第108回
108PM051|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み50、51の問いに答えよ。Aさん(85歳、女性)は息子のBさん(50歳、無職)と2人暮らし。Bさんは大学卒業後に就職したが、1年前に失職して以来、自宅で過ごしている。Aさんは2週前に自宅で転倒し腰椎圧迫骨折で入院した。入院を機に要介護認定申請を行ったところ、認定結果は要介護1であった。Aさんは自宅への退院を希望しており、Aさんが入院している病院のソーシャルワーカーから、退院に向けた話し合いをしたいと地域包括支援センターの保健師に連絡があった。Aさんの入院前は、家事はAさんが行っていた。Aさんは自宅へ退院し、Bさんとの生活が再開した。在宅サービスを利用しながら、地域包括支援センター保健師、民生委員の協力も得て、AさんとBさんの生活を見守ることができていた。退院から2か月後、民生委員より「Bさんがいらいらしている様子だ。AさんはBさんに叩かれたと話していた」と地域包括支援センターの保健師に連絡があった。翌日、地域包括支援センターの保健師と社会福祉士の2名がAさん宅へ家庭訪問を行った。保健師と社会福祉士によるBさんへの対応で適切なのはどれか。
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正解2
正答
2.負担になっていることがないかを確認する。
この問題のポイント
高齢者虐待が疑われる家庭を初めて訪問したとき、養護者にどう関わるかを問う問題です。判断の手がかりは3つあります。1つ目はBさんが1年前に失職していること、2つ目は入院前はAさんが担っていた家事や介護が退院後はBさんに移ったと考えられること、3つ目は「いらいらしている様子」という変化です。高齢者虐待防止法が養護者への支援を目的の一つにしていることと、通報者を守る規定を押さえていれば、責めずに負担を聴く対応を選べます。
解説
事例から読み取れること
Aさんは85歳です。腰椎圧迫骨折の後に要介護1と認定され、本人の希望で自宅に退院しました。入院前はAさんが家事をしていたので、退院後は家事や身の回りの手助けがBさんに移ったと考えられます。Bさんは50歳で、1年前に失職してから自宅で過ごしています。収入や将来への不安を抱え、社会とのつながりも乏しくなっている可能性があります。
8050問題とは、80代の親が、ひきこもりなどで自立が難しい50代の子の生活を支えている世帯の問題を指します。親の高齢化や要介護化をきっかけに、生活困窮や孤立、介護の問題が表面化しやすく、外からの支援が届きにくい世帯として注目されています。本事例は、失職して自宅で過ごすBさんの生活を、入院前はAさんが家事で支えていたという点で、これに近い状況です。Aさんの骨折と要介護認定をきっかけに、支える側と支えられる側が入れ替わりました。
退院後の2か月間は、在宅サービスと見守りで生活が安定していました。その後、「いらいら」「叩かれた」という情報が入っています。慣れない家事や介護の疲れ、経済的な不安、相談相手のいない孤立が重なり、それがAさんへの暴力として表れた可能性があります。叩く行為は身体的虐待に当たりうるため、速やかな事実確認が必要です。翌日に2名で訪問しているのは、その対応です。
高齢者虐待防止法の考え方
高齢者虐待防止法(正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」、2006年4月施行)は、法律名のとおり、虐待を受けた高齢者の保護と並んで養護者に対する支援を目的にしています。市町村は、養護者の負担を軽くするために、相談・指導・助言などの措置を講じます。通報の受理や相談の事務は、地域包括支援センターに委託することもできます。したがって、虐待が疑われるBさんも、非難や処罰の対象ではなく支援の対象です。
また、通報を受けた市町村の職員や、委託を受けた機関の職員は、通報者を特定させる情報を漏らしてはならないと定められています。通報者を守り、地域の人が安心して通報できる仕組みを保つための規定です。
初回訪問での養護者への関わり
虐待が疑われる家庭の初回訪問では、次の2つを同時に進めることが大切です。
- Aさんの安全の確認(けがの有無、表情、生活の状況)
- Bさんとの関係の入口をつくること
2名で訪問すると、1人がAさん、もう1人がBさんと別々に話を聞けます。それぞれが本音を話しやすくなり、判断の客観性や訪問者の安全も保てます。
Bさんには、非難せずに「介護で大変なことはないか」「困っていることはないか」と尋ね、負担の中身を具体的に把握します。負担の中身が分かれば、次のような支援につなげられます。
- ケアマネジャーと連携した訪問介護・通所介護・短期入所の追加や見直し
