第108回

108PM038|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。人口5万人のA市のB地区では3年前から丘陵地を切り開いた宅地開発が行われており、ここ数年で人口が急増している。宅地開発は2年後に完成する予定であり、戸建て住宅や集合住宅が今後も増えていく見込みである。B地区の中心部には地区公民館があり、高齢者の集いや自治会の会合などが開かれている。令和3年度(2021年度)からB地区を担当する保健師は、地区活動計画の立案のためにB地区の地域診断を行うことにした。令和元年(2019年)の人口構成について調べた結果を表に示す。【表】 |A市|うちB地区 人口|50,000人|6,000人 0〜14歳|4,000人|1,100人 15〜64歳|31,000人|4,100人 65歳以上|15,000人|800人 世帯数|33,000世帯|3,000世帯 単独世帯|9,900世帯|600世帯 核家族世帯|19,800世帯|1,500世帯 3世代世帯|1,980世帯|600世帯 出生数|350人|80人 死亡数|550人|50人 【表ここまで】 B地区の子育て世代の健康課題を特定するため、B地区の担当保健師は市内の機関を対象としたインタビューを計画した。現時点でインタビューを依頼する機関として最も適切なのはどれか。

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正解5

正答

5.地域子育て支援拠点〈地域子育て支援センター〉

この問題のポイント

地域診断で、統計だけでは見えない子育て世代の健康課題をつかむために、どの機関へ聞き取りを依頼すればよいかを問う問題です。手がかりは「子育て世代の健康課題を特定するため」と「現時点で」という言葉です。課題をまだ絞り込めていない段階なので、特別な支援が必要な一部の家庭だけを対象とする機関ではなく、地区のふつうの子育て家庭と毎日接している機関を選びます。乳幼児と保護者が気軽に集まれる地域子育て支援拠点が、この条件に最もよく合います。

解説

担当になったばかりの保健師が、地区活動計画を立てるために地域診断を始めた場面です。まず表の数字を割合や率に直し、B地区の特徴をA市全体と比べます。

  • 年少人口割合(0〜14歳人口÷総人口×100)は、B地区が約18.3%(1,100÷6,000)です。A市全体の8.0%の2倍以上にあたります。B地区の人口はA市の12%ですが、A市の年少人口の27.5%(1,100÷4,000)がB地区に住んでいます。
  • 老年人口割合は、B地区が約13.3%です。A市全体の30.0%を大きく下回ります。
  • 出生率(人口千対)は、B地区が約13.3(80÷6,000×1,000)で、A市全体の7.0の約1.9倍です。A市全体は200人の自然減ですが、B地区は30人の自然増です。
  • 世帯構成は、B地区では核家族世帯が50.0%、3世代世帯が20.0%です(A市全体は60.0%と6.0%)。1世帯あたりの人員は、B地区が2.0人、A市全体が約1.5人です。

問題文と合わせて読むと、B地区では宅地開発で若い世代が転入し、出生も子どもも多い地区になっていることがわかります。表は令和元年の値ですが、宅地開発はその後も続いており、住宅は今後も増える見込みです。

ただし、数字からわかるのは「子どもと子育て世代が多い」というところまでです。その親子が何に困っているのかはわかりません。たとえば次のような課題が考えられますが、確かめるまではどれも仮説です。

  • 転入したばかりで、近くに知り合いや相談相手がいない。
  • 丘陵地で坂道が多く、ベビーカーでの外出や受診がしにくい。
  • 公園・小児科・保育所などの整備が、人口の増加に追いついていない。

また、3世代世帯の割合が高い一方で、核家族世帯も半数を占めています。身近な人の支援を得にくい家庭がどれくらいあるのかは、統計からは読み取れません。さらに、地区公民館の活動として書かれているのは高齢者の集いと自治会の会合だけです。子育て世代がどこに集まり、誰に相談しているのかは見えていません。

そこで、質的な情報が必要になります。地域診断では、人口動態統計・国勢調査・保健事業の実績などの量的データに、質的データを組み合わせて健康課題を明らかにします。質的データは、地区視診(地区踏査)、キーインフォーマント(地域や対象集団の実情をよく知る人)へのインタビュー、住民へのフォーカスグループインタビューなどで集めます。この問題の「市内の機関を対象としたインタビュー」は、キーインフォーマントインタビューにあたります。

インタビュー先は、「どの集団について知りたいか」と「今どの段階にいるか」の2点から選びます。知りたいのはB地区の子育て世代全体の課題で、今はその課題を特定する段階です。特別な事情を抱えた一部の家庭に関わる機関に聞くと、情報がその層に偏ります。したがって、一般的な子育て家庭と日常的に接している機関を選ぶのが適切です。

地域子育て支援拠点は、児童福祉法に定められた事業です。子ども・子育て支援法の「地域子ども・子育て支援事業」の1つとして、市町村が実施しています。乳幼児と保護者が気軽に集まって交流できる場を開き、子育ての相談・援助、地域の子育て情報の提供、子育てに関する講習などを行います。「地域子育て支援センター」「子育て支援センター」という名前で運営している市町村も多くあります。

主な利用者は、保育所などに通う前の乳幼児と、家庭で子育てをしている保護者です。職員は、特別な事情があるかどうかに関係なく多くの親子と毎日接し、孤立感や育児不安、転入してきた家庭の戸惑いを直接聞いています。そのため、地区の子育て世代の実情を幅広く話せる情報提供者になります。

