111AM068|第111回 看護師国家試験 過去問
Aさん(80歳、女性)は1人暮らし。要介護2の認定を受け、長男(50歳、会社員)、長男の妻(45歳、会社員)、孫(大学生、男性)と同居することになった。長男の家の間取りは、洋室5部屋、リビング、台所である。Aさんは同居後に訪問看護を利用する予定である。訪問看護を利用するにあたりAさんの家族から「在宅介護は初めての経験なのでどうすればよいですか」と訪問看護師に相談があった。訪問看護師の説明で最も適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.「特定の同居家族に介護負担が集中しないように家族で話し合いましょう」
この問題のポイント
在宅介護を初めて始める家族に、訪問看護師が最初に伝えるべき助言を選ぶ問題です。判断の手がかりは2つあります。1つは、長男と長男の妻は会社員、孫は大学生で、全員が仕事や学業を持っているという家族構成です。もう1つは、洋室が5部屋ある間取りです。在宅療養を長く続けるには、本人だけでなく家族全体の生活を守り、家族の役割分担とサービスで介護を支える体制をつくることが基本になります。
解説
事例の整理
- Aさん:80歳、要介護2です。これまで1人暮らしで、長男宅に転居して同居を始めます。
- 家族:長男(50歳)と長男の妻(45歳)はともに会社員、孫は大学生です。日中は全員が家を空ける可能性が高い状況です。
- 住環境:洋室5部屋とリビング、台所があります。家族3人とAさんがそれぞれ個室を持てる広さです。
- 相談内容:「在宅介護は初めてでどうすればよいか」という、介護体制づくり全体への漠然とした不安です。
在宅看護では家族も看護の対象
在宅看護では、療養者本人だけでなく家族を1つの単位として捉えます。家族の健康と生活も支援の対象です。
介護が家族の誰か1人に偏ると、次のような問題が重なります。
- 身体的・精神的な疲労や睡眠不足
- 仕事との両立が難しくなること(介護離職)
- 社会的な孤立
その結果、介護そのものが続けられなくなります。介護疲れやストレスは、高齢者虐待の背景要因としても挙げられます。わが国では、主な介護者が同居家族、とくに女性に偏りやすい傾向があります。この事例でも「長男の妻が中心になるのが当然」という暗黙の役割期待が生まれやすい構造があります。
導入期に最も大切なこと
介護が始まる前は、家族の役割を決め直す好機です。体制づくりは次の順で進めます。
- 誰が、いつ、何を、どこまで担えるかを家族全員で話し合います。
- 仕事や学業で担えない時間帯を確認します。
- 家族だけで担えない部分を介護保険サービスで補います。
話し合いには、できる限りAさん本人の意向も反映させます。家族内で合意ができていれば、介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成する際にも、必要なサービスの種類と量を具体的に検討できます。
以上から、介護負担が特定の家族に集中しないよう家族で話し合うことを勧める選択肢4が、この相談に最も適した説明です。
他の選択肢に共通する落とし穴
選択肢1〜3には共通点があります。本人・家族の意向を確かめずに看護師が方法を一方的に決めてしまうか、本人と家族のどちらかに無理を強いる内容になっています。在宅での看護師の役割は、本人・家族が自分たちで選び、決められるよう情報を提供し支えることです(自己決定の尊重)。
選択肢の確認
1.「Aさんの介護用ベッドはリビングに置きましょう」:リビングは家族が集まり来客も通る共用空間です。着替えや排泄ケア、休息の場面でAさんのプライバシーが守られにくくなります。家族もくつろぐ場を失い、互いのストレスになります。この家は洋室が5部屋あり、Aさんの個室を確保できます。高齢者は住み慣れた環境からの転居で不安や混乱が起こりやすい(リロケーションダメージ)ため、使い慣れた家具を置いた落ち着ける居室が望まれます。ベッドの位置は、本人の希望、ADL、トイレへの動線、採光・換気、家族の気配の感じやすさを考え、本人・家族と一緒に決めます。見守りが頻繁に必要な終末期や、本人が強く望む場合にリビングを選ぶこともあります。ただし、導入時に看護師が一律に指定するものではありません。
2.「Aさんの介護に家族の生活リズムを合わせましょう」:家族全員が仕事や学業を持つこの家族では、生活リズムをすべて介護に合わせると就労や就学が成り立ちません。家族の心身の健康も損なわれ、介護が長続きしません。Aさんにとっても、家族に無理をさせているという負い目につながりかねません。目指すのは、Aさんの生活リズムと家族の生活リズムを両立させることです。家族が不在の時間帯は、訪問介護・通所介護などのサービスで補うよう調整します。
3.「活用できる在宅サービスをできる限り多く利用しましょう」:サービスは量ではなく、アセスメントに基づいて必要なものを選ぶのが原則です。過剰な援助は、Aさんが自分でできることを奪い、残存機能の低下(廃用)を招くおそれがあります。区分支給限度基準額を超えた分は全額自己負担となるため、経済的負担も増えます。一方で、家族の負担軽減に役立つ通所サービスや短期入所(レスパイトケア)は、必要に応じて積極的に取り入れます。「サービスを使うこと」が誤りなのではなく、「できる限り多く」という基準が不適切です。
4.「特定の同居家族に介護負担が集中しないように家族で話し合いましょう」:正答。在宅介護の継続を最も妨げるのは、介護負担が特定の1人に集中して、その人が疲弊することです。この家族は全員が仕事や学業を持つため、導入期のうちに役割分担と担えない部分の補い方を家族で話し合い、合意しておくことが最優先です。この合意が、その後の環境整備やサービス選択の土台にもなります。
覚えるポイント
- 在宅看護の対象は本人と家族です。家族全体の生活と健康を守ることが、療養を続けるための条件です。
- 在宅介護の導入期は、まず家族内の役割分担と合意形成を行い、負担の集中を防ぎます。介護負担の評価にはZarit介護負担尺度などが用いられます。
- 療養環境は、本人の意向、ADL、トイレへの動線、採光、プライバシーを考え、本人・家族と一緒に決めます。高齢者の転居ではリロケーションダメージに注意します。
- サービスは量より適切さが大切です。過剰な援助は残存機能の低下につながります。区分支給限度基準額の超過分は全額自己負担です。
- 働く家族介護者には、育児・介護休業法の制度が使えます。介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。介護休暇は年5日(対象家族が2人以上なら年10日)です。
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