- Bさん自身の生活や就労の相談(生活困窮者自立支援制度の相談窓口、ハローワークなど)
- 必要に応じた心身の健康相談
訪問で得た情報は持ち帰り、市町村の担当部署と緊急性を判断して支援方針を決めます。生命や身体に重大な危険があると判断した場合は、立入調査や、老人福祉法の「やむを得ない事由による措置」による分離保護を検討します。
個人だけでなく家族全体を支援の対象としてとらえることは、公衆衛生看護の基本です。養護者を追い詰めずに支援につなげることが、結果として高齢者の安全を守る最も確実な方法になります。
選択肢の確認
1.民生委員から虐待の通報があったことを知らせる。:高齢者虐待防止法では、通報を受けた市町村や委託先の職員は、通報者を特定させる情報を漏らしてはならないとされています。通報者を明かすと、Bさんが民生委員に反発して見守りの関係が壊れたり、民生委員が不利益を受けたりするおそれがあります。「通報すると誰がしたか知られる」と広まれば、地域からの相談も寄せられにくくなります。さらに、通報されたと知ったBさんは監視されていると感じ、支援を拒んだり虐待を隠したりしやすくなります。訪問の目的は、退院後の生活や介護の様子を伺う、という支援者としての関わりとして伝えます。
2.負担になっていることがないかを確認する。:正答。Bさんは失職後の生活不安に加えて、それまでAさんが担っていた家事と介護を新たに引き受けています。いらいらは、その負担の表れと考えられます。責めずに困りごとを尋ねると、Bさんは分かってもらえたと感じて本音を話しやすくなります。その結果、介護サービスの見直しやBさん自身の生活・就労の相談など、具体的な支援につなげられます。養護者の負担を把握して軽くすることは、法律が目指す養護者支援そのものであり、再発防止にも直結します。
3.Aさんを叩くことは虐待であると伝える。:叩く行為は身体的虐待に当たりうるものの、事実確認も済んでいない初回訪問で虐待と断定して告げると、Bさんは責められたと受け止めて防衛的になります。以後の訪問やサービスを拒むおそれがあり、家庭が閉ざされるとAさんの安全を確認する手段も失われて、かえって危険が高まります。虐待に当たる行為をやめるよう明確に伝えるべき場面もありますが、それは信頼関係を築き、負担の背景を理解したうえで、支援策とあわせて行うものです。「本人に自覚がなくても虐待として対応する」という知識と、「その場で本人に虐待だと指摘する」という行動は別のものなので、取り違えないようにします。
4.Aさんの施設入所を勧める。:Aさんは自宅での生活を望んで退院しており、生活の場は本人の意思を中心に決めるものです。息子のBさんに入所を勧めるのは、関わる相手も順序も違います。現時点の情報は「叩かれたと話していた」「いらいらしている」であり、生命や身体に重大な危険が差し迫っているという情報はないので、分離を前提とした対応はまだ早い段階です。緊急性が高いと判断された場合は、老人福祉法の措置による短期入所などで保護することがあり、その場合は分離が正当な選択肢になります。なお、特別養護老人ホームの新規入所は2015年4月から原則要介護3以上です。要介護1・2の人は、虐待が疑われるなどやむを得ない事情がある場合の特例入所に限られます。
覚えるポイント
- 高齢者虐待防止法の目的は「虐待の防止」と「養護者への支援」です。養護者は責める相手ではなく支援の対象であり、初回は責めずに負担や困りごとを聴きます。
- 通報を受けた市町村や委託先(地域包括支援センターなど)の職員は、通報者を特定させる情報を漏らしてはなりません。
- 養護者による虐待を発見した人の通報は、生命・身体に重大な危険が生じている場合は義務、それ以外は努力義務です。緊急性が高いときは、市町村長による立入調査(警察署長への援助要請も可能)や、老人福祉法の措置による分離保護を行います。
- 虐待の5類型は、身体的虐待、介護・世話の放棄・放任、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待です。叩くことは身体的虐待に当たり、本人の自覚の有無は問いません。
- 厚生労働省の対応状況等調査では、養護者による虐待の虐待者は「息子」が、種別は身体的虐待が、毎年最も多い傾向です。8050問題とは、80代の親がひきこもりなどで自立が難しい50代の子の生活を支えている世帯の問題です。親の要介護化をきっかけに失職・孤立・慣れない介護が重なる世帯は、早めの支援が必要なハイリスク世帯として意識します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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