症は、飲酒を続けるうちに次の3つが形成され、飲む量や場面を自分で調節できなくなる(コントロール障害)病気です。
- 耐性:同じ効果を得るのに必要な量が増える
- 身体依存:飲酒をやめると離脱症状が出る
- 精神依存:強い飲酒欲求がある
健康・仕事・家庭に問題が起きても飲酒が続くことが特徴です。本人は問題を小さく見積もったり否認したりしやすく、自分から支援につながりにくい傾向があります。
身体合併症
エタノールは主に肝臓で代謝されるため、肝臓は最も障害を受けやすい臓器です。進行は次のとおりです。
- アルコール性脂肪肝 → アルコール性肝炎 → 肝線維症 → 肝硬変
- 肝硬変からは、門脈圧亢進による食道静脈瘤、肝性脳症、肝細胞癌につながることがある
飲酒の指標にはγ-GTPの上昇がよく用いられます。肝臓以外の合併症として、急性・慢性膵炎、アルコール性心筋症、高血圧、糖尿病の悪化があります。ビタミンB1(チアミン)欠乏によるウェルニッケ脳症と、その後に残るコルサコフ症候群(記銘力障害・作話)も重要です。
離脱症状の時間経過
離脱症状は、体内のアルコール濃度が下がりはじめる最終飲酒後数時間から現れます。
- 早期離脱症状:最終飲酒後数時間〜2日ほどの間に出ます。手指振戦、発汗、頻脈、血圧上昇、不眠、不安・焦燥、悪心などで、けいれん発作や一過性の幻覚を伴うこともあります。
- 後期離脱症状(振戦せん妄):断酒後おおむね2〜3日目ごろから出ます。意識障害、粗大な振戦、発熱・発汗などの自律神経症状、小動物幻視などがみられます。
臨床でよくあるのは、入院や手術で飲酒が急に途絶えた患者が、数日後にせん妄を起こす場面です。入院時に飲酒歴を聴き取っておくことが、離脱の予測と予防につながります。
再発しやすい慢性疾患
依存症は一度形成されるとコントロール障害が残ります。長く断酒していても、少量の再飲酒をきっかけに元の飲酒パターンへ戻りやすいのが特徴です。治療の基本は断酒の継続で、次のような支援を組み合わせます。
- 抗酒薬や断酒補助薬
- 外来通院
- 自助グループへの継続参加:断酒会(実名で参加し、家族も参加する)、AA(アルコホーリクス・アノニマス。匿名で参加する)
再飲酒は回復の過程で起こり得るものととらえ、支援を途切れさせないことが大切です。
イネイブラーと家族支援
イネイブラー(enabler)は「可能にする人」という意味です。本人の飲酒で生じた問題を肩代わりしたり後始末をしたりして、結果的に本人が飲酒を続けられる状況を支えてしまう周囲の人を指します。具体例は次のような行為です。
- 二日酔いの本人に代わって職場へ欠勤の連絡をする
- 飲酒で作った借金を返す
- 酔って散らかした部屋を片付ける
- 頼まれて酒を買ってくる
こうした行為は、家族の善意や世間体を守りたい気持ちから生じます。しかし本人は飲酒による不利益に直面しないため、問題に気づいて治療に向かう機会を失います。また、本人の世話を焼くことに自分の存在意義を見いだし、その関係から抜け出せなくなる状態を共依存と呼び、イネイブリングと結びつきやすいとされます。
保健師は、家族を「本人を治療につなぐ協力者」としてだけでなく、「支援を必要とする当事者」としてもとらえます。保健所や精神保健福祉センターの家族相談、家族教室、家族向け自助グループ(アラノンなど)につなぎ、次の2点を支えます。
- 家族が肩代わりをやめ、飲酒の結果の責任を本人に返すこと
- 家族自身の心身の健康を取り戻すこと
選択肢の確認
1.肝障害になることはない。:アルコールは主に肝臓で代謝されるため、肝臓は最も障害を受けやすい臓器です。アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変は代表的な合併症で、肝硬変が進めば食道静脈瘤や肝性脳症、肝細胞癌にもつながります。「〜ことはない」と完全に否定しているため当てはまりません。健診でのγ-GTP上昇をきっかけに飲酒問題を把握し、保健指導につなげる場面もあります。
2.離脱症状は飲酒を止めて1週後に現れる。:離脱症状は血中アルコール濃度の低下とともに現れます。手指振戦・発汗・不眠などの早期離脱症状は最終飲酒後数時間から2日ほどで出現し、振戦せん妄もおおむね2〜3日目ごろから出現するため、1週後ではありません。急性の離脱症状は多くの場合1週間前後で落ち着いていくので、「1週」はむしろ症状がおさまっていく時期と取り違えやすい数字です。入院後の数日間の観察が重要なのはこのためです。
3.一度断酒が成功すれば繰り返すことはない。:依存症は再発しやすい慢性疾患です。長期間断酒した後でも、少量の再飲酒(スリップ)から短期間で以前の飲酒パターンに戻ることがあります。断酒は一度達成すれば終わりではありません。自助グループへの継続参加、通院、家族の支援などで、断酒を維持し続ける関わりが必要です。
4.イネイブラーの存在によって本人の飲酒の状況が維持される。:正答。欠勤の連絡の代行や借金の肩代わり、酒の買い与えなど、周囲が飲酒の結果を引き受けることで、本人は不利益に直面せず飲酒を続けられます。家族にイネイブリングの構造に気づいてもらい、肩代わりをやめて責任を本人に返せるよう、家族自身を支援対象として関わることが回復の鍵になります。
覚えるポイント
- 依存症の中核は、耐性、身体依存(離脱症状)、強い飲酒欲求、コントロール障害、問題の否認です。
- 離脱症状は、早期が最終飲酒後数時間〜2日(振戦・発汗・不眠・けいれん)、後期の振戦せん妄が2〜3日目ごろから(意識障害・小動物幻視)です。入院や手術で急に断酒した患者に注意します。
- 合併症の流れは「脂肪肝 → アルコール性肝炎 → 肝硬変」です。ほかに膵炎があり、ビタミンB1欠乏からウェルニッケ脳症、さらにコルサコフ症候群(記銘力障害・作話)に至ることがあります。
- 依存症は再発しやすい慢性疾患で、断酒の継続が基本です。自助グループは、断酒会が実名で家族も参加、AAが匿名です。
- イネイブラーは、肩代わりや後始末によって飲酒を可能にしてしまう人で、共依存と結びつきやすいです。家族も支援対象とし、家族向け自助グループ(アラノン)や家族教室につなぎます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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