実際の聞き取りでは、個々の家庭の情報ではなく、利用者の傾向やよくある相談内容を尋ねます。得られた情報は、保健師自身が持つ記録(妊娠届出時の面接、乳児家庭全戸訪問、乳幼児健康診査など)や地区視診の結果と照らし合わせ、課題を絞り込みます。拠点の職員と築いた関係は、その後の出張健康相談や健康教育、支援が必要な家庭の早期発見など、対策を進める段階でも役立ちます。

選択肢の確認

1.児童相談所:虐待を含む養護相談、障害相談、非行相談など、専門的な知識や技術が必要な相談に応じる機関です。調査・判定を行い、一時保護や施設入所などの措置をとります。設置が義務づけられているのは都道府県と指定都市で、A市のような市は通常、都道府県が設置する広域の機関が受け持ちます。子育ての相談先として思い浮かびやすいのですが、子どもと家庭の相談の最初の窓口は市町村であり、この機関が扱うのは専門的な対応が必要な事例です。そのため、ここで得た情報は地区のふつうの子育て家庭の姿を代表しません。虐待予防や要保護児童への支援を考える段階では重要な連携先ですが、課題を特定する今の段階の聞き取り先としては、情報が偏ります。

2.社会福祉協議会:社会福祉法で「地域福祉の推進を図ることを目的とする団体」と位置づけられた民間の非営利団体です。ボランティアセンターの運営、生活福祉資金の貸付の相談窓口、ふれあい・いきいきサロンなど住民活動の支援を行います。地域に根ざした組織なので選びたくなりますが、対象は地域住民全体です。子育てサロンを支援していることはあっても、子育て中の親子と日常的に接して悩みを把握している機関とはいえません。住民同士の助け合いやボランティアを活かして子育て支援の仕組みをつくる段階や、高齢者の地域活動の様子を知りたいときには、有力な聞き取り先になります。

3.母子生活支援施設:児童福祉法に基づく児童福祉施設です。配偶者のない女子またはこれに準ずる事情にある女子と、その女子が監護する児童を入所させて保護し、自立に向けて生活を支援します。退所した人の相談にも応じます。名前から子育て家庭を広く支援する機関と思いがちですが、実際は入所施設です。DVから逃れてきた母子を受け入れる役割も大きく、利用者は支援が必要な一部の母子に限られます。ひとり親家庭やDV被害を受けた母子の課題を検討するときには重要な情報源ですが、B地区の子育て世代全体の課題を知る入り口にはなりません。

4.訪問看護ステーション:主治医の指示のもと、自宅で療養する人に訪問看護を提供する事業所で、介護保険または医療保険で利用されます。利用者の中心は要介護の高齢者や在宅で医療を受ける人です。子どもの利用者は、医療的ケア児や重い障害・慢性疾患のある子どもが中心です。医療的ケア児とその家族の生活課題を知りたいときには適切な聞き取り先ですが、ふつうの子育て家庭の日常的な悩みが集まる場ではありません。

5.地域子育て支援拠点〈地域子育て支援センター〉:正答。家庭で子育てをする親子が日常的に訪れる場で、職員は多くの利用者と直接接しています。B地区から来ている親子の様子、よくある相談内容、転入した家庭の悩みを聞くことで、統計には表れない子育て世代の課題を幅広く、具体的に把握できます。B地区からの利用が少ない場合は、それ自体が「支援の場に行きにくい」という課題の手がかりになります。

覚えるポイント

  • 地域診断は、量的データ(人口動態統計、国勢調査、事業実績など)と質的データを組み合わせて行います。質的データの集め方には、地区視診(地区を歩いて住環境・交通・社会資源・人々の様子を観察する)、キーインフォーマントインタビュー(実情をよく知る人への聞き取り)、フォーカスグループインタビュー(共通の特性をもつ少人数での話し合い)があります。
  • 統計で「子どもが多い」とわかっても、「何に困っているか」はわかりません。課題を特定する段階では、知りたい集団のふつうの姿を日常的に見ている人・機関に聞きます。特別な支援が必要な一部の家庭だけを対象とする機関に頼ると、情報が偏ります。
  • 子育て世代について聞くキーインフォーマントの例は、地域子育て支援拠点・保育所・幼稚園・認定こども園の職員、主任児童委員、子育てサークルの代表、小児科医などです。保健師自身の乳幼児健診や家庭訪問の記録もあわせて使います。
  • 機関の役割の違い:地域子育て支援拠点は乳幼児と保護者の交流・相談の場(市町村の事業)です。児童相談所は専門的な相談・一時保護・措置を担う機関(都道府県・指定都市に設置義務)です。母子生活支援施設は配偶者のない女子等とその子の入所施設、社会福祉協議会は地域福祉を推進する団体(社会福祉法)、訪問看護ステーションは在宅療養者に訪問看護を行う事業所です。
  • 計算式:年少人口割合=0〜14歳人口÷総人口×100、老年人口割合=65歳以上人口÷総人口×100、出生率(人口千対)=出生数÷人口×1,000です。地区と市全体を割合・率に直して比べると、地区の特徴がはっきりします。
  • 丘陵地の新興住宅地では、転入した子育て家庭の孤立、坂道による外出のしにくさ、保育・医療・遊び場の整備の遅れが起こりやすくなります。これらを仮説として持ち、聞き取りや地区視診で確かめます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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