第108回
108PM002|第108回 保健師国家試験 過去問
A市の地区担当保健師は、最近、家にひきこもっている40〜50代の子をもつ高齢者からの相談が増えていると感じている。この現状を地域の課題として明らかにするために優先して収集する情報はどれか。
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正解2
正答
2.相談記録からの情報
この問題のポイント
保健師が日々の活動で抱いた「最近増えている」という実感を、根拠のある地域の課題として示すために、最初に何を調べるかを問う問題です。手がかりは「相談が増えていると感じている」と「地域の課題として明らかにする」の2か所です。実感の出どころである相談そのものを、記録で客観的に確かめることが出発点になります。背景にあるのは、地域診断では新しい調査より先に手元の既存資料を活用するという原則です。
解説
問題文から読み取ること
- 「家にひきこもっている40〜50代の子をもつ高齢者」:いわゆる8050問題(80代の親と50代の子)に通じる状況です。
- 「相談が増えていると感じている」:現時点では保健師個人の主観的な感覚にとどまっています。
- 「地域の課題として明らかにする」:その感覚を、上司・同僚・関係機関・行政に共有できる客観的な根拠に変える段階です。
- 「優先して収集する」:いくつかある情報源のうち、最初に当たるべきものを問われています。
8050問題の特徴
厚生労働省のガイドラインでは、ひきこもりを次のように定義しています。
- 就学・就労・家庭外での交遊などの社会的参加を回避している。
- 原則として6か月以上にわたり、おおむね家庭にとどまり続けている。
内閣府「生活状況に関する調査」(平成30年度実施)では、40〜64歳の広義のひきこもりが約61万人と推計されました。ひきこもりが若者だけの問題ではないことが示された調査です。
この世帯には、次のようなリスクが重なります。
- 親の高齢化に伴う介護や病気
- 年金に頼る家計
- 世帯ぐるみの社会的孤立
その結果、親の入院や死亡をきっかけに、生活が急に立ち行かなくなることがあります。子本人は相談の場に出てきにくいため、実態は外から見えにくいのが特徴です。多くは、親が自分の健康や介護の相談をする中で打ち明けることで明らかになります。つまり、この種の課題を最初にとらえる窓口は保健師への相談であり、その痕跡が残っているのが相談記録です。
地域診断における情報収集の順序
地域の課題を明らかにする際は、次の順で進めるのが基本です。
- 既存の資料を活用する(人口動態統計などの各種統計、事業報告、相談・家庭訪問・健診の記録など)。
- 地区視診や、住民・関係者からの聞き取りで補う。
- それでも分からないことを、アンケートなどの新規調査で明らかにする。
既存資料はすぐに使えて費用もかからず、しかも過去にさかのぼって比べることができます。
なぜ相談記録が最優先なのか
「増えていると感じる」根拠は、保健師が受けてきた相談です。まずはそれを記録から数え直し、実感が事実かどうかを確かめます。相談記録からは、次のような量的な情報と質的な情報の両方が得られます。
- 相談件数の推移:前年度や数年前との比較
- 相談者と子の属性:親の年齢・健康状態、子の年齢・性別・ひきこもりの期間
- 地区による偏りや、相談に至った経路
- 相談内容:経済的な困窮、親自身の介護や病気、子の心身の不調、家庭内の暴力など
- それまでの対応と、関わった関係機関
こうして整理すると、実感が数字と具体的な内容で裏づけられます。同時に、どの世帯にどのような支援が不足しているのかという課題の輪郭が見えてきます。そこで初めて、足りない情報を地区視診や関係者への聞き取り、必要に応じた調査で補う計画が立てられます。
根拠がそろえば、次のような連携や事業化・施策化へ進めます。
- 地域包括支援センター(高齢の親の支援)との連携
- ひきこもり地域支援センター(都道府県・指定都市などに設置)との連携
- 生活困窮者自立支援制度の相談窓口との連携
- 家族教室の開催や、分野横断の相談体制づくり
個別支援の記録を積み上げて地域の課題を見いだす「個から地域へ」の視点は、保健師活動の基本です。記録は分析されることで初めて地域の資料になります。そのため、集計は個人が特定されない形で行います。
選択肢の確認
1.A市の人口の推移:人口の推移(総人口、年齢構成、高齢化率の変化)は地域の背景をつかむ基本資料です。しかし、ひきこもりの子をもつ世帯の実態や、相談が本当に増えているかは直接示しません。一方で、高齢者人口が増えただけで相談件数が自然に増えた可能性を検討する際の分母として役立ちます。相談記録を分析した後に補足として使う資料であり、最初に集める情報ではありません。
2.相談記録からの情報:正答。保健師の実感の出どころそのものであり、すでに手元にあってすぐ活用できる既存資料です。件数の推移で「増えている」を客観的に確かめられます。さらに、世帯の属性や地区、相談内容から課題の中身を具体的に示せます。
3.地区視診からの情報:地区視診は、地区を歩いたり車で回ったりして、住宅や道路の状況、商店・医療機関・集いの場などの社会資源、人々の暮らしぶりを五感で観察する方法です。ひきこもりは家の中にとどまっている状態なので、外からはほとんど見えません。相談が増えているかどうかも、観察では確かめられません。地域の生活環境や資源を把握する場面では有用な方法です。
4.市民へのアンケートからの情報:アンケートは、既存資料では分からないことを得るための新規調査です。企画・実施・集計に時間と費用がかかります。また、ひきこもりは家族が周囲に知られたくないと感じやすいため、回答が得られにくく過少に把握されるおそれがあります。まず相談記録で実態の見当をつけ、何を明らかにすべきかが定まってから、必要に応じて設計する手段です。
覚えるポイント
- 地域診断の情報収集は「既存資料 → 地区視診・聞き取り → 新規調査」の順です。手元の資料で分からないことだけを新たに調べます。
- 保健師の実感を地域の課題にする第一歩は、その出どころ(相談・訪問・健診の記録)を集計し、件数の推移と内容で裏づけることです。
- 相談記録には量的な情報(件数・属性・地区)と質的な情報(困りごと・背景)の両方が含まれ、課題の輪郭と次に調べるべきことを示してくれます。
- 地区視診は屋外から見える環境や社会資源の把握に強い一方、家の中の状況や見えにくい健康問題はとらえにくい方法です。
- 8050問題は、中高年のひきこもりの子と高齢の親の世帯の問題です。親の介護・病気・死亡をきっかけに困窮や孤立が表面化しやすく、親からの相談で見つかることが多いのが特徴です。
- 8050問題の主な連携先は、地域包括支援センター、ひきこもり地域支援センター、生活困窮者自立支援の相談窓口です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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