第108回
108PM004|第108回 保健師国家試験 過去問
保健所に民生委員から電話があり、「近所のアパートで1人暮らしをしているAさんが、大声で独り言を言って歩いているのを見かけます。心配なので保健所で対応してほしい」と相談があった。Aさん(男性、32歳)は5年前に保健所のデイケアを一時的に利用し、現在は利用を中断している記録があった。保健師はAさん宅を訪問し、精神科に定期受診し内服していること、母親が食事を届けていることを確認した。保健師が民生委員に、Aさん宅に訪問したことを伝えた上で行う説明として適切なのはどれか。
解答・解説を見る
正解3
正答
3.「これからもAさんを訪問して様子を見ます」
この問題のポイント
地域の協力者である民生委員から相談を受けて訪問した後、得られた情報をどこまで相談者に返してよいかを問う問題です。精神科の受診・服薬や家族の支援状況は、いずれもAさん本人の個人情報です。本人の同意なく第三者に伝えることはできません。守秘義務を守りながら相談者の心配を受け止め、今後も見守りの協力関係を続けられる返答を選びます。
解説
問題文から読み取る手がかり
- 相談者は民生委員で、Aさん本人でも家族でもない第三者です。
- Aさんは32歳の単身男性で、大声で独り言を言いながら歩く姿が近隣の目に留まっています。
- 5年前に保健所デイケアを一時利用し、現在は中断しています。
- 訪問で、精神科に定期受診して内服していること、母親が食事を届けていることが分かりました。
- 設問は「訪問したことを伝えた上で」行う説明を問うています。訪問した事実は伝えてよい前提で、それ以上に何を伝えるかが問われています。
守秘義務と第三者への情報提供
保健師には、保健師助産師看護師法第42条の2により、正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない義務があります。保健所の保健師は地方公務員でもあるため、地方公務員法第34条の守秘義務も負います。
訪問で分かった精神科の受診や内服は病歴に関わる情報です。個人情報保護法では、病歴は特に慎重な取扱いが必要な「要配慮個人情報」に含まれます。精神疾患には今も偏見が根強くあります。受診や服薬が近所に伝われば、Aさんの地域での暮らしに不利益が生じかねません。保健師への信頼も損なわれ、今後の支援を拒まれるおそれもあります。
民生委員にも民生委員法で守秘義務が定められています。ただし、相手に守秘義務があることは、本人の同意なく情報を渡してよい理由にはなりません。第三者への情報提供は本人の同意が原則です。例外は、生命や身体の保護のために必要で本人の同意を得ることが難しい場合などに限られます。本問では差し迫った危険を示す情報はないため、例外には当たりません。
相談者へ何を返すか
一方で、何も伝えないのも適切ではありません。民生委員は地域の見守りの担い手で、今回もAさんを心配して保健所に連絡してくれました。相談を受け止めて訪問したこと、今後も保健所が関わり続けることを伝えれば、民生委員は安心できます。その後も気づいたことを知らせてくれる関係が保たれます。実際の場面では「また気になることがあればご連絡ください」と添えると、見守りの協力関係がさらに確かになります。
継続的な関わりが必要な理由
Aさんは受診と服薬を続けていますが、大声の独り言は地域で目立っています。症状が残っていることや、近隣とのトラブルに発展することも考えられます。幻聴などの症状が影響している可能性もありますが、問題文からは断定できません。デイケアは中断しており、日中の過ごし方や社会とのつながりも分かっていません。母親の支援がいつまで続けられるかも見通せません。1回の訪問で「問題なし」と終結せず、訪問を重ねてAさんの思いや困りごとを聴くことが大切です。そのうえで、必要に応じて主治医や地域のサービスにつなぎます。民生委員に見守りを頼む場合も、Aさんの同意を得てから行います。精神障害のある人の地域生活を住民も含めて支える考え方は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」として推進されています。
選択肢の確認
1.「Aさんはお母さんの支援があるので心配ありません」:母親が食事を届けているという家族の状況も、Aさんの個人情報です。本人の同意なく伝えることはできません。また、家族の支援があっても症状や生活上の困りごとがないとは限らず、「心配ありません」と言い切る根拠はありません。このように伝えると民生委員の見守りの目がゆるみ、変化に気づく機会も失われます。
2.「Aさんは病院から薬をもらって飲んでいるようです」:「ようです」とぼかしても、受診と服薬という病歴に関わる要配慮個人情報を第三者に伝えることになります。精神科の治療を受けていると近所に知られれば、偏見による不利益を受けるおそれがあります。本人の同意があれば共有できる場合もありますが、本問では同意を得た記述はありません。
3.「これからもAさんを訪問して様子を見ます」:正答。受診・服薬・家族といったAさんの個人情報には触れていません。保健所が相談を受け止め、今後も継続して関わるという対応方針だけを伝えています。守秘義務を守りつつ民生委員の心配に応え、見守りの協力関係も保てます。服薬中でも症状が地域で目立っているAさんに継続支援が必要という判断とも一致します。
4.「Aさんにデイケアに通うよう伝えました」:問題文には、訪問時にデイケアの利用を勧めたという記述がありません。仮に勧めていたとしても、支援の内容は本人の個人情報です。「デイケア」という言葉から精神科の支援を受けていることも推測されてしまいます。また、デイケアを利用するかどうかは本人が選ぶものです。定期受診中であれば主治医との調整も必要で、保健師が一方的に決めて第三者に伝える性質の事柄ではありません。
覚えるポイント
- 本人以外の相談者に伝えてよいのは「保健所が対応したこと・今後も関わること」までです。受診、服薬、家族状況、支援内容は本人の同意なしには伝えません。
- 守秘義務の根拠は、保健師が保健師助産師看護師法第42条の2、公務員が地方公務員法第34条、民生委員が民生委員法です。相手に守秘義務があっても、本人の同意なく情報を渡してよいことにはなりません。
- 病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報です。精神疾患は偏見を招きやすく、特に慎重に扱います。
- 民生委員は厚生労働大臣が委嘱し、任期は3年、給与は支給されず、児童委員を兼ねます。
- 相談者へのフィードバックは、地域の見守りの網を保つために欠かせません。
- 受診・服薬や家族の支援が確認できても「心配ない」と断定せず、継続して関わり、本人の意思を尊重して支援につなげます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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